芹沢は、正直なところ、こういう体育会系ノリは得意ではない。
 選手権予選の掛川戦により、様々な意味で意識改革が起こりつつあるのだが、ある朝突然、体育会系体質が備わるものではない。アレは徐々に染みつくシロモノなのだ。
 それでも、風呂から帰って来てすぐにまたミーティングが勃発していることに気がつきながら、すぐにトンズラしなかった辺りは大分染まりつつあるのだと思われるが、最後までおとなしくしていられるほど、染まり切ってはいなかったのである。
 誰にも気がつかれないように、そっと部屋を抜け出そうとしたのだが、ユースの中でも長身を誇る芹沢の動きを見落とすほど、岩上の目は節穴ではなかった。
「どうした、芹沢」
「すんません、何か頭がぼーっとしてるんで、ちょっと冷やしてきます」
「大丈夫か」
「すんません、気にしないで続けてください」
 などと殊勝なことを言いながら、さっさとドアの前に移動する。ドアを閉める時に馬堀のうらやましそうな顔が目に入った。
 純朴系の多い一年の中では、芹沢と並ぶ要領のよいタイプの馬堀であるが、純朴を絵に描いたような掛川のトリオと松下にまで挟まれては、逃げ出すのも容易ではないらしい。
 だが、他人の面倒までは見ていられない。芹沢は勝者の笑顔であっさりとドアを閉めて、伸びをする。
「さて、どうしましょうかね」
 別に頭を冷やしたいとは思っていなかったが、ああ言ったからには少しは外へ出ておこうかと、芹沢は合宿所の玄関に向かった。どうせロビーはロビーで誰かいるに決まっているのだ。合宿所などと言うプライバシーもへったくれもない世界では、寝ている間さえ落ち着かないのが現実だ。





NEXT

PREV



■ Serisai-index ■

■ site map ■
















CopyRight©2000 夕日 All rights reserved