灼熱
「ローゲル、お前が欲しいのだ。お前の全てが」
バルドゥールが真摯な眼差しで告げる。
それが冗談であるかどうかなど、ローゲルにとっては明白なことだった。
ローゲルは天を仰ぎ思う。
――ああ、背徳の思いを抱いていたのは自分だけではなかったのか。
自分だけの思いならば、誰にも悟らせずに墓まで抱えて行くつもりだった。
しかし主に言わせてしまったならば、それが自分と同じ思いならば、どうして拒否が出来ようか。
「ローゲル」
天を仰いだその仕草が拒絶に思えたのか、バルドゥールの声が強張っている。
「殿下」
バルドゥールを見返したローゲルは、微かに笑んで答えた。
「私も同じ思いです」
その言葉に。
「ああ、ローゲル……!」
バルドゥールがローゲルを抱き締める。
ローゲルも遠慮がちに、だがしっかりと抱き締め返した。
抱き合って、口づけを交わし、見つめあって、二人ソファにもつれ込む。
背中に当たった柔らかい感触を確かめる前に、ローゲルは両頬を手で包まれて上向かされる。
重ね合わせた唇の隙間から、バルドゥールの舌が侵入し、ローゲルのそれを絡めとる。
同時に足の間に入り込んだバルドゥールの膝がローゲルの股間を刺激する。
ローゲルのものが布越しにでも明らかなほど熱く質量を増した時に、ようやく唇を解放される。
溺れた人のようにローゲルは激しい呼吸を繰り返す。。
その間に、バルドゥールはローゲルのズボンを下着毎膝まで引きずり下ろした。
既に先走りを零すローゲルのものを掴み、荒々しく扱いた。
それはただ急くばかりの稚拙な愛撫だったが、ローゲルの体は敏感に反応する。
「あ……、イ、イク……」
あっという間に達してしまい、ローゲルは赤面する。
いい年をした男のくせに、これではまるでやりたい盛りの若者のようではないか。
だが、そんなことをのんびり思っている暇はなかった。
「ひっ」
バルドゥールが身も心も弛緩したローゲルの右足を高く持ち上げ、放たれた精で濡れそぼつ指を後孔に押し込んだのだ。
本来何かを受け入れる場所ではない肉を開かれる痛みにローゲルが短い悲鳴を上げる。
持ち上げた右足を肩で支え、バルドゥールが痛みで硬直したローゲルの体を宥めるように撫でさする。
指をゆっくりと出し入れされながら、腰の付け根から背筋を逆撫でされて、ローゲルが震える。
その震えすら、今は刺激にしかならない。
「んう」
刺激に気を取られた瞬間に指を2本に増やされる。
「くっ」
痛みをこらえるローゲルの目じりに涙が浮かぶ。
その涙を、バルドゥールが舌ですくった。
「い、痛……」
指を3本に増やされて、ローゲルが苦痛を漏らす。
だが、ローゲルの中で痛みだけではない、別の感覚が生まれつつあった。
ローゲルはその未知の感覚に怯える。
そこに分け入ってしまったら、もう二度とは戻れないと何かが告げる。
しかしバルドゥールに支配された体は、ローゲルの意思などお構いなしにその感覚を伝える。
背筋を這い上るように伝わるそれが淫楽であると気づくまでにそれほど時間はかからなかった。
これ以上はいけないと思ってもその思いは言葉にならず、ローゲルはただ体を震わせるだけだ。
しばらく慣らされた後に指を抜かれて、ローゲルは助かったと思うと同時に幾ばくかの物足りなさも感じる。
熱に浮かされたように霞む視界の中で、バルドゥールの顔が大写しになった。
触れるだけの口づけの後に、バルドゥールがまるで苦痛をこらえるような表情で告げた。
「すまぬ、ローゲル。もう耐えられぬ」
どうしたのかと尋ねるより早く、ローゲルの後孔に熱いものが押し当てられ、そのまま潜り込んだ。
「ぐっ」
ローゲルは無意識に押し返そうとして下腹に力が入ってしまう。
その結果、先端だけを咥えこんで締め付ける格好になった。
押し引きならぬ状態に、バルドゥールがうめく。
「ロ、ローゲル、苦しい……」
「あっ……はぁ、殿下……」
ローゲルは何とかバルドゥールを受け入れようと深呼吸を繰り返す。
バルドゥールも気がついたのか、ローゲルと呼吸を合わせようとする。
何度目かの深呼吸でわずかにローゲルの体が緩んだ瞬間を逃さずに、バルドゥールが一気に根元まで押し込んだ。
「ひっ」
熱い鉄串で脳天まで貫かれたような衝撃に、生理的な涙が止まらない。
だが、激痛を追うように、バルドゥールに引き出された快楽も背筋を上って行く。
そんなローゲルの上でバルドゥールは心の底からの歓喜の声を漏らす。
「やっと一つになれた……!」
貫かれた腰を中心に淫楽の波がローゲルの体に広がって行く。
自分の体に何が起こっているのか分からず、唾を飲み込むことすら忘れる。
ローゲルは腕で顔を隠した。
今の自分の表情をバルドゥールに見られたくないと思った。
しかし、
「隠すな、顔を見せよ」
顔を覆った腕をバルドゥールに引きはがされる。
露わにされたローゲルの顔は、いまだ涙は止まらぬものの、明らかに痛み以外の感覚に支配されていた。
焦点の合わぬ視線をさまよわせ、空に腕を伸ばす。
「あ、あ、殿下……っ!」
バルドゥールは宙をさまようローゲルの手を掴み、指を絡ませ、その甲に口づける。
そのまま律動を繰り返し、ローゲルの中に白い精を放つ。
「ふぅん」
最後の一滴まで注ぎ込んだ後に、バルドゥールは半ば意識のないローゲルの体を抱き締めて呟いた。
「ローゲル、お前は僕のものだ。二度と離さない、誰にも渡さない」