Why 三巨頭?






 「さー、オールスターズ、始めるぞ!」
「自分で『オールスターズ』言うかぁ?」
「……斉木さんだし」











 「あっ、てめっ、やりやがったな!」
「内海さん!」
「畜生っ、本気出すぞ!」
「そんなあっ」










「田仲君、大丈夫?」
「広瀬…これは一種の暴力だと思うぜ」










 そんなこんなで、静岡代表掛川高校サッカー部を応援する練習試合――超豪華メンバーによるかわいがりとも言う――は7−1で終了した。
 掛川内では最もスタミナのある神谷、大塚、赤堀の三人ですら、試合直後はまともに立てない有り様だ。しかし、最後まで走っていたこの三人は、早々に潰れたチームメイトのフォローもしていたから、いつもの1.5倍は走っている計算になるので、口が利けているだけでもたいしたものだとも言える。
 一方、オールスターズのメンバーは、一人を除いて涼しい顔をしている。
 全員が実力者揃いだけに、自分の仕事に専念できる分、即席チームではあるが、自分のチームよりも楽だろう。それに、即席とは言え、ほとんどが国体選抜メンバーであるため、初めて試合をする訳でもない。
 そのため、
「トーナメント表見たけどきっついじゃないの」
 などと、すぐに言ってくる。
 だが、
「そーなんですよ」
 と、答える神谷はすでに普段に戻りつつある。
 大塚と赤堀も同様だ。
 充分に化け物の領域に達しつつあるが、本人達に自覚があるかどうかは判然としない。
 そして、神谷や大塚、赤堀は、斉木や内海と、全国の有力校の情報交換を始めた。
 オールスターズ側はどの学校も、サッカー王国静岡で優勝しておかしくない実力校である。
 どこもそれなりに情報収集をし、実際に有力校と練習試合もしている。
 練習試合はおろか、情報収集をする金も人でも実績もない掛川にとっては、涙が出るほどありがたい話である。

