「…確か、今日は祝ってくれると言う話じゃなかったか」
いつもなら、極限まで言葉数をけちる加納であったが、目の前に並んだ料理の数々に、さすがに抗議めいたことを口にした。
しかし。
「今日は『落ち込んでいる斉木くんを励ます会』に変更だ」
と、食べ終わった明太子パスタの皿をすでに空いた皿に重ねながら斉木が言えば、
「一時間も人を待たせたあげくに偉そうなことを言うんじゃねえよ」
と、内海はハンバーグを豪快に租借しながら言う。
口の立つ二人にそこまで言い切られては、寡黙と言うよりは、そもそも話すことが得手ではない加納に反論など出来るはずもない。
この量を一人で払ったら、万札が飛ぶかもしれないな、と、思いながら、加納は自分で頼んだチョコレートパフェをつつき始める。
ちなみに、今日の本来の目的は、表が『藤田東インハイ出場決定おめでとうの会』で、裏が『進路情報交換会』だった。
しかし、キレた斉木はブレーキが利かず、また、内海も止める気はないようだった。確かに、『久保嘉晴の最後の対戦相手』になってしまった事実は、いかなナイロンザイル並みの神経の持ち主であっても堪えていた。まして、広瀬を通じて久保が掛北戦にこだわっていたらしいなどと聞かされた日には、斉木はほとんど戦犯気分であったのだ。
だが、それはまた別の話として。
二人がかりで詰られているにもかかわらず、チョコパフェをうれしそうにつつく――その変化は内海と斉木だからこそ分かるレベルだが――加納を見て、内海が毒づく。
「全く、天下の『帝王』がこんな甘いもの好きだなんて知ったら、世間はどう思うんだろうな」
確かに、『オヤジ』と言われてしまうほどの迫力ある外見に、チョコレートパフェはとてつもなく不似合いである。
だが、加納は居直ったのか、ウェイトレスを呼んで追加注文をする。
「『ぜいたくプリンのアラモード』と『アイスココア』一つずつ」
そして、ガタイのいい男三人がついたテーブルの上に、愛くるしい皿に盛られたデザートが並ぶことになる。