私はみことと二人で買い込んだ食材を冷蔵庫に詰め終え、鏡の前で一通り身だしなみをチェックして再び外へと出た。

女として生活し始めてから、もうすぐ2ヶ月が経つ―――。


(私もすっかり女らしくなったもんだ―――…)


みことに対する感情から思うに、心の根っこの部分にはまだ男が残っているようだが、振る舞いや考え方なんかは大分女らしくなった気がする。
未だに、無意識のうちに男子トイレに入りそうになることはあるし、立ったまま用を足そうとすることもあるけれど。










数時間後にはみことが戻ってくるにもかかわらず、私が再び外に出た目的は駅前に新しくできたケーキ屋にあった。

時刻は17:30――――…

片道歩いて20分。
これから行けば戻るまでに1時間近くかかるかも知れないが、みことがくるまでには十分間に合うはずだ。
そのケーキ屋は最近できたばかりでこれまでに何度か話題にあがったものの、イートインコーナーがついていないために、みことや悠理と一緒に食べるということができずにいたのだ。

目的は勿論、その店の目玉商品であるフルーツ山積みパフェだ。

その名の通り、リンゴや梨、オレンジ、ブルーベリーなど多種多様なフルーツが山積みにされていて、見た目も楽しめれば、その味も絶品という贅沢な代物だ。
フルーツといっても生の食材がそのまま載っているわけではない。
ケーキ用に調理されたそれらはまるでケーキそのもので生まれてきた食材・・・・・・・・・・・・・・・・とでも形容したくなるような、独特の甘さと歯ごたえを伝えてくるのだ。

――――と語れるのは、私がもう一度食べたからであって。

既にその店のポイントカードまで持っていたりする。

そのあまりの美味しさに、まだ食べてないというみことにどうしても食べさせてあげたいと思ったのだ。






























ジブリエーラ―――――
やけにリアルな女性の天使像をモチーフにしたその店は、有名なお菓子職人パティシエの経営で、既にいくつかの雑誌でも紹介されている人気のケーキ屋さんだ。
店内は帰宅中の主婦や学生たちで賑わっていた。
どうやらレジに辿り着くまでに10分以上待たされそうな気配である。
仕方なく最後列につき、待っていると、すぐ後ろに立った男から声をかけられた。


「やあ、こんにちは」
「あ、ども…」


私に声をかけてきたのは、それはこの場にいることが全く似つかわしくない男――――空見、だった。四天王の中では一番常識的な格好をしているとは思うが、その存在は明らかに浮き、場違いだった。
軽く会釈だけで済ませようと思ったが、不良グループ・悪鬼の一角を担うあの空見が、ケーキを買いに並んでいる様子がどうにもおかしくて、ついつい話しかけてしまった。


「空見先輩もここのケーキ好きなんですか?」
「とんでもない。
 俺は甘いものが大の苦手でね。
 しかし随分と混んでいるんだな、ここは……」


うんざりしたような態度をとりつつ、それでも並んでいるのは、誰かにパシられているということか。うまく話を逸らしたようだが、この空見にケーキの使いを頼んだ猛者が誰なのか若干の興味があった。


「妹さんか、お姉さんに頼まれて――――?」
「いや―――………。
 実は死んだ兄貴の大好物でね。
 今日は奴の命日だから仕方なく」

「あ―――――そうなんですか…。
 すみません」
「いや、気にしなくていい」


茶化す気満々だった私は気まずくなり、それ以上の会話もなくレジの方へと向き直った。





そうか、今日は彼の・・――――――……。

脳裏にこれまで唯一倒れなかった・・・・・・男の顔が浮かんだ。
それは私が、羅刹が初めて認めた男・・・・・・・・・・
当時はあまり気にしなかったが、今になって心が痛んだ………。
あれは不幸な事故と片付けるには哀しい出来事だった。

もしもあの時、彼とあの女の・・・・・・繋がりを知っていたなら――――、未来は変わっていたかもしれない。

いや、それは分からない……。
そんな風に思えるのは、今だからこそ、今の私だからこそ・・・・・・・・であって、あの時の俺は―――

もう過ぎたことだ。
昔のことなのだ。
幾ら考えても、全ては終わったこと。
今更―――――、だった。


しかしそう考えると空見は私を恨んでいてもおかしくない。
にもかかわらず、羅刹わたしを仲間だと思ってくれていたのか――――。

それともそれは表面上だけで本当は恨んでいた……?

