30分後――――――……
輪高の校庭に集まったのは30人程度にすぎなかった。
桧山と灰刃の兵隊たちはその殆どが姿を見せていない。
皆バイクのエンジンを噴かし爆音を轟かせ士気は上がっているが、俺はその人数に、不安は拭えなかった。
昨日、武装準備を開始したばかりで、まだ武器も揃っていない。
「悪鬼は―――……100を超えていなかったか?」
「一応は――…」
呆然とする俺の声に空見が小さく答える。
輪高で迎え撃つならともかく、アウェイでこの人数は正直きつい。
しかも奇襲ではなく既に布告しているため、相手は待ち構えているだろう。
更に、撲斗や三麓の連中も応援にきている、と思った方がいい。
「空見」
「アズマか」
空見に声をかけてきたのは悪鬼四天王の一人、東江黎だ。
誰も“あがりえ”と読めなかったため、仲間からはアズマと呼ばれている。
寡黙で何を考えてるのかよく分からない男だ。
「この子が?」
「羅城せつらだ、よろしく頼む」
東江が俺に値踏みするような視線を向けてくる。
「アズマ、彼女は本物だ。間違いない」
「おまえがそう言うなら」
俺は東江と握手を交わした。
その手の大きさと硬さに、俺は何とも頼もしさを感じたが、向こうはどう思ったか――――……
東江が去ると、不意に空見が頭を下げてきた。
「本当にすまないと思ってる……」
「何がだ?」
「桧山たちがまさかこんなこと馬鹿げた真似をするなんて……。
俺がしっかり見張っていれば……」
「別におまえが謝ることじゃない………。
桧山も灰刃も、あいつらはあいつらなりの考えで輪高を救おうとしたんだ。
ただそれが俺にはどうしても許せないってだけだ……。
それに―――…」
「―――?」
「こっちこそ悪かったな。
今日はお兄さんの命日だって言うのに………」
「ふっ――――、兄貴と同じ日に死ぬのも悪くないかもな」
「けっ、バカ言ってんじゃねぇ――――」
だが俺は、空見の言葉を完全に笑い飛ばすことはできなかった。
タイマンで人が死ぬことはまずないが、ソウマンは時に悲劇を生む。
「空見、俺に使えそうな武器はあるか?」
「ああ、スタンガンと――――――刃物なんか、使うか?」
「ナイフか――――、前の俺なら武器なんて全く必要なかったのにな……」
「せつらさん。そういう発言はやめた方がいい。
少なくとも俺の前以外では。
頭のおかしい奴だと思われる」
「……………」
「空見、おまえは俺が羅刹だって信じてるのか?」
「そうなのか?」
「―――――――……いや、俺は………、
羅城せつらだ……」
「なら一つだけ言っておく。
せつらさん、俺は君が好きだ」
「はぁ…?何を言ってるんだ?
おまえが信じようが信じまいが俺は―――――」
「俺はせつらさんに言ってるんです」
「なんだそりゃ」
「だからもし、貴女のお友達を救えなくても、時々口説かせて貰いますから」
「なんだよそれ。
まるでこれから死にに行くような台詞じゃねーか」
「何か嫌な予感がするんだ―――…」
「ばーか。
人間て奴ぁ、あっさり死ぬけどな。
殺そうと思ったってそう簡単には死なねーもんなんだよ」
俺は声を張り上げ悪鬼全員に告げた。
「聞きやがれクソ野郎共!!
どう考えたって人数的にこっちが不利なんだ。
殺す気でやれ!
ちんたらしてっとあっという間に囲まれるぞ!!」
「はぁ?今日潰すのは征関なんだろ?
私立のシャバ僧なんて小指だっつーの!!」
「ちげえねぇwwww
逆にこんだけ人数集めて行く方が恥ずかしくねえかぁ?www」
「つーかよ。いつから俺たちの頭は女になったんだよ?
しかもなんなんだよその格好はよぉ!!!
どうみてもパンピーじゃねーか!
ツッパれもしねぇやつが頭張ってるってどういうことなんだよ!?
オイコラ、説明しろ空見ィ―――――!!」
「俺は別に構わないぜ?
そのかわりあとでちんぽ咥えてくれればな!ヒャハッハ―――――――」
空見が動くより先に俺は吠えていた―――――――――――――――
「るっっせえええええええええええええ!!
俺は羅城せつらだあああああああああぁぁぁ―――――――!!!!」
羅刹のごとく怒号したつもりだったが、弱い。弱すぎる。
そもそも声帯の作りが違いすぎた―――――。
下手をすると女が金切り声を上げてるようにしか聞こえないかもしれない……。
すぐ隣で空見が息を吸い込むのが分かった。
「ぐだぐだ言ってんじゃねええッッッ――――!!!!
いいか!!これから俺たちは征関ぶっ潰す!
悪鬼に逆らったらどういうことになるか、思い知らせてやれ!
いくぞッ――――――――――
野郎共ッッッ!!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――――――――――――――――!!!!」
俺は、無力感と寂しさを感じながら、それでも空見に深く感謝した―――――――。
だが、もしもみことに何かあった場合は
俺はもう一度羅刹へと戻る。
俺はポケットの中の小箱を強く握りしめた――――――――――――――。
第21話:招集
終わり