「そんな、万国旗柄のトランクスなんかでウロチョロしないでよっ、力が抜けるんだからっっ!」
そう、今日の神谷のトランクスは、白地に縦1センチ幅1.5センチぐらいの各国の国旗がポツポツとプリントされた、万国旗柄としか言いようのない代物だった。
しかも。
「何だと!? これは俺のお気に入りなんだぞ! やっと見つけたんだぞ」
「だからイヤなんでしょ! そんなの探さないでよっ」
実花がドンッと、テーブルを叩く。
「あたしはねえ、日○のカップ○ードル柄も、永○園のお茶漬○海苔柄も、金○の蚊取○線香柄も我慢したわよ! でもね、どーしてもそのパンツだけは、情けなくって力が抜けるのよぉぉっっ」
叫んで、実花はテーブルに載っていた新聞を、神谷に投げつける。
「うわっ、実花、やめろっ」
新聞だけでなく、投げても壊れなさそうなものを、片っ端から投げつけ始めた。さすがの神谷も防戦一方だ。
「家の中だけならともかくっ、そんなのチームの人に見られてるのかと思うと恥ずかしすぎるぅぅ」
「や、やめろって、実花、危ねえっ」
サクッと、シャープペンが足元に刺さるに至って、神谷の顔色が変わる。
その上に。
「そんなんだから彼女も出来ないのよっっ」
「うるせえ、うるせえっ。俺の勝手だろ!」
痛いところを突かれた神谷が逆ギレして怒鳴るが、それぐらいで恐れ入っていたら、この兄の妹などやってられない。
「こんな趣味の悪いお兄ちゃん、もうイヤ〜っっ」
――こうして、神谷家の騒々しい夜は更けていく…。
知らぬが仏である。
夕日(2011.04.23再)