学校から戻ってみると、俺の家の目の前で10人程のチンピラが屯しているのが見えた。
皆、髪染めや鼻ピアス、着崩したり長ランだったりと、ヤンキーを全面に押し出した連中ばかりだ。
木刀を手にした奴までいる。
どれも見知らぬ顔ばかり。
まともな制服を着てる奴が1人もいないので、どこの学校かは特定できないが、輪高の生徒ではないことは確かだ。
以前の俺なら10人程度、枯木を薙ぎ払うがごとく一蹴して終わるのだが、今となっては連中の一番小さいやつでさえ、俺より背丈がありそうだった。
足が竦むことはなかったが、流石に緊張せざるを得ない。
一端、引き返してコンビニで時間を潰そうかとも思ったが、あの様子では夜中まで居座ってそうな雰囲気である。
俺は家の前にたむろするヤンキーの群れに近づいた。
玄関へ通り抜けようすると彼らの1人が声をかけてくる。
「あんた、この家の人?」
「そうですけど…?」
「俺ら、羅刹さんに会いたいんだけどォ――――」
「羅刹?」
「羅城道孝さんだよ。
最近お会いしてないもんでね。
一度挨拶したいんだが?」
「すみません、そんな人知りません」
「あっ、おいっ――――――――」
早々に話を打ち切り、通り抜けようとすると、思い切り腕を掴まれた。
「やめてください。人を呼びますよ?」
「羅刹さんはいねーのかって聞いてんだよ!!」
「だから、そんな人知らないって――――!!」
「あんた羅刹さんの妹なんだろっ―――!?」
「違います!
放してっ!」
「あっ、待てこのっ――――――――」
俺は思いきり腕を振り払った。
鞄から鍵を取り出し、急いで家の中へ入る。
ガチャリ。
ふぅ――――――――…
内側から鍵をかけ一息つく。
外でなにやら意味不明な言語で喚いているが無論、シカトだ。
どうやら彼らはまだ、羅刹が本当にいなくなったのか、判断がつきかねているようだった。
しかしそれもすぐに終わる。
ここまでちょっかいを出して羅刹が現れなければ、本格的な攻勢に出るのは時間の問題だろう。
しかし羅刹の妹、というのはどういう意味だろう?
輪高内では違う、と言っておいたはずだが。
まあ、俺の住所と名字からそう推測するのは当然の発想かもしれないが――――…。
しかし――――――、
だとすれば今後、事態がどう転ぶか分からなかった。
羅刹の妹だから手を出されないのか、あるいは羅刹の妹として狙われるのか―――――……
俺としては羅刹とは無関係を主張するつもりではいるが―――………。
護身用にスタンガンくらいは購入しておくべきかもしれない、と思った。
己の肉体ではなく、武器に頼るのは情けなかったが、今、俺が立っているのは強者の立場ではない。
弱者は弱者なりに、身を守る術を考えなくてはならない。