シチュエーション
部活が終わった帰り道。
「おい、腹減ってねえか?」
前を歩いていた神谷が、肩越しに振り向いて言った。
「そりゃ、減ってんに決まってんだろ」
即座に答えたのは大塚である。
大塚は見た目のイメージ通りによく食べる。
が、実は神谷もそれと同じぐらい食べるのだ。一体、そのカロリーはどこへ消えているのやら、と言う感じだが、神谷に言わせれば、
「しょうがねえだろ、サッカーで全部使っちまうんだから」
と言うことであり、大塚に言わせれば、
「燃費の悪ぃ体だよな」
となる。
もっとも、人のことを言えた義理ではないのは、大塚も自覚している。
そんな訳で、部活帰りに空腹を訴えるのは、神谷か大塚のいずれかであった。
そして、この二人が腹が減ったと言った時には、どこにも寄らずに帰れないのが常であった。
もっとも、それはつるんでいるメンバーの問題もあったのだが。
「じゃ、どこか寄ってく?」
神谷の隣を歩いていた久保が言いながら、背後を振り仰ぐ。
「赤堀はどうする?」
「うん、いいよ」
赤堀はいつもの笑顔のまま、肯定とも否定とも取れることを言って、うなずいた。
常に神谷の先回りをしたがる久保と、本当によほどのことがなければ断ることのない――その代わり、一度決めたら梃子でも動かないのであるが――赤堀が一緒であれば、はっきり言って言った者勝ちである。