争いは誰の策謀 愛欲の仕業?
想いをこめて熱を放った後――。
肩で、大きく息をする。
溺れかけた人間のように、必死で酸素を取り入れる。
夢中で、何も考えられなくなっていた。
そんな時に出てくる言葉は、多分、心底の想いだ。
「ねえ、斉木さん」
まだ熱の名残を感じさせる甘い声で、芹沢は呟く。
「教えてください…、お願いですから…」
けれど、斉木は冷たい視線を投げつけてくる。
熱は、残っているはずなのに。
「………弱みにつけ込むのは、卑怯だ」
「あんたがそう言うなら、そうなんでしょ」
「芹沢…」
「いいですよ、卑怯で」
居直った口ぶりに斉木が眉をひそめると、芹沢は子供のように言い募る。
「仕方ないでしょう、知りたいんですよ、俺は」
芹沢は上から斉木を見下ろした。
視線を外されても、芹沢は見つめ続ける。
祈りをこめて。
言葉で伝わらない。
体でさえ、伝わらなかったと言うのだろうか。
こんなにも芹沢は求めているのに。
何もかも知りたいと思うことは罪なのだろうか。
でも、恋人が人生を決める決断をしようとしている時に、どうして平然としていられるだろう。
どれほど想っていたとしても、想いだけで繋ぎ止めることなど出来ないはずなのに。
伝えなければ、伝わらない。
伝えたくても、伝えられなかったら、一体どうしたらいいのだろう。
斉木は、顔を背けたまま、告げる。
「その時がくれば…誰よりも先に、お前に言うから」
その時はいつなのかと、問われると思っていたが。
斉木は、肩に感じた熱さに顔を上げた。
「ど…して…?」
芹沢は、斉木の胸に顔を埋めて、顔を隠した。
芹沢にも意地がある。
見られたくなかった。
斉木は、目を閉じて静かに告げた。
「分からないんだよ、お前には」
「分かる訳、ないでしょう…っ。あんたは、分かるようには何も言わないじゃないか!」
胸元で叫ぶ芹沢の肩を、斉木はそっと抱いた。
ピクリと震えたその耳元で、呟く。
「言ったって、分からない」
痛かった。
血を吐くような想い。
斉木は、抱く腕に力をこめる。
「仕方ないんだ。違うから…お前と、俺じゃ――」
「何…が! 何が違うんですか!」
芹沢も、全力で斉木を抱きしめる。
「あんたは、あんたはいつもそうやってごまかすんだ! 何も言わないくせに分かれなんて、そんなの、わがままだ!」
斉木の胸に顔を埋めてなじる芹沢と、目を閉じた斉木に、互いの表情は見えなかった。
君は何をやり遂げるために生まれてきたのか
それぞれの想いを胸に擦れ違う言葉
私の祖国はどこですか 信ずる人は……
了
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