御注意!
1.これはドリーム小説です。ドリーム小説が体質に合わない方はUターンしましょう。
2.主人公は片思いです。ドリーム小説は主人公がラブラブしていないと許せないと言う方もUターンしましょう。
3.ドリーム小説なのに芹斉ベースです。
4.すなわち冗談です。何が来ても笑い飛ばせる方のみお進み下さい。









蕪の野望






 事の起こりは春休み前のこと。
「退屈、退屈、たーいーくーつ! 何か面白いことないの!?」
 毎日、毎日変わり映えのない毎日を送り、暇を持て余していたあたしに、地元Jリーグクラブのサポーターの友達が言ったのよ。
「そんなに暇なら、クラブのボランティアでもやったら? ボランティアでも交通費とお弁当ぐらいは出るらしいよ」
 でもボランティアなんてお金にならないじゃない、と言ったら。
「何かボランティア同士の交流会もあって、たまに選手が参加したりもするらしいよ」
 え、何ですって。
 もしかして選手にお近づきになれちゃったりするの。
「めったにはないらしいけどね。はミーハーでそんなにサッカー好きな訳じゃないから、試合は見られなくったっていいんでしょ。だったら悪くないんじゃない?」
「ちょっと、ミーハーって言うのは聞き捨てならないわね」
 ほんのちょっとカチンと来て言い返してしまったけれど、実際、あたしはサッカーそのものはそれほど興味ないのよ。
 選手に芸能人みたいに興味があるだけで。
 でも、そういう女の子は結構多いと思うわ。
 それはちょっと置いといて。
「もしかして斉木さんとかにも会えちゃったりするのかしら」
 思わず食いついてしまったわ。
 地元のクラブには、あの斉木選手がいるのよ。
「え、芹沢選手じゃないの」
 友達はかなり意外そうな顔をして、隠そうともしなかったわ。
 そんなに意外かしら。
「いや、あんた面食いだから、芹沢選手が好きなのかと思ってた」
「確かにルックスはいいと思うけど、私の好みではないわ」
「あらま、意外」
 だって、芹沢さんはいかにも遊び人で不誠実そうじゃない。
 それに比べて斉木さんは、大人っぽいし、優しそうだし、誠実そうだわ(蕪ビジョン)。
「まあ、斉木選手は周りの人を大切にする人だから、チャンスはあるかもね」
 その言葉でれボランティアに応募することを決めたのよ。
 で、説明会を受けて、採用されたの。
 私はてっきり売店の売り子とか、チケットのもぎりとかだと思っていたら、責任者の人が私の身長を聞くの。
 嫌だわ、新手のナンパかしら。
「えー、155センチですけどぉ」
「そうなんだ。それならぴったりだな。今人員が足りないんで是非お願いしたいんだけど」
 と、切り出されたのが被り物の中の人よ。
 このチームは、チームマスコットと、スポンサーのマスコットの被り物が毎試合練り歩くんだけど、そのスポンサーのマスコットが蕪で、あまり手足が長い蕪は不気味だから小柄な女性しか入れないそうなの。
 そして、あたしの身長がちょうどよかったという訳。
 大変そうだし、臭そうだから嫌だったけど、たまにでいいからと拝み倒されて被り物に入ることになってしまったのよ。
 決め手は「好きな選手のサインもらってあげるから」だったけど、いまだに果たされていないわ。
 そして、この役は想像以上に大変だったわ。
 汗臭いのは予想通りだったけど、被り物は子供に大人気なのね。
 あたしにとっては、蕪に手足が生えたこの被り物はかなり不気味だと思うのだけれど、試合前とかハーフタイムとか、客席の前を歩いているとチームマスコットと一緒に握手の嵐よ。
 チームマスコットとお揃いでポーズポーズ。
 あたし達仲良しさんなのって感じで。
 お子様は大喜びよ。
 こうやって見られるのも悪くはないわね。
 見た目は蕪だけど。










