ジェラシー 〜SIDE: SERIZAWA〜 メロディーだけの「詩」のようだ。 ややこしい歌詞がない、その分洗練された見事な音。 草原の中で聞く、 風の囁き。 ようやく俺は、 「答え」を見つけたのかもしれない。 そんな綺麗なものではないことも知っているが。 文学的表現がいかに似合おうとも、 だから俺は、いつも焦っている。 激しく俺を揺さぶるジェラシーに。 罪深き恋の中で そう簡単に物事は区別出来ない。 どこかの国のように、白か黒かで片付けば楽だろうに。 いつの間にか、二つのものが同時に心に住み付いて、あろうことか、当初のひとつよりも、それに付随してきたもうひとつが、今は占拠してしまっているようなのだ。 どうもこれは、分が悪い。 気付いてしまった以上、こちらが負けだと知っているのだし。 一体、いつから自分がこんなに大人の考えをするようになったのだろう。 本当ならいつも自分が窘められる存在だったはずなのに。 いつのまにか追い越してしまった、こういう部分。 あのひとは純粋培養の温室で育った花だろうか。 いや、それはとてつもなく似合わない表現だ。 我ながら笑いさえ込み上げて来る。 確かにあのひとは、他の誰から見ても立派な大人だし、いい男だ。 それをどうかしようと考えるような酔狂な人間は自分ぐらいのものだろう。 性格が可愛いわけでもなければ、守ってやりたくなるわけでもない。傍目からは、自分のほうが守られているくらいだ。 それでもなあ。 こんな女子高生みたいな悩みを自分が抱えていると知ったら、自分のファンやチームメイト達はどんな顔をするだろう。 少し見てみたい気もするが、自分にとってこれ以上の恥はないのだから、やめておこう。 いい年をして、少なくとも人の10倍は恋愛遍歴を重ねて来た自分であるにも関わらず、この有様だ。 今回ばかりは、勝手が違う。 どうしてくれよう、この感情。 月影のfall in love 綺麗な想いを抱いてみても、 結局行き着く所は、変わらない。 どんな相手にも抱かなかった、この感情。 敢えて男に抱くとは、これまで振って来た女どもの呪いだろうか。 いや、違うな。 誰かのせいにして、 この野蛮な感情を処理してしまいたいだけなのだ。 どんなに文学的な言葉を連ねても、 欲しいものは、たったひとつ。 うなされて目覚めた物憂げな朝に 「誰も信じないよなあ、こんな事。」 そりゃあそうだろう。 履くほどの女の甘い誘いさえ一切無視したくせに、バレンタインデーだからと言って、紙袋一杯のチョコレートを抱えた姿を見て嫉妬に目が眩んだうえ、その後の誕生日発言に天にも昇る勢いで機嫌を直し、なおかつそのまま押し倒してしまい、挙句の果てに泣き寝入りをさせてしまった。 斉木誠を、だ。 隣で涙の後すら残して眠る斉木を、頭から指先まで丸めて食っちまいたいと思う酔狂は、芹沢ぐらいだろう。いや、現実にはもう食ってしまったし。 これで飽きてしまうのが、芹沢という男の短所であり、女どもが夢見て近づいてくる所でもあるのだが、これがどうして斉木にはそういったものが全くない。 女みたいに柔らかくもない体だし、何よりゴツい上に同じモンが付いているわけだし。 甘えて来るわけじゃなし、肉体的に守ってやる必要もないし。 なのに、何で選りにもよって斉木だろうかと自分でも思う。 まあ、一般的な考えとして、だ。 何時の間にか、あの神谷に向けられていたはずの野蛮な感情が、 斉木に対してしか湧いて来なくなった。 何時からだろう? 「……・によりますと、昨夜11時頃○○航空のボーイング○型旅客機が、○○空港を離陸して数時間後に墜落した模様です。墜落現場は…………」 小煩い、目覚まし代わりのテレビを舌打ちして消す。 せっかく隣で安らかに(とも言えないだろうが)、斉木が眠っているというのに、下世話なニュースで雰囲気を台無しにはされたくない。 実際、芹沢は自分以外の事などどうでもいい。 飛行機が落ちようが、豪華客船が沈没しようが、自分と自分の大切な人が無事ならそれでいい。 それは、誰もが持っている、「真実」の部分。 それを隠すか隠さないかだけの事ではないか、と芹沢は思う。 数年前の、日本サッカー界に投げかけた言葉と同じではないか。 体裁ばかり気にして、「自分だけは」キレイぶってる奴らとは違うのだ。 さんざんマスコミや関係者は自分をこきおろしたが、結果的に自分は受け入れられている。 とりもなおさずそれは、自分の正しさを証明した事になるではないか。 