「昴さん、どうか会いに行ってやってください」
「………」
「あなたの娘さんでしょう?」
「違う………」
「でも………」
「違うと言っただろう―――!!!
私に娘はいない!
いないんだよ!!」
「でも戸籍上は――――」
「誰かが、戸籍を勝手に書き換え―――……、改竄したんだ――――……本当だ!!
何度もっ!もう何度もそう言ってるじゃないか!!」
21:00――――――羅城宅
羅城家のリビングで、空見は羅城道孝の父・羅城昴と向かい合って座っていた。
ずっと羅城の家を空けていた羅城昴。
1ヶ月前、学生30人余が殺害された大惨事は、世界中に知れ渡る大ニュースになった。
その事件唯一の生き残りの少女が意識不明で入院していることも。
意識不明の少女の身元は、彼女が所持していた学生手帳から羅城せつらだと分かり、父親である昴のところに連絡がきたのだった。
その部屋は異臭に満ち、テーブルの周囲には空になったいくつもの酒瓶が転がっていた。
空見が羅城昴と話すのはこれが初めてではない。
「そうかもしれません。
でも今、彼女の親はあなたしかいないんです。
お願いします。
会いに行ってあげてください」
「…………」
「ここは彼女が、羅城せつらとして暮らしてた家なんですよ」
「私はっ――――そんなこと、認めてもいないし、
全く知らなかった……」
「…………」
「私の息子は――――!?
道孝はどこへ行ったんだ!?」
「息子!?
今更何を言っているんですか!
何年もほったらかしだったんでしょう!?」
「馬鹿を言うな!
苦しい生活から毎月仕送りだってしていたんだぞ!?
私は息子を愛していたんだ!」
「とにかく………、、
今は、せつらさんがあなたの唯一の子供なんです………」
「………戸籍上は、な……」
空見はこの飲んだくれに殴りかかりたい衝動を必死に押さえ込み、健気に頼み込む。
「一度会っていただけませんか?
彼女には今、家族が必要なんです」
「………」
「お願いします。昴さん!」
「………」
「お願いします!!」
空見の真摯な想いが伝わったのか、ついに昴は酒瓶を置いた。
「じゃあ…会うだけ、なら…………」
「本当ですか!
ありがとうございます」
「……………。
まあ、ニュースを見て彼女の境遇には正直同情もしているし……」
「ありがとうございます!
彼女もきっと喜びます」
それから空見はせつらの服をいくつか病院へ持ってくるように頼み、羅城家を後にした。
昴は何度か病院へ足を運んだものの、それは突然押しつけられた見知らぬ少女の入院手続きやらなにやら事務的なことをしただけで、いまだ少女の病室を尋ねたことはなかった。
彼は再び酒瓶を手にし、一気に呷った。