 しかし、その他のメンバーは、まだへばっている。
 特に、1年は地面に這いつくばるようにへたばっている。
 一部例外はいないでもなかったが、情報交換の輪の中になど、入る余力はなかった。
 そしていつの間にか、一年だけの輪が出来上がった。
 広瀬や松下――芹沢はフルにこき使われて死体である――の献身的な世話のおかげで、ようやく地面に座れるぐらいまで体力を回復した平松が、真面目な表情で、話し込む神谷達をじっと見つめている。
「どしたの、和広?」
 田仲に尋ねられた平松は、真面目な顔で言う。
「んー、誰か足りなくない?」
「足りないって?」
「いや、先輩がさ…加納さん、斉木さん、内海さん…」
 指折り数える平松に、松下が口を挟む。
「三巨頭揃ってんじゃん」
「ああ、川島さんがいなくない?」
 広瀬が言う。
「あ、星崎さんもいないな。あれ、浜野もう帰っちゃったの?」
 俺達より近いのに、と、松下が首を傾げる。
 ところがその隣で、話を振った当の本人が、全く別のことを呟く。
「んー、そう言えばどうして三巨頭なんだろうね」
「は?」
 無論、三巨頭とはこの場合、藤田東の加納、掛川北の斉木、清水学苑の内海を指す。
 この三人、静岡県内ではジュニアの頃から有名人である。
「そりゃあ、清水の三羽ガラスにあやかってでしょ」
 松下が当たり前だろ、と、答えたが、平松は言い募る。
「でもさ、あの代だと川島さんだって有名じゃない。久保さんが有名になる前は、加納さんと斉木さんがちょっと抜けた感じでさ、内海さんと川島さんがほぼ同列で続く感じでしょ。それに、三羽ガラスとは違って、全員ポジションが同じライバル同士だしさ。普通、ああいう有名な人が4人いたら、四天王って言うんじゃない?」
 その言葉に、周囲の空気が凍りつく。
 それはどう考えても禁句である。
 まして、本人達が目の前にいるこの状態では。
「ひ、平松君…っ」
「そ、それは…っ」
 田中も広瀬も青ざめる。
 よくよく平松を見てみると、まだ視線の焦点があっていない感じで、ちゃんとしているように見えて、実は理性が戻ってきていなかったのかもしれなかった。
「その話はまた今度にしよ、な?」
 引きつった表情のまま松下が平松の肩を叩いたその時。
「そりゃあ、やっぱりさ」
 ただ一人、空気というものが一切読めない男が口を開いた。
 もちろん白石である。
「川島さんの実力が落ちるって…」
 ぐごぉっ。
 と、鈍い音を立てて、白いものが白石の頭の上に落ちる。
「ひゃっ」
 その左右にいた田仲と平松は思わず体をひいた。
「聞こえてんだよ、バカ」
「川島、それはかなり痛いと思うよ」
 一応、他校の部員なんだからね、と、右手に持った缶ジュースが詰まった白いビニール袋を白石の頭に載せてむすっとしている川島を、星崎がたしなめる。
 他校の部員でなければやってよいのだろうか。
 そんな星崎も、やはり缶ジュースの詰まったビニール袋を一つ下げている。
「あ、あの、川島さん?」
「これ、3年のオゴリな。しかも買い出しまで行ってやったんだ、敬えよ」
 川島は相変わらず白石の頭の上のビニール袋を指して、言う。
「は…」
「配るのはお前らに任せる」
「はいぃぃっっ」
 アクの強い3年の中では最も穏やかそうに見える川島の思いもよらない暴力に、平伏せんばかりの勢いで田仲と平松がビニール袋を受け取る。
 ようやく頭の上の重しが取れて、白石がぶん、と、頭を上げた。
「ひどいじゃないっすか、川島さん!」
「バカなこと言ってるお前が悪い」
 きっぱりと言いきられ、引き下がると思いきや、白石はまだ言い募る。全くもって命知らずである。
「パシリなんかしてるくせに…」
「悪かったな、ジャンケンで負けたんだよ」
 川島は白石の後頭部に蹴りを入れる。
 どこの主将もやることは同じと言うことか。
「川島、川島」
 星崎が一応制止しているが、本気で止める気がなさそうなのも、同じである。
 相手が、白石だからかもしれないが。
 ところが、
「ま、俺がアイツらと一くくりにされない理由は明らかだけどな」
 川島は、顎に手を当てて言った。
「え?」
 自分から言い出すとは思ってもいなかった一同が首を傾げる。
 すると、
「知りたいか?」
 川島が、にやりと笑って言った。
 思わず、一年全員が首を縦に振る。
 すると、川島はあっさりと言った。
「それはな、俺がまともだからだよ」
「へ?」
「アイツらほど奇人変人じゃないからな、俺は。世間も一くくりにしちゃ悪いと思っているんだろうよ」
「は?」
 鼻高々に言ってのける川島に全員脱力しかかったが、先程の白石への無体を思い出し、何とか踏み止まる。
 しかし、
「かーわーしーまー?」
 川島の背後から、地を這う声が聞こえてくる。
 振り返ると、当の『三巨頭』こと、斉木、内海、加納が怖い顔をして立っている。
「だーれーが、奇人変人だってぇ?」
「事実だろ」
 三巨頭の形相はそれはそれは恐ろしいものであったが、川島はすらっとのたまった。
 付き合いが長いため、免疫が出来ているのだろうか。
「てめえに言われたくないわっ!」
「そこへなおれ!」
「ひっ」
 なおれと言うと同時に、ブン、と、音を立てて内海の拳が今まで川島の頭があった位置を通り過ぎる。
 当の川島は、素早く三巨頭の勢力圏下から逃げ出している。
「やだね」
 と言って、逃げる川島を三巨頭が全速力で追う。
「待てっ、このヤロウ!」
 その、様を見て。
「…川島さんも、充分キてるよね」
 広瀬が遠い目をして呟く。
「うん、全然見劣りしてないもんね」
 松下も深くうなずく。
「さ、このジュース配っちゃおうか」
「そだな」
 一年達は、巻き込まれまいと現実逃避する。
「待てーっっ!」
「神谷、止めた方がよくないか?」
 その鬼ごっこを眺めながら、大塚が尋ねた。
「一応先輩だからな、口出せねえよ。それにさすがに止める体力もねえしな」
「そだな」
 話を振ってみた大塚もすぐにうなずいた。
「おい、アクエリアス1本!」
 と、神谷はジュースを配り歩く1年に声をかける。
 その語尾に絶叫が響く。
「待ちやがれーーっっ!」
「やっだねーっ」
 結局、その鬼ごっこは体力の限界まで続いたのである――





『三巨頭』は同人造語です。念のため。
夕日(2005.09.16再)






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