うららかな春の日差しが、さんさんと大きな窓から降り注ぐ。

 春眠暁を覚えぬ季節である。

 ましてそれが、午後一番の講義とあれば、誰もが眠りに誘われる条件が揃っていた。

 割と真面目で要領のよい大学生であった――真面目と、成績優秀は同義ではない――斉木は、4年になって取らなければならない単位は卒論のみであったから、今日、受講申請をした語学は純粋に趣味と将来の実益を兼ねたものだ。
 プロになり、世界を目指すと言うならば、多くの言語を操れるに越したことはない。
 もちろん、たかが一年弱、大学の講座で基礎をかじったぐらいで、しゃべれるようになるなどとは夢にも思ってはおらず、取っ掛かりぐらいにはなるだろう、ぐらいの軽い気持ちである。
 それと、2つ3つは余分に単位を取っておいた方がいい、と言う、一般的な考え方もあり、サッカー部で親しい部類に入る後輩が受講するのだと聞いて、尻馬に乗っかってきたと言うのも一面の事実である。

 まあ、そんな軽い気持ちでの受講申請で本人の緊張感が不足している上に、担当講師が初日からバリバリ詰め込むようなタイプではなかったため、環境的にも緊迫感がなく。





 そして、窓際に席を取っていた斉木は、うららかな春の日差しを浴びて、講義開始早々から眠りに誘われそのまま終了の鐘が鳴っても、幸せな惰眠を貪っていたと、そう言う訳だ。





 講義が終わっても誰も起こしてくれなかったのは、友達甲斐がないと言う訳ではなく、4年にもなって必修でもない語学を取る人間は少なく、後輩達には、熟睡している風の斉木を叩き起こす勇気のある者がいなかったせいだ。
 そうでなくとも年度が変わったばかりで、新入生の入部とか、練習試合の打ち合わせとか、主将の斉木が相当多忙の身であることは、誰でもが知っている。
 実際、熟睡しているのにどこか苦しそうなその表情の中で、目の下のくまが目立っている。
 幸いにも、その教室は次の時限は空きである。
 心優しい後輩達が、そっとしておいてあげようね、と、なったところで不思議はない。





 もっとも。





 本当のところ、何のせいで目の下にくまを作る羽目になっているかは、口が裂けても言えない。
 事情を知っていれば、下世話なツッコミの一つや二つ、入れたいところである。










 しかし、斉木の努力の甲斐あって、どうあっても隠さなければならない事情は、今のところ隠し切っている。





 一部の例外を除いて、ではあるが。











 ポコン。






 丸めた紙筒で頭を叩かれ、斉木は跳ね起きた。
 まだ少し寝ぼけて靄がかかっている視界の中で、悪魔が笑っている。

 もとい。

 寝ぼけ眼には悪魔と見えたその顔は、周囲の野郎どもが天使ともてはやす、桜井成美の満面の笑みである。



 そうと気がついた瞬間、斉木ははっきりきっぱり目が覚めた。



 と、同時に反射で腰を引いていた。



 成美がそんな顔をしている時は、大体斉木にとってはろくでもないことを考えているのだ。
 斉木が警戒するのも無理はあるまい。



「何、すんだよ…」



 警戒心バリバリのまま、ようやく言葉を絞り出す斉木の様子など委細構わず、成美はいよいよ笑みを深くして、応じる。
「あら、起こしてあげたんじゃない。いくら春でもこんなところで寝てたら、風邪引くわよ?」
 言われて慌てて辺りを見回すと、日差しが傾きかけた教室には斉木と成美しかいなかった。
「今、何時?」
「もう次の講義が始まってるわよ」
「しまった…」
 言われて、腕時計を見直し、斉木は頭を抱える。
「この時間に、予算の叩き台チェックするつもりだったのに…」
 言いながら、斉木は慌てて鞄の中からクリアファイルを取り出す。
 実務はマネージャー達がやってくれるのだが、主将として目を通さざるをえない部分もある。
 まあ、それもサボろうと思えばいくらでもサボれるのだろうが、その辺りは中学時代から身に染みついた習慣でもあり、ある意味で、何でもかんでも自分で背負い込みたがるやっかい、かつ、自分の処理能力に対する自信過剰な性格を表すエピソードだとも言える。










