困惑の距離






 「参ったなあ」
 斉木は胸のポケットから煙草を取り出して1本くわえ、周囲を見回した。
 何もかもがきれいに整いすぎたモデルルームのような部屋は、初めて訪れた芹沢のマンションである。
 たまたま自分の誕生日に行われた、海外の名門クラブチームの親善試合を一緒に観戦した内海と別れた後、芹沢と合流して居酒屋で食事と酒を奢ってもらった。
 試合が想像以上に白熱したので、かなり熱く語った覚えがある。
 すると芹沢が提案したのだ。
『今日のペイパービューを録画してますよ。うちはフォームのチェック用に大画面のテレビもありますから、泊まって観て行きますか?』
 と。
 対して、実に気分よく酔っていた斉木は、
『マジ? 寄る、寄る。見せてくれ』
 と、二つ返事で決めてしまったのだが、次第に酔いが醒めて来て、かなり困った事態なのではなかろうかと思い始めている。
 芹沢は寮を出て一人暮らしだ。
 一人暮らしの部屋に、『恋人』が泊りに来る。
 このシチュエーションはさすがにまずいよなあ、と斉木でも思う。
 同じ男だけにこんな時どう考えるかなどまる分かりだ。
 ただ、問題は。
「これが女なら流されていいと思うけどなあ」
 斉木はライターを握った自分の手を見る。
 日に焼けたゴツい男の手だ。
 だからどうしてこんなゴツい男を、と、斉木の思考はそこに行き着き、そうして思い切りよく放り投げた。
「まあ、男なんだからどうこうって話はないだろ」
 斉木が一人納得して、ライターで煙草に火をつけようとしたその時、キッチンからコーヒーを持って来た芹沢に見咎められた。
「すみませんけど斉木さん、うち、禁煙なんで」
 言いながら、マグカップをガラスのローテーブルに置く。
「あ、ごめん」
 と、斉木は慌ててライターの火を消す。
 すると、芹沢が顎で南に大きく開いた窓を示した。
「どうしても吸いたかったら、ベランダ行って下さい」
 ほたるは切ないが、少し間を取りたかった斉木は、うなずく。
「あー、悪い。ちょっと借りるわ」
 と、ベランダに行きかけた斉木は、ふと振り返って聞いた。
「そう言えば、お前は全然吸わないのか?」
 芹沢は即答する。
「歯が黄色くなるから嫌です」
 その答えを聞いて、斉木は微笑する。
「お前らしい理由だな」
 それじゃちょっと、と、ベランダに出てしまった斉木は、芹沢が苦々しい表情をしたことを知らない。





 ベランダでくわえた煙草に火を点けて、ゆっくりと立ち昇る紫煙をぼんやりと眺める。
 紫煙の中に、あの時の芹沢の姿がよみがえった。
『斉木さん、好きです。俺と付き合って下さい』
 斉木も見たことがないほど余裕のない表情だった。
 だが、その瞬間まで芹沢をかわいい後輩と信じて疑わなかった斉木は、最初何を言っているのか分からなかった。
 随分時間がかかってようやく解した言葉は、斉木の常識の範囲を軽く飛び越えていた。
 からかわれているのだと思った。
 しかし。
『俺の恋人になって下さい』
 そう告げた時の真摯な眼差し。
 真実なのだと、直感が告げた。
 あのルックスと、何より本人がそう見せたがっているために何事にも斜に構えたイメージが強いが、芹沢は根は真面目で、むしろ一本気とさえ言ってもいい。
 やにさがった表情をしている時はともかく、あれほど真剣でまっすぐな眼差しをしている時に、冗談を言ったり、悪ふざけをするような人間ではないことを斉木は知っている。
 芹沢は本気だった。
 けれどだからこそ、斉木はそれを一時の気の迷いだと判じたのだ。
 何しろあの見てくれだ。
 芹沢が女に困ったことなどあるはずがなく、実際プロデビューしてから噂になったのは、芹沢と並んでも見劣りのしない美女ばかりだった。
 そして斉木は、美女達との交際が噂だけではなくて本当だったことを知っている。 
 そのどれもあまり長続きしなかったことも、知っているが。
 されはさておき、斉木は逆立ちしたって女には見えないどころか、並みの男と比べてもはるかにゴツい男で――芹沢だってそのことはよく分かっているはずだ。
 そんな芹沢がわざわざ同じもんがついている男を選ぶなんて、からかっているのでなければ気の迷い以外、斉木には考えられなかった。
 もっとも、冗談にせよ気の迷いにせよ、同性である自分を恋愛対象として見ていると言い出した芹沢に嫌悪感を抱いたなら話はまた違っただろうが、不思議と嫌悪感は感じなかった。
 芹沢の告白は、斉木自身の常識の枠をはるか遠く飛び越えてしまっており、現実感を伴わなかったのも事実である。
 だが何より、あんなに芹沢が痛ましく見えたのは初めてだったのだ。
 必死の表情で、斉木に悩む時間さえ与えずに縋って来る芹沢など、あまりにもらしくない。
 疲れているのかな、と、斉木は思った。
 何か誰にも言えない悩みがあって、逃げ場所のようなものが欲しいのだったら、何となく斉木を選ぶのは分からないでもない。
 斉木は悲しいかな、仲間内では『いい人ね』で終わる男の代名詞である。
 逃げ場所が欲しいなら別に、『恋人』などと言う無理矢理な肩書きなど作らなくても可能な限り付き合うのに、とは思ったのだが、それを口にするのも憚られるほどの迫力が、あの時の芹沢にはあった。
 そうして、斉木はうなずいた。
 どの道芹沢の目が覚めるまでの短い間のこと、と、斉木はたかを括っていたのだ。
 芹沢は、サッカーを除いた全てにおいて、少々飽きっぽい性質である。
 だが、その芹沢の気の迷いは晴れる気配もないまま約一ヶ月が経過し、そうして今日この事態である。
「一体どうしたもんかねえ…」
 答えは出ない。
 斉木は一つ頭を振って、煙草を携帯灰皿に放り込んだ。





