征関の正門が見えてくる。
流石は私立。
輪高とは建物の造りが、金のかけ方が違う。
建物の外観に圧倒されつつも、俺たちは一切スピードを緩めず構わず突っ込んだ。
正門からバイクで乗り付けると、そこかしこから悲鳴があがった。
(どこだ!!! やつらは――――――!!)
一般の生徒などに用はない。
目的は荒渡、そしてみことの救出!!
征関の奴らはすぐに現れた。
その制服は征関のものだけではない。
撲斗、三麓のものもあった。
やはり3校は既に手を組んでいたのだ。
その歴然とした人数差もお構いなしに、広場での大乱闘が始まった。
「荒渡ォォォ―――――――――!!!」
俺は奴らの中に必死に荒渡とみことの姿を探したが、その中には見つからず、ここへは来てない知った俺は、空見のバイクから飛び降り、人混みを一気に駆け抜けた。
そしてそのまま征関の校舎内へと突入する。
俺はまだ髪染めもしてなければピアスすらしていない。
みことのお陰で、その容姿はパンピーそのものだった。
むしろ優等生の印象さえあったかもしれない。
スタンガンとナイフを背に隠してはいるものの、俺は堂々と校舎内を走り回った。
羅刹の妹として顔が知られていることを若干危惧したが、皆、わずかばかり奇異の目を向けるだけで、俺に話しかけるものはいない。
(くそっ、どこだ―――――!?
女を乱暴するとしたら……、空き教室か、体育館か、倉庫か。
それともここにはいないのか?)
声が――― 聞こえた気がした。
それはみことの声。
助けを求めるでもなく 泣き叫ぶでもなく ただ、悲しいだけの 声―――――――――
「みことォォォ!!!」
俺はその声に引き寄せられるように校舎を飛び出した。
ただひたすらに、その声の方向へと向かう。
そのまま征関の校内を突き抜けて裏へ回り、敷地外へと飛び出す。
そこから少し離れたところに一つの倉庫が見えた。
錆付き、壁は汚れ、朽ちているその倉庫の窓にはなぜか全て目張りがしてあった。
建物の影に黒いバン。
間違いない。
(あそこか――――!!)
俺は走り、正面へ回り込むと両開きの重い扉に手をかけた。
が、開かない。
中から鍵がかけられている。
「みこと!いるのか――――――――――?
みこと!!」
俺は力任せに叩き、叫んだ。
俺の目の前で、ゆっくりと、その重い扉が開いた。
中は明るく、そして真っ暗だった。
闇に包まれた部屋の中心を、いくつもの照明が照らしていた。
ライトアップされるのは、折り重なる男たち。
男たちが一斉にこちらを向いた。
彼らの輪の中、足下にいたのは――――――――――――――――
「みこと―――――――――――――――――!!!!」
「あぁ―――? なんだよ?」
「おい、扉、閉めろ扉」
俺は部屋の中に足を踏み入れ、一目散に彼女の元へと走った。
途中何かに躓き、何度か転げながら、止めようとした男を突き飛ばし、ただ彼女の元へ。
下半身を剥き出しにしている男共を蹴散らし、みことを抱きかかえた。
彼女の肌が、手に滑る。
汗と精液の臭いが鼻をつく。
「みこと!!大丈夫―――――!?
みことっ!!みことっ!!しっかり!!」
「せつら……さん……?」
鉄製の首輪をつけられ、裸に剥かれたみことがゆっくり目を開けた。
顔にかけられ、目蓋を塞ぐ濁液をそっと拭ってやる。
「みこと……………」
俺は強く強く、彼女を抱きしめた。
「ごめん………」
みことが小さく呟いた。
「え……?」
「わたし、また、汚されちゃった………。
せつらさん以外……、触られ………な…っ…………のに……」
「なんっ――――でっ…………」
「おいどけよ、女。
俺まだイッってねーんだよ。
それともなにか。代わりにおまえが咥えてくれんのか?」
俺は腰に挟んでいたナイフを抜くと、躊躇無くそいつの男根を下から串刺しにした。
男の凄まじい絶叫が倉庫内に響いた。
「おい、カメラ止めろ!」
「てめえら―――――――――――――…
誰の女に手ェ出したか分かってんだろうな……!?