 ポコン。










 クリアファイルからバタバタと書類を取り出そうとしていると、再び頭を叩かれて、斉木は不機嫌な表情で顔を上げた。
「桜井」
 その表情に相応しい、低い声で、呼ぶ。
 その迫力は、さすがに中高大学と猛者どもを纏め上げてきただけあって、有無を言わせぬものがある。
「そんな寝ぼけた頭でチェックなんて言ったって、メクラ判と一緒でしょ」
 が、敵もさる者。
 何事もなかったかのような笑顔で、あっさりと受け流された。
「たまには人に任せるのも大事なことよ」
「でも、これは予算だから…」
「だったら、もうちょっと頭がしゃっきりした時にしなさいな」





 ポコ。





 と、また、紙筒が斉木の頭を襲った。
「いい加減にしろよ」
 仏の顔も何とやら。
 斉木は、成美の手から紙筒を奪い取る。
 結構、重いものだった。
 見れば分厚い雑誌を丸めたものだ。
「ああ、それ、あげるわ」
「は?」
 思いも寄らぬことを言われて、斉木の男らしい眉が寄った。
 丸まっていたそれを広げると、人気の歌手がブランド物のワンピースに身を包み、華やかな笑みを浮かべていた。
 あおりには、『今からでも間に合う、春の着回しワードローブ術!』。
 学生に読者が多いと言われる、女性向のファッション雑誌だった。
「俺に、プレゼント買えって言ってる?」
「私、斉木君に買ってもらわなきゃいけないほど、相手に困っちゃいないわよ」
 いよいよ眉をひそめた斉木に、成美はつんとそっぽを向いて――世の男どもはそんなところがまたかわいいと言うのだが、痛い目では済まない目に合わされている斉木には理解できない――言った。
「もう一通り読んじゃったから、親切にあげようって言ってるんじゃない。斉木君、自分じゃ買いにくいでしょ」
「俺が? どうしてこんな…」
 買わなきゃいけないんだと、もう一度表紙に視線を落として、斉木の動きが止まった。
 その名前は、割と目立つところにあったのだが、文字が中ぐらいだったから、すぐに目に入ってこなかったのだ。
 いや、斉木の目が避けていたのかも知れないが。










 『芹沢直茂』










 その名の上に小さな文字で、『今、注目のこの人!』と、あおりがある。
「結構、面白いインタビューだったわよ」
 固まってしまった斉木に、成美がコケティッシュな笑みを口元に刻んで、言った。
「返さなくていいからね」
 そして、くるりと身を翻し、鮮やかに立ち去っていく。
 残念ながら、冷や汗さえ流す斉木には、その後ろ姿を見送る余裕もなかったのだが。





 成美が教室のドアを閉めた音で、ようやく斉木の金縛りが融けた。
「あ、おい、桜井!」
 怒鳴ったところで、返る言葉はなく。
 そもそも、立ち止まる気も成美にはないだろう。
 ああは言っていたが、最初から斉木に見せるためだけに、わざわざ買ってきたのだろうから。



 斉木と、芹沢の関係を知っていて。



 そう、知っているのだ、彼女は。
 だが、彼女の斉木に接する態度は変わらない。
 もっと避けたり、蔑まれても不思議はないだろうに。
 いや、もちろん蔑まれたいわけではないが――。










 ブルリ、と、斉木は頭を振った。
 あまり深くは考えるまい。
 例えどんな状況に追い込まれようと、自分は芹沢の手を離すことなど出来ないのだから。





 今は、まだ――。











 斉木は、成美に渡されたファッション雑誌に視線を落とす。
 幸い、この教室は空きだ。
 わざわざ喫茶室に移動して、好奇の視線を集めることもないだろう。
 座席に座り直す。



 パラリ。



 斉木は目的のページを開いた。






















 昨年、衝撃のJリーグデビューを果たした芹沢直茂選手。
 最優秀新人賞と得点王を同時受賞と、すでに一流Jリーガーの仲間入りをしています。
 でも、芹沢選手はサッカー選手としてだけではなく、モデルとしても活動していて、もちろん、そのクールなルックスはみんな知ってるよね。
 今日はそんな芹沢選手に、みんなが気になっていることをお聞きします!





