輪高の生徒が他校生に暴行された噂は、瞬く間に広まった。
襲われたのは2年生の男子3人。
突然、6人の男に囲まれ暴行され、喝上げを喰らったらしい。
皆私服だったらしく、どこの学校の生徒かは分からないらしいが、時期的に見て、3校いずれかの生徒に間違いないだろう。
探りを入れてきたのだ。
羅刹がいるのかいないのか。
こういう時―――これは、せつらの立場になって初めて思うことだが―――、ああいう連中をどうしてさっさと補導するなり、退学処分にしたり、何かしらの対処をしないのかと疑問に思う。
普通に生活してる人たちにとっては迷惑極まりない存在なのに……。
っていうかもう喧嘩なんてする不良共は全員逮捕してしまえ―――――、とか。
しかし、同時に俺だからこそ分かる。
奴らは何もしない。
先公も警察も、動かない。
先公は叱ると言うより媚びるように頼んでくるだけだし、警察にも例え喧嘩の現場を押さえられたとしても、一時、補導されるか、ほんの少し小言を言われて終わりだ。
しかし奴らを決して侮ってはいけない。
少しでもぼろを出せばこれ見よがしに組織的に、権力を振りかざして攻撃してくるからだ。
悪鬼からもは、最初の頃こそ数名のネンショー行きを出してしまったが、俺はすぐに徹底的に言いつけた。
決して社会に捕まるな―――――、と。
犯罪は明るみに出なければ犯罪にはならないと、それだけは徹底させていたのだ。
それが俺たちの生きのびるための術だったのだ。
喧嘩や喝上げ、暴走族などが野放しに放置されているその大きな原因はやはりその発生件数だろう。
これだけ治安が悪いと警察も対応しきれないのだ。
その点、俺がいた時代は逆に平和と言えたのかもしれない。
少なくとも数年前に比べれば表面上は平和そのものだったろう。
俺が全てを力で押さえつけ君臨していたのだから。
いや……、それは輪高だけの話に限る――――かもしれない……。
決して少なくない上納金を押しつけられた三校は――――……
想像し、俺は頭を抱えた。
そんなこと考えたこともなかった。
いやどこかで気づいていて、そんなことは当たり前のように分かりきっていて、それでも気にもとめなかった、これっぽっちの罪の意識も抱かなかったことだった……。
他校は悲惨だっただろう……。
羅刹という恐怖に怯え、プライドをずたずたにされながらも、日々上納するための金策に走らなければならなかったのだから―――――……
俺は今、焦燥を抑えられなかった。
俺は、一体どうすべきなのだろうか。
羅刹として、何かを行動すべきなのだろうか。
それとも、俺は既に舞台から降りたただの女子高生として、傍観するべき――――
……することが許されるのだろうか……。
何かをしなくてはいけない。
そんな気がするのに、何もできない―――――……
無力――――、、、だった。
やる、やらない、ではない。
今の俺にはもう、事態の成り行きを見守ることしか――――…
第11話:焦燥
終わり