ROCK ME BABY IN YOUR ARMS

お前の気まぐれな

ハンマーが俺の

運命を変えてゆく




天使のハンマー





 「ハア……」
 ため息の主は、背中を丸めて紙袋を抱えた斉木誠、21歳。その後ろ姿はいささか情けないものを感じさせる。
 本日は、問答無用のバレンタインデイ。もらう男も贈る女も浮かれる一日。
「どうすっかな…コレ…」
 しかし、そんな浮ついたイベントの真っ最中だと言うのに、斉木のため息はどこまでも深く、重い。
 けして、戦果が芳しくなかったからではない。むしろその逆だ。
 実際、今斉木が抱えている紙袋の中に詰まっているのは、本日の戦利品で、しかもチョコレートのみである。それらに付随してきたプレゼントやカードの類は、すでにロッカーの中に収まっている。
 多分、もらった本命チョコは、20を下るまい。名門東翔大学のサッカー部で押しも押されもせぬレギュラーで、来年は主将なんかも仰せつかっている。背も高いし、顔だってまずくはない。なかなかマメな性格で、愛想だって人当たりだって人一倍よい。しかも卒業後は、Jリーガーになることさえ考えられる。

 なかなかどうして、斉木はモテる男だったのである。

 が、今となってはそれも困った話で。
 世間一般にはフリーの身と言うことになっているが、斉木はもう身が固まってしまっているのだ。
 それも、ガチガチに。
 表向きフリーとなっているのは、ひとえに相手も男だからに他ならない。しかも、自分も、相手も、どっからどう見たって男でしかありえない人種だったりするのだ。更に、自分が押し倒される方だとなると、いかな愛想がよい分、口がうっかりさんな斉木といえど、さすがに口にチャックがつくのだ。
 学内で、斉木が男と付き合っているのを知っているのは、多分、今抱えている紙袋をくれた桜井成美だけだろう。
 成美の場合、斉木が気がつくよりも先に気がつかれてしまったから、隠しようがなかった。しかし、一応沈黙は守ってくれているのでそれは助かるのだが、たまに、どう考えても面白がっていると言うか、斉木にしてみれば嫌がらせとしか思えないことをしてくれる。
 この、紙袋もそうだ。
 いつも持ち歩いているスポーツバッグからチョコが溢れて困っていたところに、計ったように現れた成美は、
「100円ショップで買ったやつだからあげるわよ」
 などと言い残してさっそうと消えてくれたのだが、それは、ピンク地に大きなハートマークのついた、いかにもバレンタイン仕様の紙袋だった。
「絶対、わざとだよなあ、これ」
 今日は、あいつと待ち合わせの約束をしている。と言うか、させられた。
 確か、あいつが今日を空けとけと言い始めたのは年明け前後で、ご丁寧にもつい先ほど、電話で釘を刺してきた。それなのに、待ち合わせの時にこんな柄の紙袋を持っていたら、あいつの神経を逆なでするのは目に見えている。
 が、部室のロッカーはすでにパンパンだし、第一、部室なんぞに食べ物を置いて置くのは気が引ける。男所帯の部室は、けして衛生的な場所ではない。
 かと言って、アパートまで戻ると待ち合わせの時間に間に合わない。なんでこんな日に限って、1限から4限までビッチリ講義が詰まっているのか、斉木ならずとも俺が一体何をした! と、喚きたくもなろう。
 が、秘密である以上は、喚いてストレスを解消することすら出来ない。
 もうにっちもさっちも行かぬ状態で、時間まで紙袋を抱えてため息をつくしか、斉木には出来なかったのである。





 さて、何の善後策も打ち出せないまま、斉木は待ち合わせ場所の校門へ、とぼとぼ歩いていた。
 やはり手にはくだんの紙袋を抱えている。
 結局、諦めた。諦めたが、足取りは死刑台に登ろうとする死刑囚のごとく重い。
 そして。
「遅い」
 校門を出た途端、不機嫌な声が投げつけられた。のろのろと足元から視線を上げれば、日本人離れした等身で、斉木さえ上回る長身の上に、長髪、伊達なサングラス、黒のロングコートと言う、どこぞのファッション雑誌からそのまま抜け出したような男が、真っ赤なスポーツカーにもたれかかっている。

