なんでオレがこんなに機嫌がいいか、というと。
それは晴れて同棲が決まったからで。
こんなこと言うと、あの人は「同居だ、同居っ」って言って殴るかもしれないけど。
‥‥いや、絶対殴るけど。
でも、そんなことぐらいじゃ、オレの機嫌は損なわれない。 



HAPPY BIRTHDAY





「芹沢―、お前引っ越しすんだって?」
「そうです」
この人は、オレの高校のときの先輩で、内海さん。
なんだかんだ言って、オレはこの人に頭が上がらない。
「いつなんだ?」
「‥‥3月12日」
「‥‥は‥っはーっはっはっはっは‥‥」
内海さんは、息も絶え絶え、といった様子でバカ笑いをしている。
「‥‥なんでそんなに笑うんです?」
これだから、この人に話すのはイヤだったんだ。
「なんで、って、コレが笑わずにいられるか‥‥っ」
まだ、ハラかかえて笑ってる。
「内海さんっっ」
「わ、わりぃ。でも、 なんか‥‥っ」
「それ以上笑うなら、オレ、帰ります」
「ま、待てって。悪かったよ。まさか、そんなアイツが乙女ちっくなことすんなんて、思わなかったからよ」
その言葉に、オレは内海さんをにらみつける。
「おぉ、こわ。いーじゃねぇか。‥‥斉木の誕生日プレゼントなんだろ、それが」
「分かってて笑ってたんですか!?」
「分かってたから笑ったんだよ」
「人の恋路をジャマしないで下さい」
「ジャマしてなんかねぇよ」
「してますっ」
「ほー、そういうこと言うか‥‥」
内海さんの瞳に、危険な色が浮かぶ。
「ご‥‥ごめんなさいっっ」
「あやまるぐらいなら、最初からケンカなんか売んなっ」
「はっ、その通りでございます」


ケンカ売ってたつもりはないんだけど。
‥‥言葉には出さずに、心の中で思う。


「で、何の用なんです?一体」
「あー、その引っ越しのことで斉木に頼まれたんだよ」
「何を‥‥?」
イヤーな予感。
「卒論とか、卒業壮行試合とかで忙しいから、引っ越し、手伝ってやってくれ、って」
「な、なに言ってんですかっ!?」
「オレに言うな、オレに!!」
「‥‥斉木さん、いま家ですか?」
「あ、あぁ、今日はな」
「‥‥会ってきます」
「あ、オイ、芹沢っ‥‥あーぁ、行っちゃったよ。なんで、アイツってあんなに直情型なんかなぁ‥‥」
そして内海は心のなかで、親友の無事を祈った。










「なんで、人に頼むんだよ‥‥っ」



オレ、芹沢直茂は、人が羨むような容姿と、才能を持っている。
その才能をいかんなく発揮しようと、プロサッカー選手になった。
順風満帆なオレにとって、挫折、というのは、今までの人生において、高校時代の一回しかなく。
思い通りにならないことなんて、ほとんどなかった。
でも、それは「あの人」のこととなると、まるっきり当てはまらない。



斉木 誠‥‥‥。



オレの人生最大の恋のライバルで、いまは‥‥オレのいちばん大切な‥‥恋人だ。
斉木さんを手に入れるために、それこそオレは何でもした。
あの人のためなら、何でも出来た。
あの人と一緒にいられること。
それが、オレにとって、いちばん幸せなコトで。
それこそ、一日中でも一緒にいたいぐらいで。
でも、斉木さんが、「学生の俺と、プロのお前じゃ、生活時間が違うだろ?‥‥絶対にお前に迷惑がかかるから」
なんて可愛いこと言うから‥‥思わず押し倒して、殴られたけど‥‥我慢してた。
それが、大学卒業で、プロ入りするからって‥‥‥。



