DAWN





 「ぅん………、は、ああぁ……」
 暗い室内に、吐息と、濡れた音と、ベッドのスプリングが軋む音が、まじりあい、響く。
「あっ」
 まるで体を二つ折りにするように両足を抱え上げられ、急に強く突き上げられて、斉木は背をそらした。
「あっ、あっ、あぁっ」
 スプリングの軋む音とあわせて、斉木が鳴く。
 その声に煽られるように、芹沢は腰を進める。
 そして、
「…っ…」
「ぁ…ま、まだ…」
 芹沢は動きを止め、斉木の中で果て、荒い息をついた。
 だが、斉木は潤んだ瞳に、責める光を浮かべて、芹沢を睨む。
「こら…俺、まだ、イってない…」
 しかし、芹沢は荒い息をするばかりで、答えない。
「ったく…だったらもう抜けよ」
 答えもせず、また動こうともしない芹沢に痺れを切らせて、斉木は体を起こそうとした。
 自分で始末をつけるために、まだ硬くそり返ったままの分身に手を伸ばす。
 が。
「芹沢…」
 その手首を、芹沢が掴んで、止めた。
 斉木は呆れた声を出す。
「いい加減にしろ。俺が辛いだろ…」
 放つまで冷めることのない熱で潤んだままの目でにらみつけ、振り払おうとするが、芹沢は斉木の手を離そうとしない。
 それどころか、
「わっ」
 左手で斉木の両の手首を一まとめにし、シーツに押し付ける。
 斉木の手首はやはりがっちりして太いが、芹沢の日本人離れして長い指は、苦もなく拘束してくれる。
 半ば起き上がりかけていた斉木は、もう一度シーツの海に逆戻りする羽目になった。
 その時に気づく。
 また、斉木の中で芹沢のものが硬さを取り戻していることに。
「こ、こらっ、芹沢っ」
 慌ててベッドの上でずりあがろうとする斉木の腰を、芹沢が引き戻す。
「あぅんっ」
 より深いつながりに体を震えさせる斉木に、芹沢が囁いた。
「もう少し付き合ってよ。今度はちゃんとイかせてやるから」
 勝手に一人でイったくせに。
 自分勝手な言い分に、さすがに斉木は腹を立てる。
 それに、体の方が限界だった。
 さきほどのが何回目だったのか、斉木の記憶はない。
「いい加減にしろ…腰が壊れ…むっ」
 斉木の抗議を、芹沢は乱暴に唇で塞いだ。
 斉木は逃れようと身じろぎしたが、手も足も腰も抑えられたこの状態では、相手に刺激を与えるだけで、ほぼ何も出来ないのに等しい。
「…はあ」
 斉木の抵抗が完全に納まってから、芹沢は唇を離した。
「そんなに誘わないで下さいよ」
 霞がかった斉木の視界の中、空いた右手で長い髪をかきあげ、にやり、と、酷薄な笑みを浮かべた。
「誘ってなんか…ひっ」
 それでもまだ屈しない斉木に、イくことが出来ず、いきり立ったままの斉木の分身を指先で弾く。
 痛みとともに甘い疼きが背筋を駆け上がり、斉木の息が詰まる。
「まだまだ元気じゃないですか」
「…馬鹿…、何回目だと…」
「さあ」
 うそぶいて、首筋に舌を這わせる。
「ぅあっ」
 斉木の気がそれた瞬間、芹沢は斉木の右足は肩に抱え上げたまま、空いていた右手を斉木の左膝の裏に当て、シーツに押し当て、一気に足を開かせた。
 何もかもを曝け出さされる屈辱的なポーズに、斉木は顔が火を吹いたように熱くなったことを自覚する。
「やめ!」
 とっさに、斉木は唯一自由になる抱え上げられたままの右足で芹沢の背中を叩いた。
 しかし、それがよくなかったようだ。
 刹那に、芹沢の瞳に狂気の光が宿る。
「言うことを聞いてりゃいいんだよ!」
 抵抗のしようもないほど足を開かせたその状態から、芹沢は一度自身を完全に引き抜いて、そして、一気に根元まで貫く。
 パン、と、肉と肉が打ち合わさる音が響いた。
 充分にほぐされ、ぬめる斉木のソコは、楽に受け入れてしまう。
「いっ、やっ、壊れる!」
 が、斉木に対する配慮のない仕打ちは、快楽より、痛みが勝った。
 一度は引いた涙をまた流しながら、斉木が訴えるが、
「…今度はちゃんとイかせてやるから、俺の言うこと聞いてればいいんだよ…」
 芹沢は耳元で囁くばかりで、動きを止める気配もない。問答無用で斉木の弱いところを突き上げる。
「ひいっ、やだ、芹沢…やあぁ…あっ、あああぁぁっ、あ、あ…」
「めちゃくちゃになってよ、誠」
「うっ」
 弾けた瞬間、斉木の意識が飛ぶ。
 薄れゆく意識の中で、何故か胸に熱いものが落ちた感覚だけが強く焼き付いた。
 斉木はそれが何か知っている。
 ――芹沢の涙だった。










