(注!「慟哭」とは無関係でありんす。)
(注 2!シリアスだと思ってはいけません!)
(注 3!神谷受けでないとダメなひとは読んではいけません!)
(注 4!恐ろしいことに芹×斉だから!!)
(注 5!!うわあああああああああああん!!やっちゃったああああ!)
「思ったより、小さいんですね。」
Cubic Lovers
ふざけるんじゃねえ、大体お前らがでか過ぎるんだろう!!
咽喉まで出かかっていた言葉に、追い討ちを掛けたヤツが居る。ヤツのせいで、俺の怒号は芹沢には届かなかった。
……冷たい空気に凍り付いてしまって。
だが、冷静になった今頃、ふと気付く。
デカイ頭と言った内海に腹を立てたか?
人より小さいと言われて腹を立てたんだったか?
……見下ろす顔がアイツだったから、腹を立てた?
「よしてくれよ、もう……。」
『俺、神谷さんをあんたに渡すつもりはないですからね。』
そう、堂々と宣戦布告をしてきたのは、芹沢。
つまり、斉木と芹沢は、神谷を巡ってのライバルってやつに違いない。
当初はガキの寝言と相手にもしなかったが、どうしてどうして、奴はすくすくと成長する。
たった数ヶ月の間に、神谷と肩を並べるに相応しいまで、あっという間に。
「小さい」発言から、もう3年も経っていた。
何で今頃?
大学へ進学し、掛北のコーチを兼任しながらの順風満帆のこの、今。
どうして思い出したんだろうか?
「……ま、理由は解ってるけどなあ………。」
午後の大学はどこも人影もまばらで、ただでさえ鈍い怠け学生の足を、秋雨が後押ししていた。気だるい空気に斉木も怠け心を刺激され、誰も居ない静まり返った部室でぼんやりとしていた。授業中だけに辺りは人気はなく、考えたくもないことまで想い描いてしまう。
おまけに独り言まで出る始末だ。
ぐったりと椅子に身体を預け、もう一度考えてみる。
どうしてこうなってしまったのだろう?
自分が好きだったのは、神谷。
ずっと昔から追い続けていた。それは間違いない。
嘘じゃない。
なら、何故今、悩まなければならない?
あんな昔の、ささいな会話を思い出して?
「……何で俺、神谷のことを昔って思ってんだろ?」
声にしてしまうと、もう止まらなかった。
最近の自分の思考は、?ばかりだ。
何故?どうして?
―――――――ひとつだけ心当たりがある。
原因は、あの男だ。
悲劇のドーハ組、と呼ばれたプロサッカー選手たちが年齢的にも衰えを迎えた頃、芹沢は次代の全日本サッカーを担うべく、彗星のごとく登場した。
いや、正確にはそれは間違った扱いであったかも知れない。
ただ、やはり静岡サッカーがいかに勇名を馳せていようとも、まだまだ野球に比べて知名度の低いサッカー界ゆえに、全国民が奴の名前を知っていたわけではない。
他にもプロ入りを表明していた高校生も居たのだし、何より芹沢は大学へ進学していたからだ。それを、『これ以上大学でのステップアップは望めない』などという暴言を吐いてのプロ入りだったものだから、それは鮮烈なデビューであったろう。
すったもんだの大騒動の末、奴はきっちり自分をアピールしつつ、Jへの転身を果たし、おまけに見事プロ1年目での得点王にも輝いたのだから、言う事はあるまい。
だから、それが何故斉木に関係が有るのかと言われると…
「あ、いたいた〜!!」
突然、部室のドアが開き、呆けていた斉木は度肝を抜かれた。
「おい!脅かすなよ、桜井い。」
雨の匂いに混じって甘い香りを漂わせながら、同じ講座を取っている桜井成美が顔を出す。
「あはは、だって斉木くんの行き場って大体決まってるし。期待通りに居るもんだから。」
と、可愛い舌を出しておどけて見せる。
大袈裟に溜息をついて見せるが、どうせ本気で怒っていない事くらいお見通しだろう。
桜井成美は、斉木にとって「変わった女」だった。
誰にでも人当たりのいい斉木を掴まえて、彼女は言い放った。
『そうやって、誰にでも愛想良くするの疲れない?』
もちろん斉木自身、無理をしていたわけではない。だが、面と向かってそう言われた事で気付く事もあると教えられた。
確かに斉木は疲れていたのだ。
学業、コーチ、選手、そして神谷。
その、他人には解るか解らないかの小さな部分を、彼女はものの見事に言い当てた。
それ以来、彼女は他の誰とも違う、斉木の中の重要なポジションに在り続けている。
「何ぼんやりしてたの?恋の悩み?」
友人達が、彼女を独占していることを泣いて羨ましがる笑顔で、だが、斉木にとっては悪魔の微笑を浮かべて擦り寄って来る。
「何言ってんだか。…寄るんじゃねえよ!」
半ば本気で斉木は逃げに入った。それもそのはず、彼女は斉木の思い人を一発で言い当てたのだ。何を見て、何を聞いて女はそんな事まで気付くのだろう?
