そしてその日は、下校前に緊急HRが開かれた。
「こら、静かに」
担任が教壇を叩いて言う。
本来であれば清掃が終われば帰れるのだが、足止めを食らった遠距離通学者を中心にざわつきは止まらない。
諦めたのか、担任はさっさと用件を告げた。
「昼間に校内放送があった熊の件だが、まだ捕まってないそうだ。今日は寄り道せずに真っ直ぐ帰宅すること。それと、すぐに薄暗くなってくるので黒っぽい制服でうろうろしていると熊と見間違われて撃たれる危険性があるので、全員今日は体育着で下校するように」
と、担任は思い出したように付け加えた。
「あ、運動部の寮生は今日は外出禁止だ。絶対にコンビニなどに買い物に行かないように」
その言葉に。
「ええーっっ」
抗議の大ブーイングが上がる。
男子クラスのこのクラスは、実は半分以上が運動部に所属する寮生だ。
「そんな、飲み物とか無くなったらどうすんですかー」
「一晩ぐらい寮に備え付けのお茶で我慢しろ」
「ええー」
「でも、ヴィリーならいいっすかぁ? 金髪だから分かんでしょ」
地面を這い回る低いブーイングに、担任はまた教壇を叩いた。
「そう言う問題じゃないべ、お前ら背が高くって肩張ってて動き方が熊そっくりなんだから。見間違えられても文句言えねえべ」
「それじゃ部活は全部中止ですか?」
冷静に発言したのは東である。
「そう、中止」
無情な答えに、
「あー、もう猟友会さっさと捕まえて熊鍋でも何でもしてくれよー」
と、天を仰ぐ嶋に、
「そういう問題ジャないト思ウ・・・」
ヴィリーの口の中の呟きは、幸い誰にも聞こえなかった。