「なぁ、芹沢」
「なんですか?」
「お前、誕生日に欲しいもの、ないか?」
「‥‥うーん、斉木さん」
「バカっ、そんなんじゃなくって!」
「えー、本気だったのに〜」
ちょっとオドケて言うと。
斉木さんは顔を真っ赤にして、うつむきながら、「それは毎日だろ‥‥」と言った。
その顔が、あんまりにも可愛くて。
「ちょっ‥‥んん、せり‥‥っ」
思わず口付け。
「は‥‥っ、ん‥‥やめ‥‥っ」
「そんな顔、見せられたら、とめられない‥‥」
「は、なし、聞いて‥‥」
「なに?こうしてても話しできるでしょ?」
そう言いながら、耳元にキスする。
「あの‥‥さ、んんっ、ホント、欲しいもの、ないのか‥‥?」
「んー、斉木さんさえ、いればね」
そして、鎖骨の辺りに、歯を立てる。
「あっ、や‥‥な‥‥ぁ、せり‥‥ざ、わ」
「んー??」
「‥‥一緒に、暮らさないか‥‥?」
「は‥‥??」
一瞬、何を言われたか分からず、思わず手を止める。
「だから、俺も卒業だし、ある程度プロなら、生活時間が一緒だろ?」
そして、斉木さんは、赤い顔をますます赤くしながら。
「お前が他に欲しいものがないなら、誕生日プレゼント代わりに、なるかな、って‥‥」
そんな可愛いこと言われて、オレはたまらず、斉木さんを抱きしめた。
「ホントにいいんですか?」
「うん‥‥、俺だって、ホントはお前と一緒にいたいんだよ‥‥って、うわっ、芹沢っっ」
「もう、今夜は寝かしませんっっ」
「バカっ、やめ‥‥っ」



そういうわけで、引っ越しの日にちは、3月12日‥‥オレの誕生日‥‥となった。
例え内海さんに、いや、他の人にだって笑われようと、オレは、斉木さんのそんな心遣いが嬉しかった。



なのに。
なんで。


これからの生活に胸躍らせて、家具や、食器も一緒に選びに行こうと思ってたのに!



だんだんだんっ


そんな怒りを込めて、ちからいっぱいドアを叩く。
「なっ、誰だ!?」
「‥‥オレです」
「芹沢?ちょっと待て、いま開けるから」
そして、開きかかったドアを力任せにひくと、反動で斉木さんがオレの腕の中に倒れこんできた。
「な、んだよ、芹沢っ、乱暴だなっ」
「なんでっ、内海さんに引っ越しの準備任せんですか!?」
「‥‥すまん‥‥」
バツの悪そうな顔で謝まられる。
「謝って欲しいわけじゃないんです。ワケを聞かせて下さいよっ」
「イヤ、だからさぁ、ホント、忙しーんだよ。寝る暇もないぐらいでさー」
そう言われてみれば、顔色が悪い。
「どれぐらい、寝てないんです?」
「んー、とりあえず、今ちょっと寝てたんだけどさー、お前がたたき起こすから」
そう、上目遣いでニラまれる。
「う‥‥っ」
オレは、この瞳に弱い。
とてつもなく弱い。
分かっててやってんだろうか、この人は。
‥‥いや、分かってないんだろーなぁ‥‥。
「それは謝りますけど、それとこれとは別問題です!」
「ちっ、騙されなかったか‥‥。でも、ヤバイぐらい忙しーんだ。ホントにすまん。
その代わり、幾らでも内海のこと、使っていいからさー」
「家具とか、どーすんですか!?もう、オレ、アンタと一緒に選ぶの、楽しみにしてたのに‥‥」
「ゴメンって。家具とかは、お前にまかすよ。お前、センスいーもんな」
そして、斉木さんは笑顔でオレの肩を叩きながら。
「楽しみにしてるからさ」とのたまってくれた。
「もー、オレの誕生日プレゼントじゃなかったんですかー?」
「ま、埋め合わせはすっからさ」
「じゃ、今して下さい」
「は‥‥?」
「いま、身体で」
そして、服を剥ぎにかかる。
「わー、バカバカ、芹沢っ、待てっ」
「なんです!?」
「俺は、ホントに時間がないんだー!!!」
「すぐ終わりますから」
「芹沢の大バカやろうー!!」
そんな斉木の叫びも、抵抗もむなしく(ホントにイヤなわけじゃないもんね、マコトくん♪)誕生日の埋め合わせは、なされてしまった。










「うー、芹沢のバカっ」
「誰がバカだって?」
「‥‥なんでもない」
「じゃ、身体に気をつけて。程々にして下さいね。アンタ、バカだから、限界まで頑張るんだから」
「バカだけ余計だっ。ま、ホント、悪いな、お前に押し付けて」
「あとで、文句言わないで下さいね?」
「は‥‥?」
「か・ぐっ」
「あ、あぁ、家具ね。ま、言えた立場じゃないし。期待してるよ」
「期待してて下さい。とびっきりのモノ、用意しときますから」
ニヤり、という音が聞こえそうな笑みを顔に浮かべ、芹沢は帰っていった。
「何する気だ、アイツ。‥‥いやーな予感‥‥」