もしそうなら、羅刹の妹だと考えていたからこそ、信用させるための演技をした可能性はある。
もしかすると彼も私の呪いの一部なのだろうか?

いや、そうは、思えない。
だって彼の目はあの人と同じだ――――……。

私は彼を信じよう。
彼の弟だから信じるのではない。

私は自分が感じた思いを信じよう。










それはそうと、死んだ奴の為に恥をかくのも厭わないとは、いかにも空見らしい。


「君は?」
「え?」


昔のことを思い出していた私に、不意に、今度は空見の方から話しかけられた。
私は体半分後ろを振り向く。


「えと、なんですか?」
「今日は誕生日か何かなのかい?」
「あっ…いえ、ずっとこなかった生理がきて、それで友達が喜んでくれて、
 いや、そのっ、違くてっ、単に、その、私が、食べたいだけ…、で――――――……」


ああ、何をとちってるんだ私は―――……。
私は内心頭を抱えた。
思考の海にダイブしていた所為で、馬鹿正直に答えてしまった。

恥ずかしさに顔が赤くなるのが分かる。
私が私として、女らしくなってきて以来、どうにも男と話すのが苦手でならない。
それにどうも空見は羅刹の時の顔見知りだけに調子が狂ってしまう。



「ふふっ。そんなに美味しいのかい?ここのは」
「ええ、それはもう。
 空見先輩も一度食べてみることをお勧めしますよ。
 病みつきになること間違い無しです」
「それは丁重に辞退したいが。
 ――――そうか、そんなに美味いのか。それは兄貴が喜びそうだな」
「そう、ですね…」


我ながら、折角調子よく話せたというのに、死人を持ち出して話を重くしないで欲しい。
とはいえ、彼にしてみれば故人を偲ぶために買いに来てるのだから当然かもしれない。


5分ほど経っても、列はちっとも前へ進んでいないようだった。





その時、遠くからもの凄い轟音が響いてきた。
排気音低減装置マフラーを外し、腹にまで響くエンジン音には聞き覚えがあった。

店内から車道を眺めていると、予想通り見知ったバイクが二台、猛スピードで通り過ぎていく。
桧山ひやま灰刃かいばのものだ。


私も昔はああやってバイクで爆走するのが好きだった。
巨体に強靱な骨格、そして発達した筋肉、殆ど最強の名を手にし、存分に自由を謳歌する一方で、私は常にその重力に囚われている気がしてならなかった。
重力に縛られず、人間という種の生態構造を遙かに上回る超スピードで風を切るのが、景色を切るのが最高に心地良かったのだ。

しかし立場を変えると、腹の底まで不快感を響かせる彼らに腹立たしさを覚えた。
あれは周囲の人間全てを馬鹿にしていないとできない行為だ。


桧山と灰刃のバイクが通り過ぎ、その後ろから黒いバン。

バンは全て曇りガラスになっていて、ドライバーの顔でさえ容易に判断できない仕様だ。
運転しているのは間違いなく無免許。
あのバンには大分お世話になったが、もっぱら女を拉致る時に使ったもので、今となってはいい思い出―――――………とは言い難い。
後部座席には一度に8人ほどの兵隊ありを運搬できる。
戦争も近いということか……。


決して治安がいいと言えないこの街は、無法をするには快適で、暮らしていくには不安を覚えずにはいられない場所だった。



空見も桧山と灰刃には気付いたはずだが特に何も言わなかった。
同じ四天王だからといっていつもつるんでいるわけではない。


ちなみに私のイメージからすれば――――、

東江あがりえは冷静沈着にして冷徹。
そしてその厳しさゆえに悪鬼の金の管理などは全て彼に任されていた。
今となっても一体何を考えているのかよく分からない人だ。

それから桧山と灰刃。
悪鬼の特攻隊長。
気が合うのかよくつるんでいるが、短絡的でキレやすい。
正真正銘の馬鹿だが、常識の無さや、攻撃性、バトルセンスは他の連中とは一線を画していた。

