「すみません。やっぱりお断りします」
「そう………か。
いや、そうだよな。
1年で、いきなり番長やれって言われても、まあ、当然か……」
「ええ、それに、喧嘩とか嫌いですし、
あの時は、友達を助けたかっただけですから―――…。
すみません、お役に立てなくて」
「いや、いいんだ。
無理を言っているのは分かっていたから。
ありがとう」
結局―――――、俺がどのような選択をしようと、事態がどう転ぶかは分からないのだ。
俺が仕切ることで平穏が保たれる可能性もあれば、泥沼になる可能性もある。
それにもし羅城の名に効果があったとしても、遅かれ早かれ羅刹を出せとなるのは目に見えている。
結局、俺が頭になったところで問題を先延ばしにするだけなのだ。
それに本来、俺は来年の3月には卒業するはずだった。
卒業後は現役で何とかするものなのだ。
無論、俺が健在かどうかで状況は全く違うだろうが、現状は現役生の手に委ねるべきなのだ。
それにもし今これを引き受けたら、俺は3年まであと2年間、頭をやらなければならなくなる。
それだけみことを危険に晒す機会も増えてしまうことになる。
それを考えると正直鬱陶しい。
空見が卒業した後、輪高のやつらが俺に従い続けるのかさえ分からないのだ。
女を頭に据えるのを気に入らないやつは多いだろう。
俺といえば、女はただキャーキャー口うるさくしゃべるだけの、犯すためだけの存在としか思っていなかったくらいだ。
だから、答えはNOだ。
空見には悪いが、今いる奴らで何とかして貰うしかない。
でも本当は、答えは最初から出ていたのかもしれない。
だって俺が不良と関わるのを、彼女は絶対に嫌がるだろうから――――――――――――
「空見さん、今、一瞬だけ番長をやってもいいですか?」
「え?それはどういう………」
俺は思い切り息を吸い込んだ。
奴の答えを待たず、俺は今一瞬だけ、一度だけ羅刹へと戻る。
「空見、今日から、今から戦いの準備を始めろ。
上納金としてかき集めた金を全て武器に使え。
悪鬼のメンバー全員に武装させろ。
手の空いてる者には周辺を警戒させろ。
それから一般の生徒を巻き込むな。
もし金が余るようなら女子にスタンガンでも配布してやれ。
いつまでも浮き足立ってんじゃねぇ。
さっさと気持ちを切り替えろ。戦いを始めろ!!
悪鬼――――……
おまえらは全力でこの輪高を守れ!!」
そこまで一気に言い切って、俺は息をつく。
「ふぅ――――…… 一瞬番長終わりです」
空見は俺の宣言に呆然としていた。
口を半開きにしたその表情は、まるで幽霊でも見てしまったかのようだ。
もしかしたら奴の機嫌を損ねるかもしれないが、俺に言えるのはこれだけだ。
いや、言いたかったこと、かもしれない。
「実に、惜しいな――――――――――。
やはり頭には君に立って貰いたいが…………」
俺はゆっくり首を横に振った。
「それじゃあ、私はもう行きますね」
「ああ」
悪い、空見。
あとは任せたぞ――――――……
「羅城さん」
「はい?」
去り際、空見に呼び止められ俺は振り向いた。
「今、どこか怪我してる?」
「いえ…?」
「じゃあ―――――――――――」
言葉を濁す空見に、質問の意図が分からず俺は首をかしげる。
「なんです―――……?」
「あー、その、きてるみたいだよ―――――、生理」
「え………?」
なぜか聞き慣れた、でも意味の分からぬ言葉に俺は戸惑い、
だから俺は釣られるままに奴の指の指し示す先を追い、下を向いた。
俺の白い脚を赤い血が伝っていた。
驚き、スカートを捲り上げると、俺の股間は真っ赤に染まっていた。
そこから内腿を流れた血が、ニーソまで伝っているのだった。
「あーあーあーあー、んんっ、ゴホンッ――――…」
空見の、存在を主張する咳払いに、俺は彼の目の前で思い切り下着を晒していたことに気づき、慌ててスカートを下ろした。
「あ、あの、ありがとう」
「いえいえ」
俺は空見に軽く一礼し、足早に、その場を後にした。
突然、自分の身に起きたことに戸惑いつつも、俺はわくわくしていた。
気づいてしまってからは酷く不快だった。
早く血を拭き取り、下着を替えなくてはいけない。
勿論そうなのだが、それでいてわくわくしていたのだ。
何よりも、誰よりも、早く知らせたかった。
彼女に伝えに行きたかった。
このことを伝えれば、きっと彼女は喜んでくれる。
まるで我が身のように喜んで、笑顔を見せてくれる。
俺はその笑顔が楽しみで――――――――――
みことはずっと、俺に生理がこないことを心配していたから――――――――――。
みこと、俺は決めたよ。
俺はもう二度と羅刹には戻らない。
俺は――……
私は――――――これから羅城せつらとして生きる。
第17話:決意
終わり