そして、斉木は後で死ぬほど後悔することになるのだった。
時間を作ってでも、一緒に買い物に行くんだった、と。













「なー、芹沢、コレ、ドコ置くんだ?」
「あ、それはそっちに‥‥」
「芹沢、これはどこだ?」
「あ、こっちにお願いします」


引っ越し当日。
内海さんが、加納さんを連れて、手伝いに来てくれた。
やっぱ、さすがにこの2人だけあって、片付くのが早い。
「なぁ、芹沢」
「なんです?」
一段落ついたこともあって、お昼を食べながら、一休み。
「なんか、微妙に家具、足りなくないか?」
「ばっ、加納っ、なに言ってんだよ!」
「だって、内海もそう思わないか?」
「‥‥言っちゃいけないんだ、関わっちゃいけないんだっ」
そう、小声で内海さんは加納さんに言う。
「なんですか、内海さん?」
「いや、なんでもないっっ。あ、芹沢、オレら、そろそろ帰んな」
「まだ、片付いてないぞ」
「いーから来い!」
ずるずると内海さんに引きずられていく加納さんを見ながら、オレは「ありがとうございました」と礼を言った。





「バカ、あんなコト言うなよ」
「あんなコト?」
分からん、という顔で加納は首をかしげる。
「アイツ、絶対企んでんだ。だから、少ないんだよ」
「‥‥そうなのか?」
「だって、ないのってアレだろ?」
「アレ?」
「ベッドだよ、ベッド」
あぁ、という顔で、加納が手を叩く。
「そっか、なんか足りんと思ったら」








「げっ、もうこんな時間じゃねーかっ」
今日、3月12日。
引っ越しの日であり、芹沢の誕生日だ。
「よりによって、なんできょうなんだよ」
後輩たちが俺たち、卒業生を送り出すためにセッティングした、試合。
「ま、心遣いはありがたいけどな」
でも。
「ヤベー、ぜってぇアイツ、怒ってんだろーな‥‥」
そして、俺は小走りで新居‥‥ちょっとまだ恥ずかしい‥‥へと向かった。








「アレは気付かれたな‥‥」
意外と加納さんってば、目ざといなぁ。
ま、いっか。
別にあの2人だし。
「いまさら隠しても仕方ないってね」


そう、加納さんが言った通り。
あるべきハズのものが、この家にはない。


そう、ベッドだ。


家にあったベッドは、処分してきた。
で、新しいモノを購入。


もうじき、それは家に運ばれてくるハズ。



ピーンポーン



来たらしい。

「はい」
【あ、島田家具店の者ですが】
「お待ちしてました」
【あのー、ちょっとご相談が】
「‥‥ちょっと待って下さい」
そして、玄関へと向かう。













「はぁっ、はぁっ‥‥疲れた‥‥」
駅から全力疾走。
幾ら体力に自信があるとは言え、試合をこなした後に、この坂は辛い。
この坂を登りきれば、見えてくる。


‥‥今日から住む、芹沢との家が。


その時、俺の耳に、近所の主婦らしい声が入ってきた。
「ねー、奥様、見ました?」
「あ、アレねー」
「どこの誰なのかしら、あんな大きいの」
「さー、そういえば、あのマンション、今日新しい人、入って来るんですって」


な、もしかしてそれは‥‥。


「うちの娘の話だと、なんでもJリーグの選手らしいって」
「じゃ、アレ、その人のものなんじゃ?」
「にしても、大きすぎません?」
「そうよねぇ‥‥。あ、でも奥さんと一緒とか」
「でもその人、結婚してないって」
「同棲とか」
「いやーっ、見てみたいーっっ」


