後夜
ゆるゆると意識が浮上する。
ぼんやりした意識の中で寝返りを打とうとしてかなわず、そうしてようやくローゲルは覚醒する。
背中に暖かな体温と安らかな寝息を感じ、次に自分の腰が後ろから抱きかかえられていることに気がつく。
背後から伸びる細くしなやかな腕は、その見た目からは想像出来ないほど力強い。
意識を失う前、簡単に組み敷かれ、与えられた快楽を思い出してローゲルは赤面する。
いや、実際のところ、半分も思い出せはしないのだ。
与えられた快楽に溺れてまた理性を飛ばしたのだろう。
いい歳をした男が、自分の息子ような歳の男にすがりついて情けを乞う浅ましさを思うと目眩がしてくる。
しかし、それは間違いなく己の所業なのだ。
「殿下、申し訳ありません」
ローゲルは小さく呟く。
この関係が誤りであることは頭では分かっている。
自分はともかく、バルドゥールにとっては長く続けていいはずがないのだ。
一時の気の迷いで片付けられる内に清算すべきだと理性は告げているが、それを実行出来ないのは、ローゲル自身がバルドゥールに未練を持っていて、バルドゥールを巻き込んでいるからに他ならない。
ローゲルは自己嫌悪を振り切るように頭を一つ振った。
それから、寝入っているバルドゥールを起こさないように身を引き抜いて、外した腕をそっとベッドに戻す。
バルドゥールの体を冷やさないように掛布団を直してベッドから降りた瞬間、生暖かい感触を内腿に感じた。
慌てて後孔を締めたが遅い。
バルドゥールにたっぷり注ぎ込まれた白濁した液が溢れて内腿を伝って行く。
「っ」
ローゲルは今にも泣き出しそうな表情で脱がされた衣服をかき集め、慌ててバルドゥールの寝所を出る。
向かう先は湯殿だ。
バルドゥールの為にいつでも入れるようになっている湯殿に駆け込んで、ローゲルはようやく息を吐く。
その瞬間にまた内腿を伝う感覚に膝が折れそうになるが、何とか踏みとどまる。
バルドゥールが目覚める前に完全に退出しなければならないのだから、自分の感慨にふけっている暇などないのだ。
ローゲルは湯殿の壁に左腕をついて上半身を支える。
自然に腰を突き出す姿勢になって、誰も見てないと分かっていても、羞恥で耳まで赤くなる。
そのまま、ローゲルは自分の右手の人差し指と中指をまだ充血している後孔に差し込んだ。
「ふっ」
指先を曲げた刺激で我知らず腰が揺れる。
「ああ…」
中に残ったままのバルドゥールの液をかき出す刺激が、ローゲルの体教え込まれた感覚を呼び覚ます。
「あ、あ、ふぅ、ん…殿下…」
体内からかき出した粘液を内腿に感じながら、ローゲルはうわ言のように呟く。
こんな浅ましい姿は誰にも見られたくないと思う。
特に、バルドゥール自身には。
きっと呆れて見離されるに違いない。
それこそ望むべき事態であるのかもしれないが、感情的に耐えられそうもない。
そんな自分の心身で手一杯だったローゲルの耳元に、信じられぬ声が吹き込まれる。
「すまぬ、ローゲル。これ以上は我慢出来ぬ」
「え…」
ローゲルが恐る恐る振り向くと、切なげに眉根を寄せたバルドゥールが立っていた。
バルドゥールはローゲルの右手を後孔から引き抜いて、白いガウンの合わせから引き出した自分の熱く猛るモノを押し当てる。
柔らかくほぐれ、まだ全てかき出せてはいなかったローゲルの後孔は、あっさりとバルドゥールの逸物を根本まで飲み込む。
「あ、あ、お許し下さい、殿下…」
理性を失う間もなく突き上げられて涙を流すローゲルをバルドゥールはただ荒い息を吐いて言葉もなく揺らす。
「あっ、ダメ、そこは…」
目を見開いてローゲルがうわずった声を出した。
体の奥深くを突かれて膝が砕けるが、膝をつくことも許されない。
「イ、イク…」
「いっ」
一際深く突き上げられて、体内に熱いものが放たれるのを感じる。
「ふっ…」
バルドゥールは軽く身震いして最後の一滴まで注ぎ込み、背中からローゲルを抱きしめる。
それからゆっくりと繋がっていた体を離した。
もはや足腰に力を入れられなくなっていたローゲルは膝から崩れるが、崩れる長身を支えてバルドゥールが膝の上に抱えこんだ。
「見、見ないで下さい…」
「何故隠す。見せよ」
両腕で顔を隠して弱々しく呻くローゲルの背を片腕と胸で支えながら、残る手でバルドゥールは腕を剥ぐ。
バルドゥールに露わにされたローゲルは、羞恥と快楽で顔を朱に染めて、涙を流していた。
その涙をバルドゥールが舌先ですくう。
それさえも刺激に感じて体を震わせるローゲルはまた顔を隠そうとするが、それはバルドゥールが止める。
「だから隠すな」
半ば呆れた声に、ローゲルの顔が強張る。
その頬にバルドゥールの手が当てられて上向かされる。
見上げたバルドゥールは満ち足りた表情を浮かべていた。
「殿下は、どうしてこちらに?」
どうやら開放されそうもない様子にローゲルが一番の疑問を呈する。
すると、バルドゥールはしてやったり言わんばかりの面持ちで告げた。
「いつもローゲルがいなくなってしまうから、今日こそは引き止めようと思ってな」
後をつけられていたことに全く気がつかなかったと言うことだ。
いくらバルドゥールも卓越した武人とは言え、その気配にすら全く気がつかなかったと言う事実をローゲルは恥じた。
そして続くバルドゥールの言葉に、別の意味で恥じ入る。
「出て来るまで待つつもりだったのだがな、ローゲルの声を聞いて堪えるのは難しかったな」
「……お恥ずかしい限りです」
「余こそ無知ですまぬ。始末が必要だと知らなかったのだ」
と、バルドゥールはローゲルのあごを自分の肩に乗せるように横抱きにした。
抱き直されてからローゲルは慌てたが、既に手遅れだった。
「あ、あのっ、自分で……」
「いいからしっかりつかまっておれ」
「あっ」
指を入れられ内臓からかき出される感触に、ローゲルはバルドゥールにしがみつくことしか出来なかった。