 今をときめくJリーガー、芹沢直茂。

 サッカーの実力はもちろん、完璧な見てくれに世の女どもがこぞって熱を上げていると言うのに、何をとち狂ったか、斉木の『彼氏』である。
「悪い」
 その、異世界な景色に毎度のことながら目眩を覚えながら、斉木は素直に詫びた。
 ここで下手に抵抗すると、後が怖い。
 しかし、芹沢はにこりともせずあごをしゃくってスポーツカーのドアを示す。
「早く乗って下さい」
 そう言い捨てて。
 芹沢はさっさと運転席に乗り込んだ。斉木は、首に縄をつけられた犬のように、その言葉に従うより他になかった。





 芹沢の運転で連れてこられた先は、芹沢のマンションだった。正直、とんでもないところに連れ込まれるのではないかと言う危惧を抱いていた斉木としては、少しだけ安心した。
 バレンタインで男女がいちゃつくスポットに、こんなでかくてごつい男が二人で出没するのは、どう考えたって異様な光景である。しかも、斉木はまだ比較的周囲に溶け込める容姿だが、芹沢という男は、目立つのが生まれ持った運命のような人間で、何故か人が多ければ多いほどより目立つ。
 そんな男がこんな日に男連れなんぞで歩いていたら、悪目立ちするのは火を見るより明らかだ。
 まあ、密室で二人っきりともなれば、あんなことやらこんなことやらついて来るんだろうなと想像は出来るが、外で泣きたくなるほど悪目立ちするよりはまだマシだ。
 しかし。
 今日は半端でなく芹沢の機嫌が悪い。
 運転中からマンション地下の駐車場に車を止めて、部屋にたどり着くまで、芹沢は終始無言だった。下手に声をかければ突き刺さるような言葉しか返ってこない気配だと経験上身に染みているので、思わず斉木も口数が少なくなる。
 だが、さすがに広いリビングに足を踏み入れた途端、斉木は間抜けな声を上げた。
「何だ、これ」
 いつも通り、きれいに片づけられたリビングの壁際に、この部屋にはそぐわない無骨なダンボールが3箱と、炭カル入りのゴミ袋に紙屑が詰まって転がっていた。
 思わず口に出してから、今日がどういう日だったか、斉木はようやく思い出す。ついつい思ったことを考える前に口に出してしまう癖は、どうにも抜けない。
 今日の芹沢の機嫌からして、罵倒される覚悟を決めたが、意外にもサバサバした声が返ってきた。
「昨日、事務所に届いた中でいるモンだけ持って来ました。いいですよ、開けて」
「昨日? それでこんなに?」
 斉木は、紙袋をしっかり抱えたまま、ダンボールの中を覗き込む。
「荷物ぐらい、置いたらどうです?」
 刺々しい声で言われて、それもそうだと、斉木はようやくスポーツバッグと紙袋を手放す。
 それからもう一度ダンボールの中を覗くと、一つ目の箱にはそろいもそろって高い酒ばかりが並んでいる。
「これ、ドンペリじゃん。すごいな」
「飲みますか」
 ダイニングでコーヒー淹れながら、芹沢があっさりと言った。
「俺、インタビューか何かで好きだって言ったらしいんですよね。覚えてないんですけど。そしたら」
「はあぁ、あるところにはあるもんだな」
 そう呟いてから、斉木は自分が何も用意していなかったことに思い至る。実は考えなかった訳ではないのだが、この時期はどこへ行っても女で溢れていて、思わず引いてしまったのだ。
 だが、そんな斉木の思いを読み取ったかのように、ダイニングから顔を出した芹沢が言った。
「ああ、あんたは気にしないでいいですからね。貧乏学生から何か毟り取ろうなんて思ってないですから」
「貧乏学生って、おまえ…」
「そうでしょ。違うって言うならその手は?」
 チラリ、と、芹沢は小馬鹿にするような視線を投げつけてきた。箱の中からしっかりドンペリを取り出していた斉木は、引きつった笑いを浮かべた。
 やはり、芹沢の機嫌はフテ寝している。斜めどころの騒ぎではない。
 こういう時は、何か斉木がご機嫌を損ねるようなことをしているはずなのだが、ここまで悪くなるほどの心当たりが、斉木にはない。
 場を取り繕うように、斉木は苦笑いを浮かべながらソファに移動する。が、ドンペリはしっかりつかんだままだ。
 と、斉木は何かを思い出したように、手にしたドンペリと、芹沢を見比べた。
「…どうしました?」
「いや…。芹沢、おまえ、誕生日3月12日じゃなかったっけか」
「…そうですけど」
「そうだよな。…って、やっぱりまだ未成年じゃないか」
 驚いた声を上げる斉木に、芹沢は整った唇を引き結んで、プイとダイニングに消えてしまった。
「選手宛てに来たからって、普通、未成年に渡すかぁ? 何にも考えてないな、スタッフ」
 斉木はついついいつものクセで、芹沢の機嫌が悪かったことも忘れて先輩風を吹かし始める。
「おまえも気をつけろよ。いっつもマスコミに貼りつかれてんだし」
 つまんねえことでつまずいてもしょうがねえだろ、と、まじめな顔で呟いていると、芹沢がペアのコーヒーカップを持って再び現れる。そして、乱暴にローテーブルの上にカップを置くと、返す動きで斉木の首を抱いた。
「げっ!」
「…なあんで、あんたって人は、無自覚にそういうことすんでしょうねえ」
「だあぁっ、離せ! 俺が何をした!」
 首根っこを押さえられて、斉木は逃げようと暴れるが、座った状態では立っている芹沢に敵わない。斉木の肩口に顔を埋めたまま、芹沢が呟く。
「女にもらったチョコレートなんか後生大事に抱えてイラつかせると思えば、今度はさりげなく人の誕生日なんか言い当てて喜ばせるんですもん。性質悪いですよ、あんた」
 芹沢の呟きに、斉木は口を開きかけて慌ててふさぐ。