……永遠の謎だ。
「はは〜ん。さては他に好きな人でも出来た?」
―――――――これだから女ってやつは………
「……だあから、そうじゃねえって言ってるだろ!」
「ああら、正直に言いなさいよ、こんな可愛いカノジョのお願いよお。」
とうとう限界を迎えた斉木が、部室はおろか大学からも逃げ出そうとしているというのに、成美の好奇心は留まることを知らない。大声でとんでもない冗談を言うなというのに。
「おまえなあ…一体いつから……」
「学生ってのは、気楽でいいねえ。」
校門の外、見るからに高そうな外車に凭れる、不機嫌極まりない声の主を見つけた途端、斉木は本気で震え上がった。サングラスをしているとはいえ、その長身、その迫力は…
間が、悪すぎる。
「あれって………よね?」
さすがに成美の口も塞がって、指差した先には、間違いなく芹沢が居た。
「ああ、最悪……」
思わず額に手を当てて、斉木は天を仰いだ。
斉木のここのところの憂鬱のモトが、こめかみに青筋立ててこちらを睨み付けている。
「…ねえ、もしかして溜息の原因って、彼?」
成美の囁きに、斉木は力なく頷いた。
大体、こんな目立つ奴が、何だってわざわざ俺の所へ来るんだ?
お陰で斉木までも、マスコミから追いまわされるハメになっているというのに。
神谷を巡っての三角関係、などと誰にも言えるはずもなく、芹沢がメジャーになればなるほど、必然的にややこしい輩も付いてまわる。必要以上に斉木までマスコミの餌食となり、全くもっていい迷惑だ。
大体、芹沢がこうして斉木に会いに来るのも、Jリーグに入って有名になってからだ。
大した用件でもなく、何かにつけこうやって斉木に会いにくる。ある時は故障して暇だと言ってみたり、またある時はただの食事の誘いだったり。それに付き合ってやる義理はないが、こんな時でも斉木のお人よしの虫は黙ってはくれない。いいかげんうんざりだと言ってやればいいのかもしれないが、実は少しは斉木も楽しんでいる節は有る。それだけに「懐いて来る後輩」を邪険にも出来ずにいた。
今日もご丁寧に2、3台のテレビカメラと複数のリポーターを引き連れての登場だ。
「……折角の、『彼女』とのデートを邪魔して悪いんですけどね。」
眉間にたっぷりの皺を刻み込んで、芹沢が言った。
――――明らかな棘を感じるのは、気のせいだろうか?
「あら!全然いいのよ!!‘私達’はいつでも会えるんだし。ね?斉木クン。」
咄嗟に状況を判断し、成美の女の勘が働いたらしい。ことさら芹沢を刺激するような物言いをし、語尾にはハートマークさえ伺えるような甘ったるい声で、斉木が何か言おうとした口を封じ込めた。
ぴくり、と芹沢の眉根が吊り上った。
まずい。
どういう訳だか知らないが、芹沢は斉木が自分以外の人間と親しくするのを好まない。いや、許さない、と言うべきだろうか。
と、そこまで考えてはたと気付く。
「…これじゃ、浮気を咎められてるみたいじゃないか。」
ぼそりと小さく呟いた。
――――斉木くん、そのとおりよ。
成美は心の中でそう呟いた。
そして、普通の男ならそれだけで悩殺するようなウィンクをひとつ残して、軽快な足取りで成美は去っていってしまった。
「あ、おい!桜井!!」
……どうしてくれるんだ、この始末。
空しく成美を追って空を掴んでいるこの右手を、どうすればいいのだろう。
斉木は恐る恐る芹沢に向き直る。
「とりあえず、乗ってもらいましょうか。」
どうせ、いつもみたいに有無を言わせず連れ込むくせに。
斉木の溜息は、より一層深みを増した。
「いいですねえ、大学生。あーんな可愛い子がゴロゴロしてんだから。」
暢気に、だが棘だらけに言う芹沢の台詞など、斉木の耳には届いていない。
とりあえず、この状況に愕然とするしかなかった。
「俺がどうしてあんたに会いに来てたか、解ってます?」
斉木は必死に首を振る。
だが、両脇にある芹沢の腕が邪魔をして、うまくは動かせなかった。
何なんだ。
何がどうなって、こうなってるんだ?