そして空見。
一匹狼。東江とは少し馬が合うようだ。
誰よりも悪鬼という組織のことを考えていながら、それでも自分は一歩外にいるような、そんな人物。





「そう言えば――――」


再び口を開いたのは空見だ。


君の出した命令・・・・・・・、早速実行に移すことにしたよ」


内容が内容だけに、少し声のトーンを落とし、私の耳元に近づいて話しかけてきた。

が私は心持ち彼から身を離した。

男に顔を近づけられたのが嫌だという男心か、単にパーソナルスペースを確保しただけか。
彼とくっついていたらみことが嫌がるから、と思ったのが一番大きな理由かもしれない。


「いい判断だった」
「私は別に……」

「あの命令のおかげで現状が把握できたんだ」
「―――?」

「実はあれから緊急集会を開いてね。
 あの指示を提案したことで悪鬼の中に二つの流れがあることが分かったんだ」


なぜそんなことを私に話すのか。
確かに一度指示は出したが、あれは単に指針らしきものを示しただけだ。
むしろ示したというより、私が自身とみことを守るため、悪鬼に働いて貰おうと思っただけだ。

全く興味がないと言えば嘘になるが、これ以上空見から悪鬼の現状を説明される謂われは無い。
輪高の頭になるのはきっぱりと断ったのだから。


「全面対決をしようというグループと、彼奴らの傘下に入ろうというグループの二つに分かれた」
「――――!?」


それは流石に驚いた。
驚きが顔に出ていたらしい。


「俺も驚いている。全面対決以外にありえない。
 あり得ないはずなのに。
 彼奴らの傘下に入るということがどういうことか分かっていない連中がいる。
 その過程もその後のことも、まるで考えていない」

「……………」



流石にそれはまずい。
非常にまずい状況だ。

ただでさえ1対3で不利なのに、更にその中で分裂してしまっては勝ち目は0に等しい。
今の輪高には3校を相手取るだけの戦力はない。
ならば攻撃は諦め、防御に徹するしか生き残る道は無い。

だから――――…
だから悪鬼にそんな気持ちの連中がいることを戦争が始める前に気づけて良かった、と言っているのか、空見は。


「………それで、どうするつもりなの?」
「まだ分からない。
 羅刹さんさえ戻ってきてくれれば――――…………」


それは空見らしからぬ発言だ。
もし“羅刹”がいれば相手が3校だろうが10校だろうが、問題にすらならない。

その羅刹がいないからこそ――――いや、もう空見でさえ、羅刹に縋るしか、思いつかないのかもしれない。
私とてそんな状況を打破する名案など浮かぶわけもない。


(輪高――――……、終わったかな……)


言うべき言葉が見つからず私はただ沈黙した。
それは空見も同じだった。


「山盛りフルーツパフェ2つ」


並ぶショートケーキ、プチフール、マフィンやタルトなど、思わず垂涎もののお菓子たちに目がくらむ。どれもこれも食べたいし、みことにも食べさせてやりたい、が、ぐっと堪える。
やっと注文と会計を終え、あとは商品がくるのを待つばかりである。


「ほんの少しでもいい。
 なにかいい案はないだろうか?」
「私に聞かれても―――……」

「君は輪高に転入してくる前、前の学校で頭を張ってたんじゃないのかい?」
「いえ………」


空見は私をそんな風に思っていたのか。
まあ思われてもおかしくないかもだけど―――……。


なにかいい案―――か……。


ぱっと思いつくのは魔夜火紫くらいだ。
魔夜火紫の兵隊を全部投入すれば、かなりの戦力になるはずだ。
高校の不良集団とは違い、族には掟がある分その統率力は高く、その機動力や攻撃力にはかなりの期待ができる。

