と言うことで、四人は駅前の喫茶店に入った。
 喫茶店と言っても、パスタなどの軽食も出し、しかもボリュームがある。更に食事を頼むとドリンクを一日中セットで値引きしてくれると言う、バイトをする暇もない腹っ減らしの高校生にはありがたい店だった。
「こんちはー」
「いらっしゃい」
 ここまで条件が揃えば当然のことだが、掛川サッカー部幹部御一行様は、その店の常連である。馴染みのマスターに声をかけて、いつもの窓際の席に陣取る。
 余談であるが、デカイ、ゴツイ、コワイの三拍子揃った男が通りに面した窓際に居座ってもマスターが嫌な顔をしないどころか、たまに長居した時に常連だからとアイスクリームをサービスしたりしてくれるのは、スーパー高校生こと久保がいると女性客が増えるからだ、と言う噂がまことしやかに囁かれているが、事実を確認したものはいない。
 もっとも、久保の顔一つでデザートをサービスしてもらえるなら、実に安いものである。噂が事実であるならば、彼らは部活の時間以外なら、あっさり久保を売り渡すに違いない。
 飽くなき食欲の前には、友情も脆いものである。



 さて、大盛りパスタとサラダを文字通り瞬く間に平らげると、計ったように食後のドリンクが出て来る。
「ホットのミルクティは」
 一瞬の沈黙。
 全員が顔を見合わせてから、神谷が言った。
「久保、お前だろ」
「え、ああ、そうだっけ」
 慌てて、久保が受け取る。
「ホットのレモンティー」
「はい」
「ホットコーヒーです」
 レモンティーが赤堀、残る二人がコーヒーである。
 店員が戻った後、ブラックのまま口をつけた神谷が言った。 
「お前、自分の頼んだものぐらい覚えとけよ」
「いや、別にポリシーがあって頼んだ訳じゃなかったから、つい忘れちゃったんだよ」
 対する久保はのほほんと応じる。
「だからって忘れねえぞ、フツウ」
「何気なーく言っちゃったんだよ。コーヒーにしとけばよかった。コーヒーなら聞かれないもんな」
「あん?」
「コーヒー頼んで『ミルクかレモンおつけしましょうか』とは聞かれないもんね」
「はあ?」
「コーヒーにレモン?」
 久保の言葉に、赤堀が首を傾しげ、そりゃきっついわ、と、大塚がうなる。
 一体真面目な顔して何を言っているのか。

 あまり知られていないが、久保はいわゆる『天然』と言うヤツだ。
 こう言う言動を目の当たりにする度、どうしても『天才と何とかは紙一重』と言う言葉を思い出してしまうのだが、大塚はかろうじて飲み込んでいる。
 天然であろうと、彼らの主将であることも間違いないのだから。

 しかし。





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