 「…う」
 少しの間意識を失っていたらしい。
 斉木は小さくうめいて目を覚ました。
 息苦しい。
 無理矢理瞼を開けて見ると、芹沢の体が斉木の上にのしかかったままだった。
 正確に言えば、斉木を抱き締めたまま寝てしまったようである。
 目を閉じた芹沢は規則正しい寝息を立てている。
「おい…寝てるのか」
 耳元で聞いても、芹沢の深い呼吸は乱れない。
 狸寝入りではないようだ。
 斉木が芹沢の下から脱出しても、目を覚ます気配はなかった。
「いててて…」
 芹沢の体の下から抜け出した斉木は、腰を押さえてうめいた。
 乱行の後始末すらしていない下半身から、目をそらす。
「無茶しやがって…」
 思わず恨み節が漏れる。
「俺の身にもなってみろ…」
 明日は、まともに足腰立たないだろう。
 一応オフだからいいのだが、その後にも影響しそうな勢いだ。
「たたっ」
 膝はがくがくしているが、斉木は壁にすがり付くようにしてシャワールームに向かう。
 全部洗い流してしまわなければ、とても眠れそうになかった。
 放たれた濁りよりも、叩き付けられた感情を流してしまわなければ。










 斉木がシャワールームから帰ってきても、芹沢はまだ寝ているようだった。
「寝てるか?」
 返事はない。
 苦しそうな寝顔だった。
 斉木は寝息を確かめて、夏がけをかけてやる。
 自分はベッドの端に腰掛けて、溜め息をついた。
「…よかった…」
 芹沢が熟睡するのはもう何日ぶりだろう。
 毎夜毎夜、浅い眠りを繰り返すその顔は、日に日に目の下の隈が濃くなっていった。
 斉木がいくら心配しようとも、大丈夫、大丈夫と繰り返すばかりで、芹沢は弱音を吐くことはなく、逆に斉木の邪魔をしていないかと、そんなことばかり気にしていて。
 そして今夜。
 いきなり襲い掛かられ、この始末だ。
 芹沢が眠れない原因は、斉木には分かっている。
 恐らく芹沢は、これまでの人生の中でなかったほどに、崖っぷちに追いつめられている。
 追いつめられ、やり場のない攻撃性を斉木に向けたのだ。
 溜め込んだ攻撃性を暴力として解放し、疲れ果ててようやく眠る。
 実は、今日が初めてのことではなかった。
「まあ、俺に向けてる分には、いいけどな…」
 端から見ればどう考えてもよくない事態だが、その辺りが斉木である。
 だが。
「このままじゃいつか壊れる」
 斉木はまだ湿った髪をかき回して呟いた。
 壊れるのは、斉木の体ではない。
 いや、その可能性もなくはないが、一番危ないのは芹沢の心だ。
 こんな解消法は、いつまでも続きはしない。
 まだ自衛の意識が働いているから、自分でもどうしようもなく持て余してしまった感情を最も身近な存在である斉木にぶつけているが、もしもその標的に、自分を選んでしまったら。
 そんなことは、考えるだけで恐ろしい。
 だが、このまま手をこまねいていれば、そう遠くない日にその時が来てしまう。
 斉木は、身震いをした。
 そんなことは、させてはならない。
 斉木は決意を新たにする。
 そして、深い眠りの中にある芹沢の隣に座った。
 間近で見る芹沢の頬には、涙の跡が残っていた。







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