それを提案しようとして――――、私は口を閉じた。
私が真っ先に思いつくことを彼が考えないわけがなかった。
戸田に頼めない状況、もしくはすでに断られたか、のどちらかだろう。

ああ、そうか。
魔夜火紫の構成員は輪高だけではなく他校からも来ている。
いわば混成チームとなっている魔夜火紫が一方的に輪高に肩入れするとなると、その存在が根底から揺らぎかねない。
あの戸田が輪高を見捨てるとも思えないが、あまり期待はできない…。


もしかすると魔夜火紫ももう終わる・・・・・かもしれない………。










それから10分近くも待たされ、私はやっと商品を受け取ることができた。
喫茶店で食べるようなデザートグラスではなく、容器がテイクアウト用のプラスティック製の為に若干高級感は薄れるが、それでもたった二つしか入っていないはず小箱は、私の手にずっしりと確かな重量感を伝えてくる。

ちなみに空見は棚に並んでいた小さめのバースデーケーキを選んだためにとっくに商品を手にしていたが、律儀にも私の話し相手となって商品が出てくるのを待っていた。





「それじゃあ、失礼しますね」


店を出て、去り際のことだった。


「あ、そうだ、せつらさん」
「はい?」


名前で呼ばれたことが若干気になったけれど、いや、羅城の名で呼ぶことに気を遣ってくれたのか――――、と考えるのは少し自意識過剰かも知れない……、まあどちらでも構わない、か。


「昨日の会合の帰り際、桧山と灰刃が変なことを言ってたんだ」
「変なこと?」


私はその名に嫌な予感を感じた。


「別に作戦として提案した――――というわけじゃなく、
 冗談半分に言っていただけなんだが」
「――――なんですか?」

「羅城の妹として君をあいつらに差し出し貢ぎ物にすると。
 和平交渉でもするつもりでいるのかもしれないが、そんなことはできるはずがないのにな」
「……………」

「あ、いや、申し訳ない。
 気を悪くしないで欲しい。
 俺から絶対にそんなことはするなと、きつく言っておいたから」






























なんだこれは―――――――――――――――――――――――――































悪寒……?

頭皮が引きつり、背中にぞくぞくとしたものを感じる。





なんなんだ!?





なんだ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?










この取り返しの付かないような、嫌な感覚・・・・はっ―――――――――――――――!!!










桧山、灰刃――――――――――、そして黒いバン。





さっきあいつらが向かった方向は――――――――――!?










時計を見ると18:30を回っている。

みことが私の家を出てから1時間半近く。
早ければもう戻ってきてもおかしくない。



(みこと――――――――――――――――――――――!?)



私は慌てて携帯を取り出しみことにコールする。


『―――――――あ、せつらさん?』


4〜5回鳴って、みことが電話口へとでた。



「みこと、今どこ?」

『それはこっちの台詞だよっー!!
 せつらさんこそどこにいるの?
 …………すぐに、戻ってくるよね?』

「もしかして、もう私のうち?」

『うん、パパが車で送ってくれたから早く着いたんだよ。
 玄関開いてたから勝手に入っちゃったけど、いいよね?』


(ふぅ……。
 とりあえず一安心か………)