自分から売った喧嘩で結果を予想していたとはいえ、釈然としないものは残った。 少しくらい、他人に望みを持っていてもいいじゃないかという甘えも、見事に打ち砕かれた。 だから、芹沢は前以上に自分に固執した。 自分で自分を証明しなければ、一体誰が自分を正当に評価してくれるのだ、と。 高校時代のように、誰もが「魔術師」芹沢を知っているわけではない。 プロはそんなに甘くはない。 そんな、ギリギリで生きていた芹沢の手を引く人間がいる。 「……あんたも、酔狂だけどな…。」 目を細めて、斉木の寝顔をみつめる。 もしかしたら、たまたま弱っていた芹沢が、木陰を求めただけなのかも知れないのに。 この斉木という男は、 多くを語らずして、自分を受け入れた。 身体ごと。 「本当、馬鹿だよなあ………」 こんな関係になってから数ヶ月が経つが、斉木は初めて身体を重ねた夜以来、お互いの関係については一切言及しなかった。 それは沈黙の肯定ではあったろうが、芹沢を不安にするに充分に値した。 『もしかしたら、同情されているだけなんじゃないだろうか?』 これはもう、芹沢にとって人生最大の問題だった。 同情されるとか、それを心配する自分とか、そんなものは彼の人生論理には存在しない「モノ」であったから。第一、こんなモノを斉木に対して抱く事すら思わなかったから。 「……んー…」 朝日に誘われたか、斉木が寝返りを打つ。 慌てて芹沢は、男2人には狭いベッドから落ちないように抱き寄せる。 窓から洩れた光に映る斉木の、陽に焼けた肩口がこのうえなく美しい。思わず指を滑らせてその感触を楽しんだ。 そして、自分の姿を想像して苦笑する。 絶対。 誰も信じない。 こんな風景。 裏腹の my sweet heat 指だけでは足りなくなって、そっと触れるように口唇を這わせ。 その感触に、斉木がようやく重たい瞼を開けて、ゆっくりと夢見るように微笑む。 ――――――――こんな幸福は、他の誰とももう味わえない。 もう、知ってしまった以上。 しかし、それを上回るこの独占欲。 どう、処理すればいい? 「……夢、見てたな……」 斉木が眠い目を擦りつつ、頬杖をついている芹沢の胸元に擦り寄って言う。 湧きあがる衝動を指先にだけ託して、その真っ黒なくせ毛を弄ぶ。 「どんな夢です?」 「んー……、サッカー、してた。みんなと。」 くすぐったそうに目を細め、斉木も悪戯な芹沢の手を真似て。 子供みたいだった顔が、徐々に覚醒していつもの男らしい顔立ちが戻って来る。 こんな変化が、芹沢を虜にする。 「そこに、俺は居ました?」 ぱた、と音さえ聞こえそうな瞬きをひとつ、斉木はふいに笑い出した。 「何ですか。気持ち悪いなあ。」 「…いや、悪い。おまえ、あんまり夢の中の通りだからさ。」 斉木は忍び笑いのまま上半身を起こし、煮え切らない表情の芹沢の鼻っ面をぴんと指で弾いた。 「おまえ、自分が日本代表のFWだって解ってないだろう?」 言葉以上の意味が解らず、芹沢は首を捻る。 堪え切れない、という風で斉木は笑い、恐らくこんな素面の時には初めてだろうキスを、芹沢の口唇に寄越した。 触れるだけのフレンチ・キス。 「夢でまで、俺をマークするなよ。」 ………その台詞と笑顔に、当然芹沢は、相応の返事をした。 「お前、やりすぎだって言ってるだろ……」 とうに陽は天高く昇り、近くの公園からだろう子供の歓声が耳に届く頃。 斉木は、自ら招いた災難に顔を歪めて起き上がった。 「しょうがないでしょう。あんな可愛いこと言う方が悪い。」 芹沢はベッドを降りようとする斉木を許さず、広い肩を後ろから抱きしめて妨害する。 「可愛いって……そんな事言った覚えは……」 されるがままにベッドに引き戻される斉木を、乱れたシーツに再び縫い付けることに成功して芹沢は満面の笑みを浮かべた。 「言ったじゃないですか。『夢でまで』って。」 眉間に皺を寄せて、斉木は首を捻る。それのどこが可愛いんだと言いたいのだろう。だから先に言ってやる。 「あんた、『夢でまで』俺と一緒に居たんでしょ?本当、自覚無しに言うんだから。」 「夢でも、俺と一緒に居たいって事じゃないですか。」 抗議の声を挙げかけた斉木の行動は予測済みで、自分が言い終えると同時に芹沢は斉木の口唇を同じそれで塞いだ。 ――――と、ここまでならいつもと同じ朝(昼)なのだが。 珍しく自分から離れた芹沢を、不審気に斉木が見つめ返す。 「そういや、FWの自覚がないってどういう意味です?」 