全員ぶっ殺してやるから覚悟しやがれ!!」
怒号する俺を男たちが取り囲んだ。
「君が本物の羅城せつらか?」
彼らの中から一人、前に出てきた男。
全裸だった。
大して鍛えられてもいない、どこかひょろりとした体が照明に浮かび上がる。
男は仮面をしていなかった。
その顔には見覚えがあった。
一見優しそうな仮面の下には、相手を喰らうどす黒い謀略が渦巻いている。
2重人格かと思わせるほどその態度を豹変させる、征関の悪魔――――……
「荒渡ォォォ―――………。
こいつには手を出すなと言ったはずだぜ………」
「え?荒渡さん、この女が羅城せつらじゃなかったんすか?」
「ああ、桧山が連れてきたのは別人だよ」
「テメェ、それを知ってて犯ったのか?」
「ああ、実に分かりやすかったよ。
自分がせつらと呼ばれた途端反抗するのをやめてね。
いやぁ〜〜実に健気だよねぇ〜〜。
泣かせる話じゃないか?うん?
友達の身代わりなら輪姦されるのも厭わないなんてさ。
もう楽しすぎて、腰を振ってる時も、中に出した時も、笑いを堪えるのに必死だったよ」
ブチッ―――――!!!!!
あまりの怒りに額の血管が破裂したのが分かった。
血が垂れ、視界が赤く染まる。
(これ、脳が壊れて死ぬかもな………)
そんなことを漠然と思った。
もう、抑えきれない。
俺はナイフを投げ捨て、スカートのポケットに手を入れた。
中にある小箱を握りしめる。
が、あまりの怒りに手が震え、言うことをきかない。
俺はもう死んでも構わない。
だが、その前にもう一度だけ羅刹に戻って、こいつらを皆殺しに、
みことの恨みを少しでも晴らして―――――――………
てめぇら全員、地獄への道連れだ――――――!!!!!!!!!!
その時、再び倉庫の扉が開き、光が差し込んだ。
「―――――せつら!!!」
入ってきたの空見だった。
「はぁぁっ――――はぁぁっ――――はぁぁっ――――」
怒りのあまり、まともに呼吸ができない。
「空見―――――ッ!!」
俺の呼び声に空見が駆け寄ってくる。
「はぁっ―――はぁっ―――はぁっ―――……
空見……、みことを連れて行け」
「え?」
「今すぐ、みことを連れて、ここから出て行け!!!」
俺は彼に、裸のみことを押しつけた。
呼吸が苦しい。
時間がない。
意識が途切れそうになる。
俺はみことの首輪の鎖の先を辿り、杭を根こそぎ引き抜いた。
しかし行く手に荒渡が立ちはだかる。
「それは困りますねぇ。
彼女にはもう少し稼いで貰わないと。
お客様から注文を頂いているんですよ。
彼女の可愛らしい顔にもっと精液をブッかけてほしいってね」
「はぁっ―――はぁっ―――…荒渡ォ………
俺が残るからいいだろ……?
AVでも何でも……でてやるかよ……、こいつらを行かせろ……
はぁっ…………」
「それなら、まあ………」
「早くいけ」
「でも、君を残していくわけにはいか―――――」
「早くしろッッッ!!!
空見ッッッッッッッッッッッッッッッ
――――――!!!!!!!!!!」
俺は弾けそうになる自分の身体を押さえつけながら、力の限り叫んだ。
空見が、躊躇いがちにみことを抱きかかえ、立ち上がる。
(はぁっ―――…… はぁっ―――…… はぁっ―――……)
「だめ………、せつらさんを……おいていかないで……」
みことの小さな声が俺の耳にも届いていた。
千切れる。
身体が千切れ飛ぶ。
あの時と同じだ。
怒りにまかせあの女を殺そうとしたあの時と。
皮膚が割れ、中身が飛び出そうとする。
「空見ッッッッッッッッッッッッッッッ――――――!!!!!」
「だめっ!!待って!
いやっ、せつらさんっ―――――――――――!!!」
俺の意志の強さを感じ取ってくれたのか、空見は走り出した。
倉庫の扉が開き、彼とみことが光の中へ消えていく――――……。
扉はすぐに閉じられ、部屋は再び、人工照明が照らすだけの暗闇に落とされた。
限界、だった。
第一章
終