巨漢は必死に腰を振っていた。
既に意識は無いであろう七種いつきの脚を掴み、その股間に激しく腰を打ち付けている。
右腕の外側の肉が削がれ、夥しい血を流し、その骨を露わにしながら、それでも目の前の女を犯すことに夢中になっている。
壊れた扉の前に立つ、私に気付いている様子もなかった。
12月に入った気温はとても寒く―――
完全に吹き抜けになった窓からびゅうびゅうと冷たい風が、部屋に入り込んでいた。
その部屋はつい先ほど見た時よりも更に酷い惨状で、その一番奥に、彼は壁を背にして倒れていた。
頭から血を流し、その顔も、そしてその服までも黒く染まっていて、ぴくりとも動かない。
私はそっと部屋に足を踏み入れた。
必死に気配を消し、壁際に沿ってゆっくりと奥へと移動する。
「うお”お、う”お”おお―――――――――」
気色の悪いうなり声と共に、男が腰を奮わせた。
射精しているのだ。
私は息を呑んだ。
が、男は何度か体を振るわせると、すぐにまた腰を振り始める。
(一体なんなのだこいつは―――。
完全に鬼の力が顕現している―――……、、
こんなものが、こんなものが現世に存在していいのか……)
私はゆっくりと、飛鳥に近づいた。
そしてほっと胸を撫で下ろした。
意識を失っているだけだ。
出血は酷いが、傷は既に塞がっている。
私は彼の腕を片に回し、持ち上げた。
重い、が、悠長にはしていられない。
時間がない。
あの巨漢が七種いつきの体に夢中になっている間に、ここから彼を連れ出さなくては―――。
私は再びずるずると壁際を進んだ。
そしてもうすぐ部屋の出口へと辿り着こうとしたとき―――――――――
「う”う”、、ぞれ置いでいげぇええ”、オンナァ―――……」
鬼が言った。
私は力を込めて一気に駆け抜けようとした、が、巨漢に破片を投げつけられ、その場に転倒した。
扉の周りには、襲撃してきた少年と少女と死体がそのままで転がっていた。
「くっ―――……!!」
ふくらはぎに突き刺さった瓦礫の破片に私は呻いた。
「モンの閉じた、女に用はね”ェェェ―――、、、でんも、
それは置いてげえええ”ぇぇえええ―――」
「うぐっ―――……」
私は両足に力を込め立ち上がった。
絶対に彼をここから連れ出す――――――!!!
こんなところで彼を死なせたら、私はなんのために、
なんのために―――――――――……!!!
ガツッ――――――――――――
彼の体が私の腕から離れた。
強烈なプレッシャーを背後に感じた。
巨漢が立ち上がり、私の後ろに迫っていた。
「ぐふふぶプぷぶぷっ――――――――――――!!!」
ぽいっ――――――――――――
それは投げられた。
それは弧を描き、飛んでいった。
まるでラケットに打ち上げられたシャトルコックのように、
ダストボックスに投げ込まれる紙くずのように、
巨漢は、まるで塵でも捨てるように
彼の体を―――――――――……
40階―――――――――
その壁にぽっかりと大きく開けた穴から彼の体は
「ぐぷぷぷぷうっ―――、
あ”れは、いだいぜぇぇぇ、ぐふふブブふふ――――――――――――」
「ユヴィル――――――、彼をたすけて―――――――――!!!」
私は叫んでいた。
なりふりなど構っていられなかった。
ここで彼を死なせては全てが終わってしまう―――――――――!!!!!
吹き抜けの窓の外に、空見飛鳥をその腕に抱いた―――大きな闇が舞っていた。