そう、
斉木は、
芹沢に押し倒されていた。
気違いめいた車のスピードで、マスコミの追撃を振り切ったかと思うと、いきなり芹沢のマンションまで連れて来られた。
斉木はおたおたするばかりで、状況把握も出来ずにいるうちに、そうなってしまった。
私生活を派手に過ごしている男だから、中もそうだろうと思いきや、モノトーンで統一されたシックな色調の部屋は、斉木には以外であった。散らかっている様子もなく、台所にしても男住まいとは思えないくらいに片付いていた。スター選手らしい広いリビングから、いきなり腕を引かれて連れこまれたこの部屋だが、まさかこういう状況になるとは。
斉木は唖然、を通り越して呆然とするほかなかった。
落着け。
考えても見ろ。
何が楽しくて男を押し倒す奴が居る?
じゃあ、これは芹沢流のジョークだろうか?
回転しない頭で必死で斉木は考える。
だが、それにも限界が訪れた。
「あんたのそういう所、嫌いじゃないですけどね。」
芹沢が、整ったシャープな顔を歪ませて囁く。
どきりとした。
苦笑とも、嘲笑ともつかないその歪んだ笑が、片隅に仕舞い込んでいた想いに火を付ける。
解っていたとも。
他の誰に言われなくても。
最初はただの酔狂だったのかもしれない。
神谷に対する牽制だったのかもしれない。
いつも皮肉を携えて、必死に自分と斉木とを比較して。
プロ入りして自信の付いた上で、Jリーグにそうしたように斉木にも殴り込みを掛けて来たのかも知れない。
1日、また1日。
徐々に解れて行く、芹沢の表情。
心のわだかまり。
神谷を間に挟んだ、奇妙な二人の関係。
楽しんでいたのは事実だった。
そしてそれを芹沢も解っている。
酔狂で済ませたかったのは、斉木の怯え。
こんな状況も、冗談にしてしまいたかった。
だから?
だけど?…………
「気付いちゃいけなかったのに。俺も、あんたも。」
憑き物が落ちる。
ずっと苛々していたのは、斉木だけじゃない。
ずっと悩んでいたのも、俺だけじゃない。
それを芹沢の透明な涙が、物語っていた。
「……馬鹿だな、おまえは。」
そっと、驚かせないように、斉木が芹沢の背中に両手をまわす。
ぴくりと揺れた芹沢の表情は、その長髪に隠れてよく見えなかった。
「…大馬鹿ですよ、あんたは。」
ゆっくりと倒れこんでくる芹沢の重みを、斉木は心地よく受け止めた。
ただの慰めではない。
傷を舐め合っているわけでもない。
ただ、お互いの本当の姿に、
気付かなかっただけなんだ。
互いの体温に、足先まで暖められる。
愛しています。
それは、神谷に言い忘れた言葉だった。
……………全部、解っていたことだったんだ…
「よくもまあ、思い切った行動に出たもんだ。」
「あんたが悪いんですよ。あんな女といちゃついてるから。」
ごつい男が二人、キングサイズのベットでまどろむ姿は、他人に見せられたものではない。
だが、今は誰が何を言おうと、構ってやる気はない。
「いちゃ・…どう見たらそう考え付くんだ?」
斉木は芹沢のことで頭がいっぱいだったのだ。他のことまで頭が回るはずもない。
大体、そうさせたのはどこのどいつだ。
「ふん!!あの甘えた声!わざと俺を挑発してたんですよ?」
「挑発って…ああ、まあ、あいつならやりかねないか……」
どうせ、顔色を読み取って芹沢が斉木にとって、どういうポジションに居る人間か理解したんだろう。恐るべし、女のカンだ。
「〜〜〜〜気に入らない!!」
折角一暴れした後をくつろいでいたというのに、再び芹沢が牙を剥く。
「うわっ!?止せってもう…!」
「言っておきますけど、俺、もうあんたを他の誰にも触らせたりしませんからね。」
抗議の声を上げかけた斉木も、つられて真顔になる。
世の女どもがこぞって褒め称える、芹沢の真剣な表情。
ピッチの上以外で、見せた事のない、真摯な顔。
「…伊達や酔狂であんたを抱いたんじゃない。」
当たり前だ。斉木だってそんなことで大人しくしているはずもない。
少なくとも身長やウェイトでは負けているが、鍛えたこの身体であれば、本気で抗えば出来ない事ではない。益して、何より男の尊厳というものがある。
簡単には譲れない、男の部分。
本来なら、神谷に向けられる筈であった野蛮な感情。
それを自分で受け止めることになった、ジレンマ。
斉木という男の、普段は見せる事のない様々な鬱屈とした感情も、全部芹沢に奪われてしまった気がする。
何故だろう?
芹沢という男は、どうして自分の見たくもないような汚い部分まで、持って行ってくれるのだろう?
