シャ―――――――――――――…
目蓋の裏に感じた光に、辛うじて反応した。
直前の摩擦音がカーテンが開かれたのだと気付く。
私は頭から布団を被った。
「せつら、いつまで寝てるんだ―――――?
外はいい天気だぞ――――?
父さんと散歩でも行こうじゃないか、ん?」
(うるさい―――――………)
「もう1ヶ月経つんだよ?」
「…………」
「1ヶ月も寝たまま…、食事も殆ど食べないし、
父さんはせつらのことが心配でならないよ………。
飛鳥くんも、今のせつらをみたら心配するんじゃないかなぁ……」
「…………」
「もう夏休みも終わって新学期も始まってる。
学校に行って、友達とおしゃべりをしたり、遊んだりすれば、
少しは気分転換になるんじゃないかな?」
「…………」
「9月はお前の誕生日だったね。せつら。
その時のお前は塞ぎ込んでたから、とても言えなかったけれど――――
17歳の誕生日、おめでとう」
「…………」
「今日も黙りなのかい……?
じゃあ、父さんは仕事に行ってくるからね―――――――。
いいかい?
決して死のうなんて考えちゃいけないからね。
せつらが死んだら父さんも死ぬからね。
本当に死ぬからね」
「…………」
(………………………………………………………)
それは父からの脅迫、だった―――――…。
死を願い続ける娘を、この世に繋ぎ止めるための――――――。
全く記憶の無い私に、愛情を注いでくれた父親に対する感謝の念と、この世に生を与えてくれた彼に、対する罪悪感と、申し訳ないという気持ち―――――…
私はただ、父の為だけに、かろうじて生を繋ぎ止めていた………。
お兄ちゃんどこにいるの――――……。
帰ってきてよ………...
私は、記憶の無い兄のことを求めた。
だって彼が帰ってきてくれさえすれば、父を独りにしないで済むから。
そうすれば、私はいつでも逝けるから――――……。
お兄ちゃん。どこにいるの。
お願いだから早く帰ってきて――――――……
お願いだからお父さんの傍にいてあげて――――――――――――
そして私を殺して―――――――――――……
第54話:哀絶
終わり