プルルルルル―――――――――プルルルルル―――――――――




その見知らぬ番号からの連絡を受けたのは、悠理とお茶会をした翌日の夕方だった。




「もしもし?」
『あ、せつらちゃん?』

「えっと、黎さん?」
『そうそう』

「あのっ、ごめんなさい……、
 私たち二人だけで話すのは――――……ちょっと…………」

『待ってくれ。そんなこと言わないでくれ。
 君の番号は飛鳥に聞いて、ちゃんと許可を貰ってるんだ。
 一つ教えて欲しい。
 悠理が今どこにいるか知らないか?』

「え?」



一度、私を激しく抱いた男の声に、私はドキドキと苛立ちを覚えたが、それでも彼の声に切迫したものを感じ取っていた。
演技とは思えない。
落ち着いて話そうとしているようだが、イライラを隠せていない。


「悠理、連絡つかないんですか?」
『ああ、昨日の夜から、連絡が取れないんだ』
「昨日の夜は―――…、
 えっと私と夜8時頃までずっと話し込んでて、それから……」
『それは知ってる。それ以降、連絡が付かない。
 家にも戻っていないみたいだし。
 せつらちゃん、悠理の行きそうなところに心当たりはないか?』


そんなもの、ない。

悠理は門限すら守る子だ。
昨日だって8時までうちにいるのに2度も自宅に電話をかけていた。


その悠理が親にも黙って消えるなんて――――有り得ない。





「ただ事じゃ――――……、ない――――……」




『え?』

「悠理を、探さなきゃ―――!!」
『せつらちゃん、落ち着いて。
 昨日、君と悠理の間に何かあったのか!?』

「何もないです。
 でもあの悠理が黙って家に帰らないなんてことは絶対にないんです。
 だからきっと何かあったんです。
 だから、探さなきゃ、悠理を」
『分かった。ありがとう』
「悠理は私の、大切な親友ですから。
 友達に聞いてみます、見つかったら連絡するのでそちらも」
『分かった。頼む』



私は携帯を机に置き、立ち上がって部屋を歩き回った。

イライラして、混乱して、落ち着かない。


悠理があれから家に戻ってない?
有り得ない。
黎も居場所を知らないなんて。


ただ事じゃないのに、何をすればいいのか分からない。


折角ネイルアートが会心のできなのに、まだ乾ききっていないのに―――、、、
って今はそんなことをしている場合じゃない。

夏休みなのに、飛鳥は研修がどうのって遊べないし――――…

って、だから!!
そんなこと、考えてる場合じゃないんだって!!!




えっと………、昨日の夜、20時。


外はすっかり暗くなっていて、でも――――――――――


あのあと、悠理は、そのまま家に帰らなかったの?
どうして?
どこかへ行ったの?

そんなはず無い。

自宅には帰ると電話していた―――――。

あの悠理が寄り道をするとも、親に嘘を吐くとも思えない。
いや、嘘くらいは吐くだろう。
現に黎と遊んで遅くなる時、私を出し・・に使っていたくらいだ。

それでも、彼女は決して嘘は吐かない。
黎に対しては――――……。










私は再び携帯をとり、萌へとコールした。


繋がらない………。

3度かけたが繋がらなかった。

それから数名のクラスメイトに電話をしたけれど、悠理の消息は全くつかめなかった。


みこと。


私の電話帳に残っている――――、悠理の幼なじみ、そして親友。

過去何度かけても繋がらなかったので、無理だとは思うけれど……

私は縋るような思いで発信した。

が、やはり繋がらない。



何度かけても同じ。
電波の届かない場所か、電源が入っていない―――……。



ただ、なぜ未だに解約をしていないのが不思議だった。



彼女は一体どこにいるんだろう。
何をしてるんだろう。










私はもう一度萌にコールする。

心当たりはもう、萌以外に、無い――――――。



が、繋がらない………。










私はいても立ってもいられず、携帯を持って外へ飛び出した。




暑い―――――――――――……




夕方の5時を回っているというのに、昼の暑さの名残が存分に残っている。
とはいえ、行動できない程ではない。



とにかく、悠理を捜さなきゃ――――――――……



普通に考えれば私の家から、悠理の家までの道のりを辿るのが妥当だけど、私はその場で立ち尽くした。


私は彼女の家を知らなかった。


けれど、このまま動かずに悠理が見つかるわけもなく、私は駅へ向かって走り始めていた。




















18時




















19時




















2時間、私は駅周辺をうろうろし続けていた。

萌には一向に繋がらず、未だ黎からの連絡も来なかった。





人混みを探し、何件ものカフェを覗き、走り回って悠理を捜している私の脳裏に、何度も飛鳥の事が浮かんだ。


でも、飛鳥が悠理の居場所を知っているわけがない。

知っているはずがない。



もし、悠理が、私にも、黎にも黙って、飛鳥に連絡をとっていたりしたら私は―――――



ないないない。

絶対に有り得ない。

悠理も、飛鳥も、絶対にそんなことしない。



それに黎は飛鳥に番号を聞いて許可を貰ったと言っていた。
なら、飛鳥も悠理がいないことは知っているはず。
それなら、もし見つかったなら連絡をくれるはずだ。





激しい疲労と焦燥が続く中で、私の携帯が光った。



着信は――――――――――飛鳥!!



私はすかさず通話ボタンを押し―――――――――――――――





『あ、せつら』

「飛鳥――――――――――!!
 飛鳥、ねぇ、今どこにいるの!?
 大変なの、悠理が家に戻ってないの!」

『ごめんせつら、過去を』





プッ―――――――――――





切れた。





電波が切れたのかと思ったけれど、携帯の電源が切れていた。
悠理を捜しながら何時間もコールし続けた所為で電池が無くなってしまったのだ。





私は急いで家に帰り、電源コードを繋ぎ、コールしたけれど――――――――――――




















何時間経っても、





飛鳥も、悠理も、黎も、





誰一人、電話にでることはなかった―――――――――――――――――――



















































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