不意に扉が開き、部屋に入ってきた看護師は、私の姿を見るなり驚きの声をあげて走り去った。
すぐに沢山の人たちがやってきて、いろんな検査をされた。
異様に体が怠いということを除けば、特に痛みはなかったし、私は自分が何かの病気だとも思えなかった。
そんなことより何よりも問題だったのは、私が自分自身のことに関し一切の記憶が無い―――ということだった。
頭の中は真っ白で、いくら考えても何一つ思い出すことができなかった。
自分自身の名前すら、も―――……
逆向性の記憶障害だと診断された。
とても嫌な出来事があって、それに関することと、それ以前の記憶を一切思い出せない状態、らしい。
お医者さんやカウンセラーの人と話をしていて一つ私が気付いたことには、私が記憶を失っていることに彼らはあまり驚いていないというか、その言葉の節々にどこか納得している感じさえ見て取れた、ことだ。
1ヶ月もの間眠り続けていた私は、どうやら、記憶を失ってもおかしくない程のショッキングな事件に巻き込まれた――――、らしかった。
羅城せつら――――……
それが、お医者さんから教えてもらった、私の名前。
どうもぴんとこない。
それでいて確かにそれは自分の名前だと思える、不思議な感覚。
自分が誰かも分からず、これからどうなるのか全く分からず、悩みは多かったけれど、不思議と不安はなかった。
もしかしたら私は元来、のんびりとした性格なのかもしれなかった。
長い長い検査に、私は重い疲労感を感じていた。
1ヶ月も寝たきりだった私は気力を持て余しているようで、しかし体力はすっかり衰えていて、私は病室へ戻るとたちどころに眠りに落ちていった。
第24話:白
終わり