「俺が羅刹なんだ………」
空見が目を見開く。
信じられないというより、呆然としている感じだ。
「確かに君には不思議なところが沢山ある。
もしそうなら、納得できることも多い。
………だけど、君は羅刹さんじゃない」
「俺が、羅刹だ………」
「あの人は、決して人に頭を下げることも、頼むこともしない―――………」
「それはっ、今は俺がっ、女だからだッ――――!!!!」
次の瞬間、俺の口を奴の唇が塞いでいた。
「っ―――――!?」
突然のことに何が起きたか分からない。
あまりの乱暴さに歯と歯がぶつかりあう。
キスをされたのだ、と分かったとき、俺は顔が真っ赤になるのが分かった。
左手の袖で唇を拭う。
汚された気がした。
空見にそんなことをされた、ということより、みこと以外に唇を奪われたことがショックだった。
「なにしやがる―――――――ッッ!!」
突き飛ばし、バイクから降りようと思ったが、右手首を掴まれ、高く持ち上げられた俺は、たったそれだけで身動きがとれなくなる。
無理に振り解こうすればバランスを崩しバイクから転げ落ちてしまう。
「俺の女になれ」
空見が俺の顔の至近距離で言った。
「はあぁ!?」
「確かに、君に輪高の頭になるように頼んだのは俺だ。
しかし君の言うことはあまりに無謀で実行できない。
だが俺の女になってくれるなら、無謀でも何でも、俺は君の為にそれを実行できる」
「―――――!?」
そんなことより今は一刻も早くみことを救出して欲しい―――と思うのだが、
空見は抜け目なく、もう一方の手で絶えず携帯を操作し、リダイヤル発信をし続けている。
彼の提案は卑怯で、空見らしくなく、それでいてなぜかとても空見らしく、俺はぶっ飛ばしてやりたい衝動を抱えつつも、必死に考える。
(くそっ、この野郎、人の弱みにつけ込みやがって――――――!!)
彼に女として見られたことに対する嫌悪感より、弱みにつけ込まれたという憤りの方が大きかった。
何度も肉体を捻り、更に蹴りを入れようとし、彼の拘束から逃れようとするが、あまりの非力さに腕一つ払うことができない。
不意に目眩を感じた。
そういえば生理が来たばかりなのだ。
(くそっ―――、俺は羅刹なんだぞっ―――――――――!!!)
やがて俺は藻掻き疲れ、抵抗を諦めた。
空見に強く掴まれれば、その腕を振り解くことすらできない。
それが今の俺―――――、だった。
(ははは………、そうか、そうだよな……、俺はもう羅刹じゃない………、、、)
空見の女になる約束をする―――――、それはみことへの裏切りだ。
到底、受け入れることなどできない。
しかしそれで彼女を救える確率が1%でも上がるのなら――――……
「いいだろう。
だがみことを無事に助けられたら、だぞ―――――――!?」
空見は頷いた。