だらだら。
そんな音を立てて、背筋を汗がしたたり落ちる。



話しから察するに、話題の人物は芹沢だろう。
そんな都合よく、きょう引っ越しをするJリーガーがいるとは思えないし。




でも。
その「大きいの」ってなんだーっっ。
しかも、その「大きいの」からなんで同棲なんて話しになるんだーっっ。




ま、まさか‥‥。
いや、そんなバカな‥‥。




俺は、自分の脳裏に浮かんだ考えを否定すべく、残りの坂を、一気に駆け上がった。



そして、その俺の目に入ったのは。





「‥‥‥なんだ、アレ‥‥‥」







バカでかい、ホント、掛け値なしにバカでかい。
‥‥宙づりにされた、ベッドだった‥‥。



「な‥‥っ、大きいの、ってまさかコレのことか!?」






普通のベッドなんて、お呼びじゃない。
キングサイズのダブルベッドも問題外。
そんなバカでかいベッドが。




空を飛んでいるのだ。




そりゃ、近所の主婦も思わず色々想像してしまうだろう。







「芹沢―っっっっ」
「あれ、斉木さん、早かったね」
「てめー、アレはなんだ!?」
「アレって??」
「あ、あれだ、アレっっ」
俺がさした指の先には。


空飛ぶベッド。


「あぁ、アレ。いいでしょ?」
「何がいいんだーっっっ」
「丁度いい機会だから、新しいの買おうと思って。」
「新しいのを買うのはいい。そんなことは問題じゃない。俺が言ってんのは、なんであんな大きいんだ、って言ってんだ!」
「だって、家にあったベッドじゃ、一緒に寝るの、少し狭かったし。イギリスの特別製。王室御用達だってさ」
「そういう問題かっっ。ご近所中のウワサだぞ!?なんで宙づりになってんだ!?」
「あぁ、大きすぎて玄関からじゃ入れられないんだって」
(そう、家具店の人のご相談とは、このこと。
あまりにも大きすぎて、ここまで運ぶのも、ましてや玄関を通すのも無理だったらしい。バカな話し‥‥)
「で、ベランダからってことになってさ」
‥‥芹沢の態度に、気が抜ける。
「俺が言ってんのは、こんなバカでかいベッド、誰が使うんでしょーね、ってウワサになってる、ってことなんだが」
「あぁ、そんなこと」
「そんなこと、ってお前ね‥‥」
「別に、オレは困らないし?」
「バカっ、バレたら困るだろ!」
「あー、もう、面倒だなっ、そんなぐらいなら、言って回るよ?」
「うわっ、バカバカやめろっ。お前、ホントに言いそうでこわいっっ」
「っていうか、言う」
「なにもそんな波風たてなくってもいいだろっっ」
「別に、ベッドぐらい、いいじゃない。オレはのんびり寝たいし。ど?斉木さんだってゆったりしたベッドのほうがいいでしょ?」
‥‥そりゃ、そうだけど。
「ま、そんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
「なんで、お前はそんなにお気楽なんだ‥‥」
「考え込んでもしょうがないしね。オレは、これからの斉木さんとの愛の生活のことで頭がいっぱいです♪」
「ホント、しょーがねー」
そう言って。
「ま、お前の誕生日だし。今日ぐらい、ワガママ聞いてやるよ」
とキスをした。








余談。
結局、このベッドのウワサは近所中を駆け回り、しばらく主婦たちの井戸端会議のネタとなった。



追伸。
2人の愛の巣(笑)を見ようと冷やかしに来た先輩やら後輩たちは、来る途中でその井戸端会議を聞いてしまい、
想像して、あまりの恐さに、怖じ気ついて帰ってしまったものもいたらしい。
もちろん、内海はしっかり、そのベッドを見て、指差して大笑いしたのだが。














<あとがき>
さちさん、ついにあたしやったわーっっっ。
‥‥なんで初めてかいたせりさいが、こんなネタ‥‥。
「空飛ぶベッド」笑って頂けたでしょうか。
ホント、お笑いは姉御の領分なんで、お譲りしようとおもったネタなんですけど(笑)。
書いちゃったのよ、書いちゃったのよーっっっ。
でも、ホントにバカだな、芹って。
まさか、喫茶店でこんなネタが浮かぶとは、ね。
それもこれも一緒に話してて下さった、姉御とさちさんと雪さんのおかげ(笑)?

最近、せりさいが獣道じゃなくなってきました、綾の中では。
ま、最強書いてるから。
でも、ホント、せりさい愛しいです。
ブラボー、せりさい!

というわけで、綾は書き逃げしまっす。



よろしかったら押してやって下さい。



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