 斉木がベランダから戻って来ると、芹沢はローテーブルからリモコンを取り上げた。
「撮れてますよ。すぐに観ますか」
「おう、頼む」
 と、斉木は芹沢が腰掛けていたテレビ正面のソファに並んで腰を下ろす。
 腕を伸ばせば簡単に肩を抱ける距離であることなど、斉木は考えてもいない。
 準備していたのだろう、芹沢がリモコンのボタンを押すと、すぐに試合が始まった。
 立ち上がりはロースタートだった。
 前半は終了間際まであんまり動かなかったんだよな、などと思っていると、ふと、視線を感じた。
 横を向くと、芹沢がまじまじと見つめている。
「どうした?」
 声をかけると、はっと我に返ったような表情をする。
 やはり何か悩み事があるのだろうか。
「何か言いたいことがあるなら言っとけよ?」
 案じる斉木の問いかけに、芹沢は予想もしていなかったことを問い返した。
「斉木さんは何で煙草吸うんですか?」
「は? …ああ、何となく気分? 周りに吸う奴がいるからな」
「…煙草ってそんなに美味いもんなんですか?」
「うーん、別にそんな美味いとは思わないな」
 他愛のない雑談だと思った斉木は気軽に答える。
 と、
「へえ」
 芹沢が深く笑んだ。
 その目に、斉木はぞくりとした。
「俺、知らないんです。どんな味がするのか、教えて下さいよ」
 言って、芹沢が斉木のうなじへと手を伸ばす。
「うわ!」
 芹沢の整った顔が大写しになった瞬間、斉木は反射的に腕を突っ張った。
 ちょうど芹沢の顔面へ張り手を食らわすような格好になった。
 斉木の腕を芹沢は必死の表情でかわす。
 その隙に斉木は跳ねるように立ち上がり、胸を撫で下ろした。
「お前、驚かすなよな」
「それはこっちの台詞ですよ」
 芹沢が額を拭った。
「危なかった、指が目に入ったりしたらどうしてくれるんですか」
 必死の表情は本当だったらしい。
「ああ、それは悪かった。びっくりして、つい」
 斉木は素直に謝りながら、その一方で芹沢が女たらしだった事実を再認識する。
 男の自分でも心臓に悪いほどなのだ。
 あの整った顔であんな風に迫られて落ちない女はいないだろう。
 そんなことを暢気に考えている斉木の前で、芹沢が何かたくらんでいる笑みを浮かべた。
「じゃあ、キスして下さい」
「あ?」
 険悪な声を出す斉木にも、芹沢は動じない。
 笑顔で告げる。
「キス一つで許してあげますよ」
 一方の斉木は苦虫を噛み潰したような表情になる。
 斉木は、『恋人』としてどれだけねだられてもキスを許していない。
 酒でも入っていればともかく、そうでないならあれは好きあった者同士でするものだ。
 好きか嫌いかと問われれば、間違いなく芹沢は斉木にとって好きな部類に入る。
 だが、その『好き』はけして恋愛感情ではない。
 気に入っている、と言うのが一番正しい。
 後で気の迷いが晴れた時に、わだかまりを残しそうなことはしない方がいいと思うのだ。
「何の関係もないだろ、それは。そもそもお前が変なことしなけりゃこんなことには」
「変なことって何ですか。俺はただ煙草の味を教えてくれって言っただけですよ」
 などと、白々しくのたまう芹沢に、斉木は匙をまとめて投げた。
 画面を見ると試合は既に後半が始まっている。
「もういい…」
 斉木はこめかみを押さえて言った。
「え?」
「もう寝る」
「ビデオは?」
「見る気失せた」
 斉木は溜め息を吐く。
 ゆっくり寝て素面になれば、芹沢もあんな悪ふざけをする気にはならないだろう。
 芹沢は拍子抜けしたような表情をしていたが、すぐに立ち上がって言った。
「じゃあ、その前にシャワー浴びますか」
「ああ」
 バスルームを借りてシャワーを浴び、リビングに戻るとベッドルームに案内される。
「俺もシャワー浴びてきますから」
 そう言い残して、芹沢はベッドルームを出て行った。
 斉木は馬鹿でかいキングサイズのベッドに腰を下ろす。
 室内はエアコンで快適な温度に保たれている。
 スター選手らしい豪華なマンションと言えばそれまでだが、一人暮らしにしては部屋数が多くてしかも広いと斉木は思う。
 その上、どの部屋もかなりきれいだ。
 着替えたシャツを洗ってもらった洗濯機は、乾燥までやってくれる最新式だったので手間はかからないだろうが、掃除は機械が全部やってくれるものではない。
 やっぱり彼女とかが身の回りの世話とかしていたのかな、と、斉木は考える。
「でもま、俺には関係ないか」
 斉木はベッドに身を投げ出した。
 固めのマットレスが気持ちよい。
「今日は疲れたよなあ…」
 大きな欠伸をする。
 斉木は元々寝つきのよい方だ。
 あっという間に眠りの国に引き込まれて行った。





