「とりあえず俺の家へ行ってくれ」
「了解」
空見のバイクが爆音を立てて走る。
俺は振り落とされないよう、かなり必死に奴の体に掴まらなければならなかった。
家に着くと玄関が開け放たれたままになっていた。
キッチンでは椅子が倒れ、床には調理を待った食材が散らばっていた。
俺はその中からみことの携帯を拾い上げる。
もしかしたら携帯の向こうの出来事は夢で、家に帰ってみればなんのとことはない、みことは笑っていて――――、なんて希望を抱いていたがあまりに淡い幻想だったようだ。
俺は自室へ行き、テーブルの上に置いてある小さな小箱を掴んだ。
中にはあの女から貰った1粒の“白珠”が入ってる。
もしかしたらこれが必要になるかもしれない。
俺は命を落とすことになるが、みことを救うためなら、躊躇うことなど無い。
俺は家を飛び出し、再び空見の後ろに飛び乗った。
「桧山たちに連絡はついたか?」
「いや―――……」
「………、よし。あいつらが辿り着くより前に、征関に宣戦布告しろ!」
「そ、それは―――――……!
いくらなんでも無謀すぎる………ッ!!」
確かに。
輪高は今二つの分裂している上に、戦争の準備を始めたばかりだ。
その状態で征関に宣戦布告し、もし撲斗と三麓が乗り出してくれば万が一にも勝ち目はない。
だが宣戦布告してしまえば桧山と灰刃の交渉はできなくなり、みことが無事に済むかもしれない。
やれることは全てやらなければ、絶対に後悔する。
「いいからやれ!!」
「ボ――――、せつらさん」
せつらさん、か――――…。
一瞬、羅刹と呼べ、と言いそうになったが躊躇する。
「じゃああと5分だ。
5分、桧山たちにコールし続け、もし連絡がつかなければ即布告だ」
「だけどっ……」
「もしもの時は俺が何とかするッ!」
「何とかって――――…、落ち着いてくれせつらさん。
頭を任せると言ったのは確かに俺だ。
でも君になんとかできる力があるのか――――――!?
口先だけなら何とでも言える。
だが現実に力がなければなにもできないんだぞ!?」
その通りだ。
これは俺の我が儘だ。
だが、俺は躊躇しない。
みことを救うためにできることは全てやってやる――――!!!
「俺のことは羅刹でいい」
「え?」
「羅刹と呼べ」
「え?」
「空見、聞こえなかったのか?」
「………」
空見はここへきて判断を迷っているようだった。
彼は考えている。
1年女の度胸を勘違いしていたのではないか?
こいつはただの無謀で、命知らずで、口先だけのハッタリだったのではないか?
こいつに輪高を任せると言ったのは失敗ではなかったのか?
と。
「空見、頼む。俺を信じてくれ」
「…………」
「俺に力を貸してくれ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
今の悪鬼を動かすには空見の協力は必要不可欠だ。
空見を動かせずにみことを救うことはできない。
なら―――…
脳裏にあの女の言葉が蘇る。
あんたが、羅城道孝だってことを決して他人に知られてはいけないよ―――――。
でも、それで彼を動かせるなら――――……
「俺が、羅刹なんだ―――………」