俺が突然、女になってから3日目――――…
翌朝、6時前にはもう目が覚めていた。
ぐっすり眠れた感触はあった。
昨日の疲労感はすっかりとれている。
とりあえず思うのは、とにかく生活用品が足りない―――ということだ。
下着もそうだし、着るものと言えば制服しかないし、歯ブラシももっと小さいものを買ってこないといけない。
シャンプーや石鹸なんかも買い忘れてしまった。
俺は結局、その日は学校を休むことにした。
まず俺は紙に大きく 羅城道孝は引っ越しました と書き、表札の上に貼り付けた。
引っ越し―――――…
今朝、長々とシャワーを浴びながら考えを巡らせてみたものの、いつ自分の体に戻れるかも分からず、かといってこの家を捨てれば他に行くあてもなく……。
俺が羅城せつらとしてここに住むからには、前の住人である羅城道孝には出て行って貰うしかなく、結局それ以外の案を思いつかなかったのだ。
まあ、人が突然消えるには妥当な理由だろう。
逃げ出した、と思われる可能性は―――、まず心配する必要はないな。
9時近く、自宅前が騒がしくなったものの、息を殺してやり過ごしたら、彼らはすぐに去っていた。
いきなり頭がいなくなるのは、あいつらにとって申し訳ないとは思うが、今の俺ではどうしようもない。
隠したところで、いつあいつらの元へ戻れるかは分からない。
なら、いなくなったことを早々に分からせてやった方がいい。
午前いっぱいを使って、俺は再度、家の中の不要なものを一纏めに片付けていた。
長ランなど男物の服も、この際全て捨てることにする。
一戸建てであるにも関わらず住居人は俺1人のため、物置になる場所はいくらでもあるのだが、なぜか俺は全てを捨てようと思った。
もし男の体に戻れたら、その時はまた買いそろえればいいだけの話だ。
親父の部屋は―――、手をつけなかった。
もとより何もなく、あえて片付けないといけないようなものもない。
それから生活に必要なものを一通り書き出し終えた俺は、電話の前に座った。
何度か深呼吸を繰り返す。
(畜生――――)
心の中では悪態を吐きまくるが、うまく対応しなければいけない。
世間――――、というやつに。
(畜生――――畜生――――……)
(羅城せつらとして生きるんだろ!
男とヤるのは嫌なんだろ!
覚悟を決めろ!羅城せつら―――――!!!)
俺は受話器を取った。
「はい、こちら住まいのことなら何でもお任せお手軽リフォーム・エフルでございます」
「あ、あのすみません―――…
えっと……、すぐにリフォームをして欲しいんですけど………」
俺は慣れない言葉遣いで、辿々しく、それでも根気よく話し続けた。
とにかく綺麗にして欲しい、窓ガラスが割れているところがあるから変えて欲しい、新しい布団が欲しい、等々。
注文の内容が多く、こちらが上客だと気づいたのか、相手はすぐに親身になって相談にのってくれた。
近場と言うこともあり、できる限り今日中にしてもらえるということで、すぐに業者がくることになった。
作業は日が沈み、20時を過ぎてもまだ続いていた。
そして俺はその日丸一日をかけて、彼らに指示を出しながら、なんとか家を綺麗にしたのだった。
一日で100万近く使ってしまったが、それだけの価値はあったと思えた。
正に一日がかりで、絨毯やカーテンを交換し、壁紙まで貼り替えたそこは、まるで新居を訪れた気分になれた。
外装はともかく、内装だけをみるなら新築と見間違えてもおかしくはい。
まるで建物が生まれ変わったようだった。
そう――――生まれ変わり―――――、そんな言葉がとてもしっくりくる。
そしてそれに影響されるかのように俺も――――――……
俺は慣れない、けれどふかふかで、清潔で、いい匂いのする、真っ白な布団で―――――
幸せな眠りに落ちた。
第3話:リフォーム
終わり