昼までベッドに居るハメになった斉木の原因の前に言った、どうしても気になっていた台詞を思い出して芹沢は手を止めたのだ。 ぽかんと口を開いていた斉木が、またしても突然弾かれたように笑い出す。 何がおかしいんだと芹沢が不満げに口を開こうとして、それを斉木が制す。 「……だから、そういう所が解ってないって言うんだよ。」 「おまえは、何でも手に入る人間なんだぞ?」 罪深き恋の中で 「ジェラシー抱えてんのは、おまえだけじゃないんだよ。」 「…………それって……斉木さん……」 馬鹿みたいに口を開けて、でも徐々にその言葉の意味を理解して。 「俺、…………馬鹿んなってもいいんですか?」 芹沢の台詞に、斉木はひとしきり笑って、 そして、男が惚れてもしょうがないだろうって表情をした。 「俺は、その馬鹿に捕まった大馬鹿野郎だよ。」 僕らを操る遺伝子 自分の想いに必死になって、きっと斉木の心を探る余裕はなかったのだろう。 斉木に葛藤がない筈がない。 そんな事は解ってはいたけれど。 斉木の中の神谷に対する想いを、自分で勝手に解釈していた。 こうして自分に抱かれている斉木と、 神谷を見守る斉木とは、 別人なんだと。 「――――俺、何でもあんたのことなら、解ってるつもりだったのに…」 何にも理解していなかった。 どんな想いで、自分に抱かれていたか。 どんないいわけも、用意もしないで。 「……あんたみたいに純粋な人、俺は知らない。」 こんな真摯な人だからこそ。 俺は惹かれたんだな…………… 魔性の恋に魅せられて もう、ジェラシーを抱く必要はない。 そう、思うけれど。 やっぱり。 こんな綺麗な心を持ってる人だからこそ、尚危ない。 「絶対、絶対、誰にもやんない。」 想いの丈、斉木を抱きしめて芹沢は思う。 ゴツい男だろうが、ハンサムでなかろうが、サッカーにかけては鬼だろうが。 誰にも渡すものか。 この感情を馬鹿にするならするがいい。 「苦しいって、馬鹿。」 抗議しつつも、言葉に甘さが滲み出ている。 現に、斉木の腕はしっかりと芹沢の背に廻されて。 愛しさに、眩暈がする。 きっとこれから先もこうなのだろう。 斉木が望んでいるものは、まだ完全には理解していない。 最も、誰しもそれは抱えているものに違いない。 だからこそ、 芹沢を満たすこの悦びほど、 激しく揺さぶられるジェラシーはなくならないだろう。 「俺が何でも手に入る人間だったら、あんたを手に入れるのにこんなに苦労しませんよ。」 きつく抱きしめて、斉木の首筋に顔を埋めて。 斉木にその表情は見えないけれど、何となく解る気がした。 ――――――きっと、ふたりとも同じ表情をしているのだろう。 「何でも思い通りになるんだぞ?」 「だったら斉木さん、俺の為だけに生きてくれます?」 「だから、そうじゃなくて…」 「俺が欲しいの、斉木さんだけだから。」 「…………」 「もし、斉木さんが俺の為に傍に居てくれて、怒ったり、笑ったり、泣いたり…あ、泣かすのはベッドでだけだけど、そうやって生きてくれるって言うんなら、それこそ俺はあんたの為に何だってしますよ?あんたは何でも手に入る人間を、手に入れてしまうことができるんです。」 「………おい、……(ついでにとんでもない事言ったな。)…」 「あんただけが、俺を手に入れられる。」 世間なんてどうでもいい。 女なんて、誰にでもくれてやる。 だけど、 この、あたたかいいのちだけは。 そのときが訪れた時、 芹沢はやっと人間になれる気がする。 溺れているんじゃない。ただ、渇望しているだけなのだ。 「俺を欲しがってよ、斉木さん……」 裏腹の my sweet heat ジェラシー 了
はーははははは。(←笑うしかない。)
どーやってもなー。あまあまな会話シーンしか浮かんで来ない。 これはさちの最大限のお笑いなんですけど……そんなことゆっちゃ、ダメダメかひら。 誰か…壊れたさちを元に戻してくれえええええええええ!! で、つづく(爆死)。 そりゃあんた、斉木にも頭ぐるぐるになって頂かないといかんでしょう(笑)。 それ以前にオレがぐるぐる…・・ それはさておき、今回のお歌はミスチルのその名も「ジェラシー」。 まんまやないか……・反省。 けど、桜井さんがこんな歌詞つくるとはなあ…ちと以外。 オレも、お笑いやりたいのかシリアスやりたいのかもうわけわかんねえ。 でもこの情熱は、行き着くところまでいっちゃうのかな……(隠して隠して!ヤバいぞ!!) |