その晩、
「ウチもさ、狸牽いちまったことあったんべ」
 と、部活が思いもかけず中止になり、寮の部屋で時間を持て余していると、思い出したのか嶋が言い出した。
 嶋の実家は養蚕農家だ。
「まだ生きてたから獣医につれてったんだけど、やっぱ駄目で」
「それデ?」
「で、かわいそうだったから剥製にしたんべ」
「剥製!?」
 どうしたらそういう考えになるのかヴィリーには理解できずに叫んでしまったのだが、嶋は別の意味に取ったらしい。
「あ、剥製分かんね? 狸の皮剥いで・・・」
「分かル! 分かルカラ説明シテくれなくてイイ!」
 剥製を事細かに説明しようとする嶋を思わずヴィリーは押し止める。
「話ノ腰ヲ折って悪カッタ」
「ん、ああ。ただな、その剥製かわいそうなんだよ」
 ヴィリーは黙って首を傾げる。
 車に牽かれて剥製にされた以上にかわいそうなことなどあるのだろうか。
 すると、嶋は腕組みをして溜め息をつく。
「俺のじいちゃんの趣味でさ、寝そべらされて、左腕に大徳利、右手にカラオケマイクって形にされちゃってよー、何かこう、さすがの俺が涙を誘われたんべ」
「ソ、それハかわいそうニ・・・」
「だべ?」







合掌。





夕日(2005.09.27再)






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