 そして今日は、チームのファン感謝デー。
 お子様が沢山来るから被り物は大忙しよ。
 だから、今日は中の人役は全員集合よ。
 暑くて大変だから、皆でどんどん交代しながら回るのよ。
 しかも、このピーカンな天気は何なの。
 いつにも増して暑いじゃない!
 しかも、一番若いあたしは、一番暑い時間帯の担当よ。
 汗沢山かいて痩せるかも、と、自分に言い聞かせていざ出陣。
 でも、いざ出てみるとダイエットどころの話じゃないわ。
 蒸し風呂以上よ。
 あっという間に意識が朦朧としてきたわ。
「もうちょっと我慢してね。もう少しで控え室に着くから」
 と、お付きのおじさんに言われても、物には限度ってものがあるのよ。
 お付きというよりも、手を引かれて引っ張り回されてる感じよ。
 しかも、いつもは客席の中のお子様達と握手だからよかったけれど、今日は同じ土俵に立ったお子様達が突撃してくるわ。
 蕪と言っても平べったい円みたいな形をして、しかも素材がふわふわしているから、お子様が触りたがるのよ。
「わーい、蕪ーっっ」
 また死角から激突されたわ。
 勢いでくるりと回されて、暗い被り物の中で星が瞬いたわ。
 も、もう倒れてもいいかしら…。
 お付きのおじさんも間に合わず、耐え切れずふらあっと後ろに倒れかかったあたし。
 でも、誰かが後ろで受け止めてくれたおかげで、後頭部を激突させずには済んだわ。
「おっと」
 え、そのよく通る声は…。
 思わず後ろを振り返ったけれど、被り物の中で体を捻っても何も見えないってことを忘れてたわ。
 でも、その声を聞き間違いなんかしないわ。
「蕪ちゃん、大丈夫?」
 あたし(外見・蕪)をそっと立たせてくれたその人に向き直ると、そこには斉木さんが爽やかな笑顔(蕪ビジョン)を浮かべて立っていたのよ。
 悲鳴をあげたかったけど、もう喉がからからで声も出なかったわ。
 ああ、その広い胸に飛び込んでしまってもいいかしら。
 いいわよね、どうせあたし今蕪だし。
 と、斉木さんに被り物のまましなだれかかろうとしたら、
「もしかしなくても大丈夫じゃなさそうだね。あー、早く連れて帰ってあげて下さい」
 って、斉木さんはお付きのおじさんにあたしの手を渡してしまったのよ。
 それに、何か背後から殺気を感じるのは気のせいかしら。
「よし、お前ら、行け」
 そんな言葉が聞こえた途端、歓声を上げて子供達が大挙して突撃してきて、思わずあたしの背中を力強い腕で支えてくれてしまった斉木さんとの間で蕪がサンドイッチよ。
 後ろに倒れるのも嫌だけど、これもちょっと辛いわ。
「ごめんね、皆。そろそろ蕪はちょっと休憩してくるんだって。またすぐ戻って来るから、今は行かせてあげてねー」
「えーっっ」
「じゃあ、斉木選手サインしてー」
「ああ、いいよ。どんどん言って」
「わーい」
 歓声が聞こえて、あたしに突撃してきたお子様達が斉木さんを取り囲んだ気配がした途端、
「それ、今の内」
 って、お付きのおじさんがあたしの手を引いてダッシュよ。
 ああー、斉木さーん。
 そして控え室に戻ったあたしは、自力で被り物を脱げないほどよろよろだったの。
 他の中の人に脱がせてもらった途端、その場に倒れ伏したのよ。
「きゃー、ちゃん、大丈夫!?」
 大丈夫なら倒れたりしないわ、なんて憎まれ口を叩く気力もなく、首筋とかわきの下にアイスノンを当ててもらって、ファン感謝デーが終わるまで倒れていたのよ。
 勿論、斉木さんとの遭遇は蕪の中のあの一度きり。
 口惜しいわ。
 でも、あたしは諦めない。
 また次の機会を待つのよ!












 ファン感謝デー終了後。
「お前、さっきのはなんだよ」
 斉木が芹沢に詰め寄った。
 しかし、芹沢は蛙の面に水といった風情でさらりと答えた。
「だって、子供達があの蕪に触りたいって言ってたから」
 無論、そんな言い訳を斉木が聞く耳を持つはずがない。
「この暑いのにキグルミ来てへろへろになりながらボランティアの人が頑張ってくれてるってのに、何てことするんだよ。俺達はああ言うボランティアの皆さんに支えられてるからこそ、活動できるんだ、感謝しこそすれ、あんな邪魔するような真似して。それにあの蕪の着ぐるみって、中身女の子だろ。それなのにあんな……」
 とうとうと説教をする斉木の言葉が、芹沢の逆鱗に触れた。
 斉木の説教をさえぎり、芹沢は不機嫌さを隠そうともせずに吐き捨てる。
「だからですよ。あの蕪、蕪の分際で斉木さん狙ってましたよ」
「狙ってたなんて、そんなのありえないだろ」
 その言葉に、芹沢は舌打ちをする。 
 一体どうしたら、斉木に人たらしなのだという自覚を持たせることが出来るのか。
「だってあんな上目遣いで」
「上目遣いって、そう言うキャラクターの顔じゃないか」
「しかも抱きつこうとしてたじゃないですか」
「ありゃ意識朦朧として倒れかかっただけだろ」
 ああ言えばこう言う斉木に、とうとう芹沢がキレる。
「それでも何でも、斉木さんに必要以上に近づく奴は許しませんよ、俺はっ」
「ったく……」
 キレる芹沢ほ前にして、斉木はこめかみを押さえて溜め息を吐いた。





 ――蕪の思いは、斉木には何も通じていないのであった。
















すみません、出来心です。
選手が好きなあまり、中の人になっちゃうような女の子がいたら萌える! と言う冗談から生まれた一品です。
蕪がどんなキャラか気になる場合は、川崎Fの公式で確認して下さい。
ちなみに、実際はボランティアが被り物の中の人になることはないようです。



夕日(2006.05.14)

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