「みこと」

『う?』

「今、ちょっと買い物に出てて、今から帰るところだけど、
 あと20分くらいかかると思うから……」


その時、彼女の電話越しに轟音が鳴っているのに気づいた。
その轟音は通り過ぎることなく、最大音量で鳴り続けている。

私は思わず叫んでいた。



「みことッ!!!!!!
 今すぐ玄関の鍵を閉めて――――――!!!」

『え?』

「早くしなさい――――――!!!」



ガタッ バンッ ガタンッ―――――――――――



『何っ?』
『あんたが羅城せつら?』
『ちょいツラ貸せやぁ』
『いやっ――――――――――――!放して!放して!』




ガタガタッ―――――― ガタンッ―――――――――――――――――




「みことっ!みこと!みことッ―――――!!」



受話器からみことの声が途絶えた。
殴られ気絶したのか、薬で眠らされたのか。

それからドカドカという足音。

轟音が響き、そして遠く離れていく―――――。

携帯を通して伝わってくる片鱗の音だけで、今そこで何が起きているのか想像するのは容易だった。










みことが私と間違えられ、連れ去られたのだ――――――――――――――――――。










「どうかしたのか―――――――?」


声をかけてきた空見の胸ぐらをは掴みあげていた。


「桧山と灰刃を止めろ!今すぐ!」

「え?」

「あいつら俺のダチを拉致りやがった!!!
 あいつらの携帯にかけて今すぐやめさせるんだ!
 早くしろ!!」

「あ、ああ―――――」


俺の剣幕に空見が携帯を操作する。
怒声とも悲鳴ともとれる俺の声に、道行く人々が遠巻きに眺めているのが分かった。



くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそっ――――― くそったれ―――――!!!!!!!



激しい苛立ちと怒りと悔しさに、歯を噛みしめ、拳を握り、必死に自分を押さえつける。

腸が煮えくりかえる。頭が沸騰する。熱い。灼ける。爆発する。



(フ―――ッッ!! フ―――ッッ!! フ―――ッッ!!)



まただ。

あの時・・・と同じ。

あの女の言動にキレ、怒りに身を任せ、肉体が崩壊しそうになったあの時と。

あの時はあの女がいたから助かったが、今は。

このままでは、恐らく、自分は死ぬ・・



なんなんだよ、この感覚は―――――――!!!



駄目だ。

落ち着け。

熱くなるな。


今、俺が死ねば、誰がみことを救うんだ――――――!!!




「はぁっ……、はぁっ………、はぁっ………」




俺は蹲り、自分の体を抱きしめ、何度も深呼吸を繰り返し、必死に落ち着きを取り戻す。



「空見、まだか!?」

「桧山も灰刃もコール音だけで繋がらない。
 あのバイクに乗っていたら携帯の呼び出し音なんて気がつかないぞ」


俺は近くに止めてあった空見のバイクへと走った。
そのままパクって、今すぐにでもやつらを追いかけたかったが、この体ではまともに運転はできないだろう。
空見がすぐにやってきて跨がる。
俺は後部座席へと飛び乗った。


「何が起きてるのか教えてくれないか?」

「だからっ!!!
 俺の家にいたダチが!!
 俺と間違えられて、拉致られたんだよ―――――!! 
 桧山と灰刃にッッッッ!!!」

「把握した」

「空見。あいつらの行き先は分かるか?
 あいつらは羅城せつらおれを誰に貢ぐ気なんだ?」

「そうだな――――、普通に考えるなら征関の荒渡。
 交渉するなら撲斗と三麓の中継役をしている荒渡だろう。
 だがあいつらは馬鹿だからな。実際、誰とつるんでいるかまでは―――――」

「確率の高い方を当たるしかねぇ。 
 おい、荒渡のヤサは分かるか?」

「俺は知らないが、悪鬼に呼びかければすぐに」

「なら悪鬼全員を今すぐ招集しろ」



「それは―――――」










俺にその権限はない・・・・・・・・・



彼の目がそう告げていた。



もしその権限が欲しければ、輪高のトップに立て・・・・・・・・・――――、と。






























もう二度と、羅刹にはならないはずだった。



俺は今日、羅城せつらとして生きると、誓ったばかりだった。






























俺は空見の視線を正面から受け止め、頷いた。


「空見。
 羅城の名において命令する―――――!!
 悪鬼のメンバーを全員緊急招集。
 今すぐに桧山と灰刃を止めろ――――!!!」

「了解ボス」

「俺をボスと呼ぶな―――!」


俺の言葉に空見が硬直するのが分かった。
それは羅刹の時に何度も口にした言葉だった。

だからこそ彼は驚いたのだろう、がしかし今はそれでいい。
俺の手足となって動いてくれるのなら。

それでみことを助けられるのなら。










もう何でもいい。





俺はどうなっても構わない。





みことさえ、無事でいてくれるなら――――――――――――――――







































































第18話:ジブリエーラ
終わり

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  外伝:洛沙羅
― ―― ―――――――――――――◇――――――――――――― ―― ―
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