目覚め






 藤田東の加納隆次、清水学苑の内海秋彦、掛川北の斉木誠。この三人、まとめて『静岡三巨頭』などと仰々しく呼び習わされるほど、高校生の身で、静岡では知らぬ者とてない選手である。
 そんな彼らにとっては最後のインハイ予選が終わって、学生にとっては大切な期末試験も終わった、ある日曜日のことである。
 「遅いっ」
 声もデカイ上に、ジュースの紙コップが転げ落ちそうな勢いでテーブルまで叩けば、嫌がおうにも周囲の視線が集まる。反射的にテーブルを押さえた内海が、刺を含んだ声で言った。
「斉木…、お前一人なら何したっていいけどな、俺がいるところでそういう悪目立ちするんじゃねえよ」
「しょうがねえだろ!? もう一時間も遅れてんだぜ!?」
「そんなのいつものことだろうがよ」
 一人エキサイトする斉木に、内海は冷や水を浴びせかける。実は内海も一時間も待たされてキレかけてはいたのだが、斉木が先にキレたおかげで冷静になってしまった。
 実際、一時間は待たせすぎだ。三十分までは折り込み済みなのだが、一時間も経つと、世間話のネタも尽きてしまった。そのために、元々かなりナーバスになっていた斉木は、キレてしまった。
 目の前でまだ火を吹かんばかりの斉木から視線を外すと、その視界の隅に見覚えのある長身が入り込んできた。
「すまん」
 やって来たのはもちろん、『三巨頭』最後の一人、加納である。遅刻魔の加納のために藤枝の駅前にあるファーストフード店で待ち合わせしたにもかかわらず一時間も遅れたと言うのに、当の加納はいつもと変わらぬ風で、反省しているのかよく分からない。
「行くぞ」
 加納の姿を確認した途端、内海は席を立った。
「あぁん?」
「内海、俺はまだ何も食べてないんだが…」
 すっかりやさぐれてしまった斉木と、状況が飲み込めていない加納に、内海は言い捨てる。
「こんなに目立っちまったら飯もまずいだろうが。それに、一時間も待たせやがったんだ、詫びに何かおごれよな」
 冷静ではあったのだが、内海もかなり怒っていたのである。




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