――こんにちは。
芹沢選手:こんにちは、はじめまして。
(ソファに座って足を組む芹沢選手は、もうそれだけでかっこいい。)
――今日は、いろんなお話をうかがいたいと思ってるんで、よろしくお願いします。
芹沢:何でもどうぞ。
――いきなり失礼かも知れないですけど、足長いですね(笑)
芹沢:よく、『足が歩いてる』って言われますよ(笑)。
――そのスタイルだったら、モデル一本でもやっていけるような気がするんですけど、それでもサッカーが一番なんですか?
芹沢:それはもう。モデルの方には、失礼かも知れないけど、自分にとってモデルはアルバイト感覚ですね。サッカーのオフ期間しかやってないですし。
――それぐらいサッカーは魅力あると。
芹沢:サッカー以上に夢中になったことはありませんね。やるのも面白いけど、見てるだけでも絶対面白いですから、是非試合を見に来て下さい。
――生の芹沢選手も見られますしね(笑)。
芹沢:絶対にチケット代分以上の試合をお見せしますよ。





――今日着てる服って、私物なんですよね?
芹沢:ええ。今日は撮影はないんで、あう服の準備をしてないって言われました(笑)。
――ああ、確か、身長が190…。
芹沢:今は196センチあります。さすがにもう止まって欲しいんですけど(苦笑)。
――じゃあ、まだ伸びてるんですか?
芹沢:微妙に(笑)。
――サッカーやる上では、それぐらいの上背の方が有利なんですか?
芹沢:上背があるに越したことはないと思いますけど、でも、これ以上伸びると、動きが鈍るんで、もう自分はいいです。
――でも、身長もさることながら、手足が長いですよね。本当にモデル体型と言うか…。
芹沢:でも、以前にカメラマンの方に、モデルをやるには筋肉つきすぎって言われました。もう少し細い方がいいって。
――ああ、そうかもしれない。減量とかはしないんですか?
芹沢:今は常にベストをキープしているんで、これ以上増やす気もないですけど、減らすこともないです。どっちにいっても、やっぱり動きが鈍りますから。
――やっぱりサッカーが中心なんですね。
芹沢:自分はプロのサッカー選手ですから。
――でも、モデルもやられると。
芹沢:オファーがあって、スケジュールがあえば。雑誌とかなら、そんなに時間は取られないですから。
――今日は撮影はないんですけれども、先日このインタビューで、スタジオ撮影をしましたよね。それも全部私服なんですか?
芹沢:いえ、撮影がある時はちゃんとスタイリストさんに用意してもらいます。
――だけど私服でも充分かっこいいから、スタイリストさん、いらないんじゃないですか?
芹沢:そんなことないですよ(笑)。
――好みのブランドとかはありますか?
芹沢:好みとかより、まずあう服が少ないんで(笑)。大体海外ブランドになっちゃいますね。後、丈が足りないんで、ジーンズは穿けません。
――はああ、丈が足りない。一度そんなこと言ってみたい(笑)。
芹沢:大概足りないというのもかなり困るんですけど(苦笑)。
――じゃあ、海外行った時は、お買い物ツアーに。
芹沢:自由時間があれば、必ず服を買います。買出しみたい。国内で買うのは、スーツぐらいですね。オーダーメイドできるから。
――オーダーメイドじゃないとダメ。
芹沢:ですね。生地は大体輸入の物なんですけど、身幅が余らないって言われました。
――輸入生地だと、日本人は大体、縦も横も生地が余っちゃうらしいですね。
芹沢:自分はそれがないと。
――それじゃ好みのブランドとかは、作りたくても作れないですね。
芹沢:ああ、それでもいくつかありますよ。今着てるシャツは、アレキサンダー・マックイーンなんですけど、マックイーンのカッティングは、意外に着て楽なんで最近割と好きです。
――確かに袖丈もぴったり。日本人ではなかなかそうはいかないんですが。では、海外ブランドでは、どのあたりが。
芹沢:楽な方が好きなんで、イタリアものが多いかな。
――でも、芹沢選手はそういうシンプルな白いシャツでもかっこいいから、ブランドとかは関係ないかもしれないですね。
芹沢:ありがとうございます。





