ぴたっ―――――――――
せつらの振り下ろしたその切っ先を、白い―――細い指が、受け止めていた。
指はその剣をそっと押し戻し、せつらはその場にどすんと尻餅をついた。
「あのさ〜〜、好きな女の子一人護れないなんて、男として最低だよ、弟クン?」
羅城せつらの剣を受け止めたのは神楽歌織―――自称・空見歌織。
その身を白く長いコートに包んでいる。
特攻服――――――その背には大きく神手黎羅の文字が踊る。
その場にいた誰もが、彼女の気配に気付かなかった。
ホールの扉が開いたことにさえ―――……
「あ、あんたは―――、兄貴の―――」
「それからさぁ―――……、人の親友になんてことしてくれるの……。
これはいくら弟クンでもお仕置きしないと駄目かも〜〜」
突如現れた予想だにしない人物の登場に飛鳥は驚いたが、歌織の言葉に眉を顰める。
「余計な口出しはやめてもらいたいな、歌織さん。
そしてここでの手出しも無用に願いたい。
いくら俺でも兄貴の想っていた女性に手は出したくない―――」
「今更そんな紳士ぶってもだーめ。
お姉さんは許しませんっ―――!!
おいたをする子はお尻ぺんぺんだよぅ――――――!!」
「ほう―――……、
なら闘るのかい、シンデレラ―――」
鬼の力を手にした空見飛鳥が目を細める。
「勿論♪」
その挑発を爛漫な笑みで受け流すは、神剣・神楽―カミクラ―の使い手、神楽歌織。
が、飛鳥は彼女に背を向けた。
「呂久斗、相手をしてやれ」
「あれぇ?自分でこないんだ〜〜〜?」
「言っただろう?
俺は兄貴の想っていた女性に手はあげたくない」
「どうしようもない屑ね――――――」
毒を吐いた歌織に呂久斗が突進する。
「核シェルター―――か……。
流石にこの場所での戦いはせつらちゃんに不利だったかもね―――…………」
歌織がその体を呂久斗へと向けた。
迫り来る巨体
迎えるは細い一人の女
彼女の手には、武器さえ無く――――――
歌織が吼えた。
一閃――――――――――――――――――
煌めくは 神剣 神楽―カミクラ―
ドッドッドッドッ―――……
慣性の法則に従い、巨漢は移動を続け、壁にぶつかって崩れた。
その肉体は横真一文字に切断され―――、その胴と下半身は二つに別たれていた。
「呂久斗っ!!!」
せつらが叫び、倒れた彼へと駆け寄る。
「せつらちゃん、私だよぅ、分かる〜〜?」
「うくっ、うくっ―――…………」
「あちゃ〜〜……、もう、、、信じらんない。
両腕折られるような相手じゃないでしょ〜〜………、、
せつらちゃん〜〜?
こら!
ああ、こりゃ……、だめか……、、、
弟クン―――、今日のところは退くわ。
これはせつらちゃんの戦いだからね。
あの女は、せつらちゃんと、きっちり決着を付けないと駄目だからね―――。
勿論、いつきちゃんは返して貰うけど―――」
歌織は立ち上がり、虚ろないつきの手を引いた。
それから刹那を立たせ、歩き出す。
その様子は大きな子供二人を抱えた母親のようにも見えた。
「待ってくれ歌織さん。
どうしてあんたはさっきからその子せつらと呼ぶんだ―――?」
飛鳥の問いに、歌織が振り向く。
そして―――
「ば〜か! ば〜か! ば〜か――――――!!!」
呆然とする飛鳥に、彼女はいいっーと舌を出してホールを出て行った。
呂久斗の傍に蹲るせつら。
呆けている飛鳥。
残されたホールで、大きな肉塊だけが不気味に蠕動していた。
ずるっ、ずるっ、ずるっ―――…………
その肉塊は動き―――、そして繋がり―――、
「う”ガガがあ”あ”ああああああああああああああああああ――――――!!!」
その肉体を繋げ直した呂久斗が、拳を打ち鳴らし、吼えた。
第74話:殻の中
終わり