無題

 バルドゥールは自分の股間に顔を埋めているローゲルの灰色の髪を撫でる。
 額に張り付く崩れた前髪をよけると、奉仕するローゲルの表情が露になる。
 その真剣な表情が更にバルドゥールを煽る。
 ローゲルの頭を掴んで固定する。
「んっ」
 先端に舌を巻きつけられ、強く吸い上げられてあっさりと果てた。
 ローゲルは口の中に放たれたものを当たり前のように全て飲み込む。
 軽く眉根を寄せて口許を汚したその様が、普段のストイックな騎士の姿と対比を描いてそそる。
 そんなローゲルの不意をついてバルドゥールが口の端に口付けると、ローゲルが慌てた。
「いけません、汚い」
「いけなくなかろう、それは僕のものだ」
 ふと視線を落とすと、緩く勃ち上がりかけているローゲルのものが視界に入った。
 それに興味を覚えてバルドゥールが手を伸ばす。
「で、殿下」
 ローゲルが慌てた時にはもう遅い。
 体の中心を捕らえられて抵抗出来る男はほとんどいない。
 腰を引こうとするローゲルの雄を強く握ると動きが止まる。
「ふ…ぅん」
 頬を上気させ、快楽を示す様子に興が乗って、初めてバルドゥールはローゲルのものを口に含んだ。
 苦い男の精の味がする。
 こんな味がするものなのかと思うバルドゥールの上で、ローゲルの慌てる気配と声がする。
「いけません、殿下、お離し下さい」
 ローゲルの声が震えている。
 押し返したそうに肩を掴んでいるが、バルドゥール相手では腕力に訴えることも出来ずに困惑しているようだ。
 止めろと口では言っても無理矢理引き剥がされる様子もなく、何よりローゲルが感じているように見える。
 だからバルドゥールは耳を貸さず、いつもローゲルがしてくれるように、舐めて、歯を立て、吸い上げた。
「駄目です、殿下」
 言葉とは裏腹にローゲルの腰が揺れる。
 ローゲルのものを離さずに視線だけで覗き見ると、ローゲルは眉根を寄せて苦しそうな表情をしている。
 バルドゥールは手だけは離さずに顔を上げて問う。
「僕はそんなに下手か」
「い、いえ、そんなことは…」
 肩を震わせて息も絶え絶えな様子でローゲルが答える。
 それを聞いてバルドゥールが命じる。
「ならばよかろう、出せ」
「それはいやです」
 それだけはきっぱりとローゲルは答えた。
 大きく息をして必死に体の熱を逃がそうとしているが、バルドゥールが責める手を止めないのであまり意味をなしていない。
 ふと思い立ってバルドゥールが先走りを流す鈴口を指で押し広げるように刺激してやると、ローゲルは声にならない声を上げて悶える。
「……っ!!」
 感じてはいるのだ。
 言葉通りにバルドゥールの口に出すのがいやだと言う事なのだろう。
「ならば今出せばよい」
 口にはしていないのだからよかろうと言うと、ローゲルはいやいやをするように首を横に振る。
「駄目です……殿下の、お顔に……」
 苦しい息の下のローゲルの言葉に、一瞬驚いた顔をしてからバルドゥールは呆れたように呟く。
「強情だな」
「あっ」
 赤い舌先で鈴口を柔らかく叩いてやると、短い悲鳴を上げてローゲルは唇を噛み締めた。
 ローゲルの唇に赤い血が滲んでくる。
 バルドゥールは一つため息をついて、耳を甘噛みしながら囁く。
「何故そんなに嫌がるのだ。いつもローゲルが僕にしてくれていることではないか」
「で、殿下と私は……違い、ます」
「かまわぬ、僕が許す」
「いやです」
 一目で分かるほどびくびくと体を震わせながら、ローゲルはそれだけはという風情で拒否する。
 よく見れば涙を溜めた目の焦点も怪しくなっている。
 散々抱かれているくせに、ここまで拒否することもあるまいに。
 バルドゥールはそう思ったが、これ以上強要したら嫌われてしまいそうな気配すら感じる。
 諦めるしかなさそうだ。
 少なくとも今日は。
「仕方ない」
 バルドゥールは香油の入った壷を引き寄せる。
「ひんっ」
 後ろの蕾に垂らしてやると、熱くなった体には冷たく感じるのか、いつもならば聞けないような声を出す。
「いい声だ」
 バルドゥールはローゲルの首筋に唇を這わせながら、蕾に指を二本立てた。
 熱を溜めこみ完全に出来上がっているローゲルの体は、香油のぬめりを借りたとは言え、いきなり押し入って来た指をあっさりと飲み込む。
 既にその存在を自己主張していた前立腺を刺激してやると、ローゲルは背を仰け反らせて果てた。
「あ、ああっ、あああ!」
 我慢に我慢を重ねたせいだろうか、なかなか吐き出しが止まらない。
「ひぐっ……ぅぅ、いっ!!」
 バルドゥールの視線を気にする余裕もなく、あられもない声を上げながら精を放つ。
 涙も精も止まらず、ローゲルにとってはそれは永遠に続く責め苦に思えた。
「はあ、はあ……うんん」
 全て放ち終わり、荒い息の下ようやく理性が戻って来る。
 理性が戻ってしまうと、バルドゥールの前で痴態を見せてしまったことが恥ずかしくて堪らない。
 先ほどとはまた違う赤さで全身を染めるローゲルの上で、ローゲルの腰周りに視線を向けてバルドゥールが笑う。
「ああ、たくさん出たな」
 その無邪気な笑みに、ローゲルはどこかに消えてしまいたい思いに身悶えるのだった。



夕日(2012.09.22)




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