こうなって初めて気付く、神谷に対する想いも。
昨夜の芹沢は、大の男ですら尻込みするような迫力が在った。それは斉木を怯えさせるに値するものであったが、考えて観れば、誰だってそうであったろうとも思える。
あれは、芹沢が怖かったんじゃない。
自分の全てを、曝け出されてしまう事に恐怖していたのだ。
神谷を好きだという自分の、嘘。
そう思うことで、芹沢への感情を誤魔化し続けた汚い嘘。
現在進行形の言葉を使いたいのは、
神谷にではなく、
芹沢にだった。
表現し切れない、汚い感情。
勉強も、人間関係も、サッカーでも。
―――神谷へも。
みんな、芹沢が食らい尽くしてしまった。
………身体ごと。
「…おまえが思ってるほど、俺は上等な人間じゃないぜ?」
両手を押さえ付けられ、今にも咽喉仏に食らい付きそうな芹沢に言う。
そうだ、こいつは、肉食獣に似ている。
「んなこと、知ってますよ。完璧な人間なんて居やしない。俺だって、あんただって、神谷さんだって…久保さんだって。―――そうでしょう?」
語尾に甘さを滲ませ、互いの指を絡ませ合いながら芹沢が答える。
「俺はサッカー馬鹿だけど、あんたが何を考えてるかは全部知ってる。」
案の定、首筋に唇を這わせ、獰猛な牙を驚くほど繊細に斉木の咽喉に押し付ける。
「…自信たっぷりだな。」
くすぐったさに震えると、獣の神経を刺激したのかより激しく『口撃』を開始する。
くす、と芹沢が笑ったその振動に思わず背が反り返る。
こんなごついのを抱いて、楽しいのかと聞いてみたくもなる。
「当たり前。じゃなきゃ、俺をこんなに虜にするわけもないし、同じモン付いてるでけえ身体を抱きたいと思うわけないでしょ。」
…自分が聞きたい事の先を読んだように答えられて、斉木はもう諦めるしかなかった。最も、今更、ではあるが。
「あんたは見掛けによらず、純粋な人だから。つまんないモラルとか体裁とか気にするに決まってんだし。そんなの全部、俺が引き受けるからあんたは黙って、俺を見てりゃいい。」
―――――――絶句だ。
どうしたら、そんな聞いてるほうが耳が浮く台詞を吐けるのだろう?
しかも、俺に向かって?
「あんたは、俺の『たったひとつ』だから。神谷さんにとっての、久保さんみたいにさ。」
「出遭ってすぐに解る人と、時間を掛けて気付く人も居るってこと。」
「あんた、鈍いし。」
「………ま、俺もそうだけど。」
結局、俺達はまだまだ若いって事だろうか。
ぼんやりとした未来は、見通すことは出来ないけれど、
現在、この時間が在ればいいかと思う。
誰もが漠然と抱える不安も、芹沢が居ると思えば恐怖することもない。
奴の言う、
『たったひとつ』とは、そういうものなのかも知れない。
「……ッあ!」
「集中してないと、酷い事しますよ?」
「〜〜〜昨夜、充分ヤったくせに。」
「あれは違う。あれはただの所有印。」
「……………!!!!(ぬけぬけと〜〜〜!!!)」
「今朝のは、本当のセックス。悪いけど、足腰立たなくなりますよ?」
「おまえ!!まだやる気か!?」
「あったりまえでしょ?ずっと傍で静かに我慢して待って、やっと手に入れた獲物ですもん。じじいになって、干乾びるまで食らい尽くしますよ。」
――――――ライオンだ。
鬣を靡かせた、悠然たる百獣の王。
所詮、斉木はおろおろする草食獣。
捕まったものは、骨までしゃぶられる。
ま、それも悪くないけど。
―――――――芹沢が、責める手を止めてじっと顔を覗き込んで来る。
快感の波に流されかけていた斉木は、不満げに睨み返す。
そういえは、芹沢は唇にキスをしていない。
それを不満に思う辺り、もうだめかな、とも思うけれど。
そんな斉木の心はとうにお見通しで、
芹沢は、
まばたきでキスをした。
光をあびて
都会はパノラマ
風のペントハウス
行き交う人も走るクルマも
朝日の中サイレンス
まだ眠いよね
もう起きなくちゃ
あなた瞳にわたし映して
はにかむように微笑む
まばたきのキスは永遠
頬にキス ここにキス
キュービックの恋人たち
パズルを解いて
踊るプラネット
淡い陽射しティータイム
リズムをきざむラフなクラクション
ノイズのカレイドスコープ
ここはどこかな
海に似てるよ
耳を澄ますと潮騒みたい
白い部屋プリズムの虹
まばたきのキスは永遠
指にキス そこにキス
キュービックの恋人たち
まばたきのキスは永遠
空にキス どんなキス
キュービックの恋人たち
Cubic Lovers 了
ダメダメさち。