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想いを押さえ切れなくて君に告げた。 君が拒まないと知っていて―― 傷つけるために告白したのではない。 悲しめるために触れ合ったのではない。 傍らに居られなくなるのはどうしようもない事だと、自分に言い聞かせ続ける。 君の側で、君を抱き締め続けたい。 それが唯一の願いだけれど。 想いは君に置いて行く。 もしかしたら最大の我侭なのかもしれない。 君に忘れられたくないと言う気持ちと、こんな不実な奴など忘れればいいと言う気持ちがせめぎ合う矛盾を、君に押し付けている。 ただ、この想う気持ちは本物。 この甘やかな束縛から、君は何時の日か解き放たれるのだろうか。
風狂 「花見しようぜ」 聞きなれた声が、名前も告げずにいきなりそう言った。 受話器の向こうに居るのは十年来の友である。 斉木も名を質すようなことはしない。 しかし、今は六月である。 花見と言えば普通桜であり、この時期に咲いている訳が無い。 「何か咲いてるだろ、紫陽花とか」 詰まるところ目的は酒盛りであり、花見は口実に過ぎないのだと斉木は了解した。 「で、何時だ？」 問うと、今夜、と短く返事を返してきた。 「随分急だな」 「今、加納の旦那が帰って来てんだよ」 内海が一足先に（飽くまで一足先に、である）プロになった友人の名を出した。 そういえば1ｓｔステージも終わり、オフに入っている頃だ。 斉木も何時こちらに帰ってくるのか加納に連絡を取ろうと思っていたのだ。 斉木は何故急に内海が花見などと言い出したのか判った。 判ったつもりだったのだ、その時は。 「酒は持ってくから、つまみよろしくな」 嫌も応も無く花見は決定したようである。 判ったよ、と苦笑しながら応じる。 斉木にしろこの気の置けない親友と酒を飲むのは楽しみの一つだ。 断る気は最初から無かった。 「ああ、それから芹沢も一緒だから」 さりげなく、内海は告げた。 咄嗟に反応出来ないでいる斉木に、内海は追い討ちを掛けた。 「逃げるなよ」 そう言って、電話は切られた。 |