――オフの日なんかは、どういう風に過ごされるんでしょう。
芹沢:普通ですよ。掃除して、洗濯して、飯作って、ホント、普通。
――何か、芹沢さんがそんな家事をしているところを想像できないんですが(笑)。
芹沢:でも、寮は出ちゃったんで、自分でやらないと。食事もウェイトの問題があるからいつも外食と言う訳にはいかないし。
――食事にはかなり気をつけてらっしゃるんですか。
芹沢:それはもうかなり。体調管理はプロとして当たり前の話ですから。
――すると、お嫁さんにもらうなら、料理上手な人じゃないとダメですか?
芹沢:ああ、その質問はすごく作為を感じました、今(笑)。
――バレましたか(笑)。
芹沢:ストライクゾーン、広いんですよね、女性に対して。女性だったら、赤ちゃんからおばあちゃんまでお付き合いできると思いますよ(ニッコリ)。
――笑顔にはぐらかされてしまいそうです(笑)。でも、この雑誌の読者にはとても気になる点だと思うので、単刀直入にお聞きしましょう(笑)。一番好きな女性のタイプは?
芹沢:好きなタイプ……うーん(と、考え込む)。
――それは芹沢さんはモテるんでしょうが、何かないでしょうか、料理上手とか、外見でもいいですけど(笑)。
芹沢:やっぱり自分をしっかり持っている人じゃないと、ダメですね。
――ほお。
芹沢:自分自身の考えをちゃんと持ってて、でも、ちゃんと周囲にも気を配れる人。
――ちょっと意外な意見かも知れません。
芹沢:そうですか? 自分が間違った方向に行ったら、怒ってくれるような人じゃないと、ダメですね。一度走り出したら、突っ走っちゃうところがあるんで。
――芹沢さんと言うと、クールなイメージが強くて、あんまりそんな感じしないですけれどね。
芹沢:それで、マメな人がいいです。マメで、よく気がついて、優しい人。
――すごい贅沢な気が…(笑)。
芹沢:だって、好きなタイプなんでしょ?(笑) でも、それでどっか抜けてて俺が面倒見られるような人がいいな。
――いよいよ贅沢な気がします。そんな人、いるんでしょうか。
芹沢:それはね、探せば、ちゃんと。だけど、本当は俺にだけ優しくして欲しいんだけどね。優しい人は皆に優しいから。
――んー、何だか妙に具体的ですねえ。実は、本命がいるとか?
芹沢:(笑)





――――と、芹沢選手は笑って答えてくれませんでしたが、その笑顔は、いい恋愛をしているんだろうなと、思わせるに十分でした。
そんなに思われている人がいるなんて、思わず嫉妬しちゃいそうでしたが、芹沢選手の笑顔は、読者の皆さんにお見せ出来ないのが残念なぐらい、素敵でした。
かっこいいというイメージが先行していた芹沢選手でしたが、ご本人はそのイメージ以上にかっこいい人です。
これからも色々な分野で活躍する芹沢選手は、要チェック。






























 バタン。










 「〜〜〜〜〜っっ」
 斉木は、音を立てて本を閉じ、頭を腕全体で抱えて机に突っ伏した。



 腕と、髪の隙間からかすかに見える耳が赤い。



 知っている人間が読めば、芹沢の指す『好きなタイプ』とやらが、斉木だということは一目瞭然だろう。
 何しろ、肝心なところで少々鈍い斉木ですら、分かったぐらいだ。
 優しいかどうかは知らないが――。
 人よりマメなのと、気ぃ遣い屋なのは、周囲に言われ続けているから、多少自覚はある。





 そりゃあ、成美も見せたくなるだろう。





 「あんの、バカッ」
 うめいてみても、人気のない教室に空しく響くばかりだ。
 救いは、このインタビューが掲載されたのが女性向のファッション雑誌だったと言うことか。
 勿論、斉木のように目を通す人間もいるだろうが、男性向け雑誌に載るよりは、確率が下がるだろう。
 少しだけ、だが。
 内海辺りの目に止まれば、FAXで回されかねない。
 そんなことになったら、さすがに泣くかもしれない。
「はあああぁぁぁ」
 ようやく顔から熱が引いたのを感じて、頭を上げた斉木は、深い深いため息をついたのである。




















 こんな日に限って、お迎えの日だったりする訳で。
 と言うか、発売日を確認したら、少し前に出た雑誌だったので、成美はわざわざ今日と言う日を狙って渡したのだろう。
 捨ててしまおうかとは、思ったのだが。
 かなり悩んだ挙句、結局踏ん切りがつかず、バッグの中に丸めて突っ込んだ。
 そのまま、芹沢の部屋に拉致監禁――もとい、芹沢の部屋を訪れて、
「今日は何だか疲れてるから、飯作ってもらえませんか?」
 と言う、芹沢のお願いに、すばらしいシステムキッチンで料理の腕を振るう斉木は、すっかり雑誌のことなど忘れていた。
 ちなみに、純粋に料理の腕で言うと、芹沢の方が上かもしれないが、芹沢の料理はどちらかと言うと店で出されるような洗練されたものであり、斉木の料理は完全に男の家庭料理であったから、一概に比べるのは難しい。
 もっとも、芹沢は、斉木がどんな宇宙からの物体Xを作成してしまったとしても、恐らく文句なく食べてしまうだろうから、そもそも斉木の腕前など関係ないのかもしれない。



