ところが、今日はとことんついていない日であるようだった。
「あれぇ、芹沢じゃん!」
よく通りすぎる声が、芹沢を呼んだ。芹沢は硬直する。ここで逃げたら後で内海に何を言われるか分かったものではない。口だけでもキツイのに、手も足も出てくるのだ、内海は。
その、硬直したままの芹沢の腕を、後から駆け寄ってきた誰かがつかんだ。
「いいとこに来た、これで2対2ができるぞ」
「ちょっと待って下さいよ、斉木さんっ」
そんなことを言って止まるような相手ではなかった。斉木は芹沢を、イメージ通りの力強さでぐいぐい引っ張って行く。
「おーい、捕まえたぞ!」
ヒドイ言われようだと、むっとして斉木を見た瞬間、芹沢は違和感に襲われた。
「ごくろうさん」
二人が待っているところまで辿りつくと、内海が言った。
「しかし斉木、物好きだな。そんなハーフタイムしか走れないヤツ引っ張って来るなんて」
先輩の気安さで、内海は正真証明ヒドイことを言う。
「いいじゃねえかよ、そうやって欠点も補っていくモンだよ、なあ」
斉木が芹沢を見上げて言う。斉木はそれが他校の後輩だろうが遠慮がない。根っからの社交家であるらしい。その正反対が加納だ。加納は相変わらず黙ったままだ。が、別に芹沢を拒絶している訳ではないのは気配で分かる。
「いいだろ、旦那。芹沢入れて2対2。フルタイムやる訳じゃねえんだからさ」
「ああ」
斉木に言われて、加納は重々しく、あくまで重々しくうなずく。
「よし、決まりだ」
まだ内海は言いたいことがありそうだったが、斉木は上機嫌に芹沢の背中を叩いた。
「よかったな、芹沢。静岡三巨頭がじきじきにしごいてやるぞ。覚悟しろよ」
斉木に見上げて言われ、芹沢の中の違和感がようやく形になる。
その瞬間、芹沢はその違和感の元を、口にしていた。
「斉木さん…」
「ん?」
「斉木さんて、思ったより小さかったんですね。俺はてっきり、もっとデカイ人だと思ってたんですけど」
斉木は178センチしかない。186ある芹沢だと、かなり見下ろした感じになるのだ。内海が小さいのは分かっていたが、斉木までこんなに見下ろすことになるとは、芹沢は思っていなかったのだ。
いきなりの言葉に、斉木は笑顔のまま凍りついた。対する芹沢も、どうしていいのか分からずに立ち尽くす。
しばらくそのまま固まっていると、内海が呆れたと言わんばかりにため息をついて、言った。
「斉木はそんなにデカくねえよ。ユースでも180越えてんのって、加納の旦那と、岩上と東と芹沢、お前だけだろ」
「そうでしたっけ」
「…後、三橋」
斉木が付け加える。その表情はまさに苦虫を噛み潰したかのようだ。
「そうなんスか。俺はてっきり斉木さんて加納さんぐらいあるもんだと思ってましたよ」
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