 「…さん、斉木さん」
 意識が眠りの底から浮上したのは、背中に誰かの体温を感じたからだった。
 名前を呼ばれているのだと気づく前に、何者かの手が背後から前に回った。
 斉木は、完全に覚醒する。
 耳元の囁きよりも何よりも、手がとんでもないところを這い回ったせいだ。
「ちょ、ちょっと待てっっ」
 寝つきがよい分目覚めもよい斉木は、いきなり声を張り上げた。
「こらっ、何触ってんだよ!」
「何って、ナニを」
 背後にぴったりと寄り添っているらしい芹沢の表情は見えないが、その罪の意識など欠片も感じられない声に、斉木は顔面を朱に染めて怒鳴る。
「お前、ふざけんなよ! 離…っう…」
 いたずらする手を引き剥がそうとしたが、下着の上から分身を握りこまれて斉木の動きが止まる。
「ふざけてるのはあんたでしょ?」
 芹沢の声は相変わらず斉木の焦りなどどこ吹く風と言わんばかりの雰囲気で、悪戯を続ける。
「全く、あんたを好きだって言ってる男の部屋のベッドで熟睡するなんて、そんな隙だらけじゃヤられても文句言えないと思いませんか?」
 指摘されれば全くその通りだが、何よりも斉木は悪戯を止めさせるために謝った。
「わ、悪かったよ、反省する。だから、やめ…」
 与えられる刺激に素直に反応してしまう体に冷や汗をかきながら、斉木は抵抗する。
 だが。
「駄目」
 芹沢は言下に答えた。
「いい加減、ちゃんと分かってもらわないとね」
「何を分かれ…うわっ、マジで待て!」
 そう宣言した瞬間、ずっと下着の上から刺激を与えていた芹沢の指が下着の中に滑り込み、勃ち上がりかけていた斉木の分身を外へ引き出した。
 斉木は反射的に逃げ出そうとする。
 だが、腕を振り払って逃げ出そうにも、急所を支配された状態ではいかんともしがたい。
 別に斉木とても他人に触られるのは初めてではない。
 しかし、自分よりも体格のいい男にどうにかされることなど考えたこともなかったのだ。
 芹沢はちゃんと告白しているのだから、考えが甘いと言われればそれまでだが、一時の気の迷いと思い込んでいた斉木が焦るのは当然だろう。
 そんな斉木の心情に気づいているのか、芹沢は宥めるような手つきでやわやわと揉みしだきながら、耳元で囁く。
「大丈夫、すぐによくしてあげますから」
 言いながら、裏の合わせ目を長い指で根元から撫で上げる。
 思わず斉木の口から声が漏れた。
「あっ」
 今までの怒鳴り声とは明らかに違う響きに、芹沢が尋ねる。
「ここ、感じるんですね」
「ち、違…っ」
 抵抗は、行動によって封じ込められる。
 同じ動きを繰り返されて、力を得た分身が硬く反り返る。
 先走りを零し始めた鈴口を押し広げられるように指で刺激されて、声を飲み込むので精一杯だ。
「男同士なんだから、別にそんな照れることもないでしょ?」
 照れている訳ではないことを知りながら、揶揄する芹沢は手を止めない。
「すぐにいかせてあげますよ」
 その言葉通り。
 斉木はあっさりといかされてしまった。
 斉木はしばし呆然とする。
 自分以外の男の手で達っせさせられてしまったショックで、頭の中は真っ白だ。
 だが、すぐに我に返って逃げ出そうとする。
 腰の辺りに熱い塊を感じたせいだ。
 しかし、脱出は叶わなかった。
「ねえ、分かるでしょ。俺、斉木さんでこんなに興奮してるんですよ」
 それどころか芹沢の長い腕に抱き締められて、より強く押し付けられる。