 簡単に、と言うことで、キッチンで額に汗してパスタを茹でる斉木の耳に、リビングから芹沢の素っ頓狂な声が届いた。
「何ですか、これ!?」
「は!?」
 よく分からなかったので、愛想のない返事をした斉木の背後に、いつの間にかファッション雑誌を手にした芹沢が立っていた。
「何でアンタが、こんな女物のファッション誌なんか持ってんですか」
 肩越しに振り向いて、斉木は凍りついた。
「そ、それは…」
「まさか、アンタに似合う服なんかないでしょ」
 斉木の女装――想像するだに恐ろしい。
「も、貰ったんだよっ」
 斉木はようやく言葉を絞り出した。
「プレゼントでもねだられたんですか」
 と、芹沢は図らずも斉木と同じことを言った。
「ち、違っ。それ、お前のインタビューが載ってるからって、くれたんだ」
「…………あの女か」
 芹沢の整った眉が寄る。ついでに鼻の上にも皺が寄った。
 あの女というのは、多分、成美のことだろう。
 であれば、ドンピシャである。
 怖くて確認など出来ないが。
 芹沢は、斉木に必要以上に近づく人間は、それが男であれ、女であれ、牙を剥く。
 成美ぐらいになってくると、芹沢にとってもはバイオハザードレベル4クラスらしい。
「こんなの、言ってくれればサンプルが事務所にあったのに」
「言う訳ないだろ。もらうまで、インタビューに応じてたことも知らなかったのに」
「知らない?」
 芹沢の眉尻がくっと上がった。
 斉木は地雷を踏んでしまったのだ
「俺、ちゃんと出かけるときに言ったはずですよ、今日、雑誌のインタビューだって」
「いやっ、そういう意味じゃなくてっ、こういう雑誌のインタビューだとは言ってなかったろ、お前!」
 斉木の必死の言い訳に。
「そうでしたっけ」
 と、芹沢はあっという間に矛を納める。
 だが、その代わりに、
「で、いかがですか、感想は?」
「なっ、こらっ」
 芹沢が背後から斉木を抱きしめる。
 斉木は、慌てて身を捩るが、そんなことで手を離すはずもない。
「斉木さん?」
「……口からデマカセ言いやがって」
「やだな、基本的に本当のことしか言ってないですよ?」
「基本的にって…」
「事務所のチェックが入っちゃって、微妙に変えられちゃったところがあるんですよ」
 では、何か――。
 実際はもっと露骨なことをしゃべっていたと言うのか。
 ペラペラペラと。





 サアッ、と、斉木の頭から血が下がった。





 手を入れてくれた事務所、ありがとう。
 心の中で手を合わせる斉木の耳元に、芹沢が囁く。
「『理想のタイプ』は、全部ホントですよ」
「せり…おま…」
「それで、俺以外には優しくしないでくれると、ホントに最高なんですけどね」










 絶句。










 どうしてそんな恥ずかしい台詞をいけしゃあしゃあと吐けるのか、この男は。
「アンタは、いつも言い聞かせてないと、すぐ忘れたフリするからね」
 芹沢は、斉木の心を読んだかのように、更に抱きしめる腕に力を込めながら言った。

――どうして分かる?

 心の中だけで首を傾げる斉木から、突然、芹沢の腕の拘束が外れた。
 何事かついて行けずに呆然とする斉木の耳に、芹沢の悲鳴が飛び込んでくる。
「斉木さん、鍋、吹いてるっ…」
「わわっ」
 斉木は、目の前で盛大に吹き零れたパスタ鍋のガスコンロを止める。




















 この日、二人の夕食は、アルデンテのないパスタであった。

























えっと、このネタは、大分前に思いついたものです。
で、参考のために、男性アイドルのインタビューが載っているファッション誌を参考として買いました。
しかし、書く前に忙しさにかまけてネタ自体を忘却の彼方に追いやってしまい、参考のはずだった雑誌を捨ててしまいまして、結局、全くのデッチアゲと化しまして、こんなダサイインタビューの存在が許されるのかは、疑問です(滝汗)。
何がきっかけだったか分からないんですけれども、突然思い出して、書き出してから、リクの内容にあうかと思い始めたのですが…いかがでしょうか?
困るほど芹沢に愛されている斉木。
いつもの風景ですね(苦笑)。


夕日