 実は。

 立派なマメ男の斉木は、芹沢だけではなく、ユースや大学のチームメイトはもちろん、親や親類縁者に至るまで、きっちり誕生日を覚えていたりするのだ。
 が、そんなことは言わない方が、お互いに幸せなのだ。





 …多分。










 れっつ、ちゃれんじ、あまあま。
 そして、当たって砕けて粉みじんの上に、粉砕機にまでかけられた気分…。
 うわあぁぁん、ごめんなさいぃぃぃっ。 夢見ちゃったんですうぅ、cubic loversを読んだ時に、このカップリングならあまあま書けるかもなんて…。
 私には無理な話でした(泣)。何か、甘いんだかお笑いにしたいんだか、よく分からない中途半端な読後感がやな感じ(爆)。
 今後はちゃんとお笑いネタを探してくるので、許して下さい。もう二度とやりません。
 さちさんに見せてからちょこちょこ手を入れたんですが、どうにもならんものはならなかったです。
 タイトルがどうしても思いつかず、また、FENCEの曲から引っ張りました。で、さちさんのモノ真似して、歌詞もつけてみました。本当は荒木さんの曲から引っ張ろうと思っていたんですけど、基本的にセクシー系なので、ちょっと今回は無理でした。もうちょっと聞き込んで、ネタを練ってみます。だって、私にとって芹斉はあまあまだから。久保神でも思いつかないってのに、何故にこんなゴツイ兄ちゃん二人で(笑)。
 が、ここからは朗報。
 さちさんがここからリレーしてくれるって。
 そうと決まりゃあ、恥を忍んであげますとも。何せバレンタインの話だからなあ、あんまり間が空くと間抜けなんで。早い方がいいでしょということで、速攻であげます。どうせこれ以上はどうにもならないんだし(死)。
 まあ、とにかく、待て、(さちさんの)次号。

役立たず夕日