「俺にもやって下さいよ。そうしたら今日は許してあげます」
 熱い吐息を耳に吹き込まれて、斉木は首をすくめた。
 肌が粟立っている。
「や、待て、ちょっと止め…!」
 斉木は何とか体を離そうと体を捻ったが、逆に仰向けの状態に組み伏せられる。
 柔らかい光の中に浮かび上がった芹沢の表情に、斉木の抵抗が止まる。
 恍惚の表情の中、熱っぽく潤んだ視線が斉木を見つめている。
「やってくれなかったら、俺、勝手にいっちゃいますよ」
 と、芹沢は硬く猛ったモノを斉木の太ももに軽く擦りつけた。
 その、意味するところは明らかで、冷や汗が流れる。
 男にダッチワイフ代わりにされては、それこそ男の沽券にかかわる。
「わ、分かった、やるから、それだけは勘弁してくれっっ」
 それはほとんど悲鳴だった。
 それでも芹沢は満足そうににんまりと笑った。
「じゃ、お願いしますね」
 そう言って取り出された芹沢のモノは、グロテスクな凶器に見えた。
 本当のところを言うと、斉木が芹沢のモノを見たのはこれが初めてではない。
 体育会で合宿を繰り返していると、自然他人のモノを目にする機会は増える。
 だが、過去の合宿で見たモノと今は、まるで別人のモノのような錯覚を覚えるほど、全く印象が違って見えた。
 猛る芹沢の欲望は、自分に向けたものだと分かっているからだろうか。
 斉木は恐る恐る手を伸ばす。
 何しろ自分にも同じモノがついているのだから触るのは初めてではないと言うのに、握った瞬間手を離しそうになってしまい、辛うじてこらえる。
 そうして、ゆっくりと扱き始める。
 とは言え、芹沢が斉木に施したように相手の快感を刺激するためではなく、おっかなびっくりただ扱くだけだから、それほど気持ちよいはずがないと斉木自身思う。
 しかし芹沢は快楽の表情を浮かべ、熱い吐息を吐いている。
「あ…斉木さん…いいっ」
 その表情に、斉木はひどい衝撃を受けた。
 ――まさか。
 芹沢は、斉木の稚拙な刺激でも、快楽を感じている。
 ――こいつ、まさか本気で俺のことが好きなのか?
 慌てて手を離そうとしたが、叶わなかった。
 芹沢の分身をつかんだ斉木の手を、長い指が包み込んだせいだ。
 何をする、と、斉木が言う間もなく、芹沢は斉木の手ごとつかんで扱き始めた。
 やはり斉木の何も考えていない動きだけでは、達するための刺激が足りなかったのだろう
「っはぁ…斉木さん、さ、いき、さん…」
 芹沢は、斉木の名を呼びながら果てた。
 斉木は手をつかまれているために逃げ出すことも出来ず、ただ、きれいに八つに割れた腹筋に飛び散る白濁した液を眺める。
 ――どうしよう、まずいんじゃないか。
 ――こいつ、本気で俺のことが好きなんだ。
 脳裏で言葉だけがぐるぐると回る。
 斉木は芹沢が手を離したことも気がついていない。
 芹沢は放心している斉木を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「すごいよかったです」
 言われて、斉木は顔を上げた。
 息を整えた芹沢が斉木に笑いかける。
 幼く見えるほど穏やかな笑顔で。
 斉木の表情が歪む。
 斉木は芹沢の手を払おうとしたが、芹沢は許さなかった。
「これ以上は何もしないから、もう少し抱き締めさせていて下さい」
 正面から抱き締められた斉木は少しでも隙間を作るように芹沢の胸に右手を当てて押した。
「こんな硬いの抱き締めたって、面白くとも何ともないだろ」
