翌日は、いつも通りに練習があった。
朝、加納を起こすのは、豪樹の役目である。いつまでも布団にしがみついている息子の体格がよくなりすぎて、両親ではすでに歯が立たないのだ。
いつも通りに起きてこない兄の部屋のドアを、豪樹はいつも通りに勢いよく開けた。
「兄貴! 朝だぞ、起きろよ!」
と。
ゴンッ!
鈍い音がして、部屋側に開いたドアは、五cmほどの隙間が出来たところで止まっていた。
何か重いものが置いてあるらしく、力一杯押しても、ほとんど動かない。
「え…?」
そこで、豪樹は隙間から見覚えのある布が見えることに気がついた。
「あ、兄貴!?」
ドアの隙間から見えていたのは、加納のパジャマだった。ドアのそばに加納が倒れているのだ。
慌てて、豪樹はドアを開けようとして、再び、
ゴンッ!
と、鈍い音がした。どうやら、加納は、ドアに頭を向けて倒れているようである。
現状を把握して、豪樹は立ち尽くす。起こそうにも本人が邪魔でドアは開かない訳だし、大体、二度も派手に頭をぶつけておきながら起きてこない辺り、もしかしたら打ち所が悪かったのかもしれない。
「うわぁぁ、兄貴!」
豪樹が叫んでも、加納は全く反応を示さない。
――加納がその日の朝練を休んだのは言うまでもない。
実は。
加納は昨日、内海達に言われた通り、目覚ましを歩いて行かなければ届かないドアの前に置いて寝たのだ。ドアの前に置いたのは、さすがにそこまで歩いて行ったら、後は起きて顔を洗うしかないだろうと言う、加納なりの工夫だった。
だがしかし。
朝、目覚ましが鳴り始めると加納は無意識にドアの前まで行き、目覚ましを止め、その目覚ましを抱えたまま、眠ってしまったのだ。
そもそも、ちゃんと起きて止めに行ったのかさえ、怪しい。恐らくは無意識の行動だろう。
その日、きっちり上げた帝王の髪の下に、たんこぶが二つ隠されていたなどと言うことは、勿論内緒である。
夕日(2011.02.07再)