「そんなことないですよ。俺の心臓、どきどきしてるでしょう」
「そりゃ、いったせいだろうよ」
「色気のないこと言わないで下さいよ」
 拗ねる口調で言った斉木に、芹沢が声を立てて笑う。
 だが、長くは続かない。
 思い詰めた表情で、芹沢は言った。
「…俺のこと、気持ち悪いですか?」
 そうだと言ったら、こいつはどうなってしまうのだろう、と、斉木は思った。
 こんな、張り詰めた顔をして。
 それでもここできれいに終わらせてしまった方が、まだお互いに致命傷にはならないで済むのだろうか。
 斉木は目を伏せて、静かに首を横へ振る。
 自分の気持ちに嘘をついてはいけないと思う。
「驚いただけで別に…でも、ごめん」
 一番驚いたのは、気持ち悪いとは思っていない自分自身だ。
 だが、今のこの状態は正しくない。
 斉木は、芹沢を突き放した。
「俺はお前のことが好きだけど、そう言う意味で好きなんじゃないんだ」
「分かってますよ」
 対する芹沢は、突き放した斉木の手首をつかんで答えた。
「それでもいいんです。嫌われてないならそれでいいって本気で思えるぐらい、俺は斉木さんのことが好きなんです」
 その瞬間、斉木は芹沢の腕を振り払って、ベッドから飛び降りた。
「ごめん」
「斉木さん?」
「俺、帰るよ」
「何言ってるんですか、この時間じゃ電車もないでしょう」
 ベッドサイドの時計を確認した芹沢が慌てて言う。
 時計は午前二時を回っている。
「コンビニででも時間潰すから平気だ」
 そう言って、斉木は振り向きもせずにベッドルームを後にした。
 振り向かなかったのは、顔を見られたくなかったからだ。
 脱衣所に脱ぎ捨ててあったジーンズを履いて、バッグをつかんで部屋を飛び出す。
 芹沢は追って来なかった。
 豪華なエントランスを出ると、静まりかえった周囲にオートロックの音が響いた。
 もう後戻りは出来ない。
「…まずはコンビニ探さないとな」
 自分に言い聞かせるように呟く。
 芹沢にはああ言ったものの、初めて訪れたところなのでコンビニがどこにあるかも分からなかった。
 右も左も分からぬ闇の中に足を踏み出す。
 胸の辺りが苦しいのは、地理に疎くて心細いせいだ。





 ――俺は、一体どうしたらいい?















まさか気の迷いとかじゃなくて、本気なんじゃ(ひどい)。

って、メモに書いてありました。
本当にひどいと我ながら思います。
いろんな意味で…。
エロを期待された方がいたら申し訳ありませんが、この斉木だと初回はこの辺が限界だと思います。
一応裏行きにはならないように抑えてますし、そもそも私の書くエロは全然エロくないので、今後も期待はされない方がよいと思われます。
へたれですみません。
でも、斉木に関してはこのシリーズの斉木の方が、私が原作に抱いている斉木のイメージには近いです。
原作の斉木って、気ぃ遣いのようでさりげに人の気持ちを考えてないところがあるように感じるんです、私は。
芹沢は、違いますが。
芹沢はもっとたらしって言うか、こましって言うか。
いつかは斉木に「もしかして俺は芹沢を好きなのか?」と思わせるぐらいのこましな芹沢に書いてあげたいものです。



夕日(2005.07.25)

よろしかったら押してやって下さい。



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