2011年1月5日―――――…





「あけましておめでとー♪」
「おめでとー♪」
「あけおめー♪ことよろ♪」


新年の挨拶を交わした直後、萌が私を見てニッっと笑った。
そのいやらしい笑みに私は嫌な予感を覚えた。


「そうか、そうかぁ―――――、
 せつらも、とうとうになったかぁ……
 なっちゃったかぁ……、、、お父さんは悲しいぞぉぉ――――、
 うっうっうっうっ―――――……」

「ええっ―――……!?
 え?なんで?なんで―――――?」

「に お い。」
「えっ?えっ?」


(え?ほんとに?)


私は思わず自分の体の臭いを嗅いでしまう。
が、分からない。
香水もつけていないし…。


(やだ。
 まさか私濡れて―――――……?)


一人焦る私を悠理がつつく。


「う?」
「せつら…………」


どこか呆れたような表情をしているのは気のせいだろうか。


「カマかけられただけだって………」
「え?カマ?」


萌を見ると悪戯を誤魔化すように舌をちろっと出して笑った。

鎌を掛ける・・・・・――――つまり上手いこと私は本当のことを喋らされてしまったわけだ。


「せつらは単純で騙されやすいのが問題だよねぇ。
 ま、そこがいいところでもあるんだけど」
「もぉぉぉっ―――――、萌ってばぁぁぁぁ!!」



去年暮れに開店したばかりの駅前のカフェへ向かう途中、私と悠理と萌の三人は、遅めの新年の挨拶をしていた。
勿論とうに携帯で済ませているものの、こうして直接会うのは今年初めて。
3人の都合が合う日がなかなか無かったのだ。
先輩と逢えず、四六時中暇な私と違って二人は家族付き合いも多いらしい。


目的の店についてみると、随分と広い。
天井が高くて開放感があるし、しかも席と席の間隔がかなりひらいている。
これだけの敷地があるならファミレスにでもすればいいのにと、言いたくなるほど贅沢な間取りだった。とはいえテーブルは大きくなく、それがまた綺麗にまとまっていて、その分椅子にお金がかけてあるのが一目で分かる。
贅沢な空間でゆっくりとおくつろぎくださいと言われているような気がした。

もっとも、コーヒー一杯の値段も決して安くはなかったけれど。

まだ5日の午前中ということもあるだろうが、店内に客はまばらにしかいなかった。



「え、じゃあ悠理は着物着たんだ?」
「うんー。着付けに凄い時間掛かっちゃって大変だったよ」
「いいなぁ、見てみたかった。写メとか撮ってないの?」
「あるよ〜w」
「見せて見せて―――」
「え、なにこれ可愛い〜〜〜〜〜〜〜!!」
「え、これまじ悠理!?綺麗すぎじゃんwww」

「いいなぁ…、、着物。 私も着てみたいなぁ……」
「ああ、そして綺麗になった私を見て。空見先輩!!」
「もう、萌!!」
「あははw」

「でもいいなぁ、ほんと着てみたい。
 私のうち、着物とか全くないしさ」
「改築した時、全部捨てちゃったんだっけ?」
「そうみたい」
「貸衣装とかもあるけど、すごい高いしね、あれ……」

「萌はお正月どうしてたの?」
「うちは、別に――――。
 ちょっと親戚の家に挨拶に行ったりして終わり。
 代わり映えもない、ふつーの正月だよ。
 あ、でも親戚のおじさんたちからお年玉はたんまり貰ったけどねw
 二人はお年玉は貰った?」
「私は貰ったよ。お父さんから」
「私も結構いろんな人から貰ったかも……」
「着物効果か!」
「違うよw」
「でもバイトしてないうちらにとってお年玉収入は大切だよねw」
「そうだねw」


生クリームをたっぷりとのせたホットココアが美味しい。


「そういえばせつら、退院してからもう1月以上経ってるよね。
 まだ何も思い出せないの?」
「うん、なんにもー」
「今ってお父さんと二人暮らしだっけ。
 何も覚えて無いのに家族とかって―――、思えるの?」
「ちょっと、萌。」
「あ、ごめん、気悪くしたら、謝る………」
「あーいいよ別に。
 うーん、そうだねー……、お父さん優しいし、お父さんはやっぱりお父さんかなぁ…。
 よく分かんないけど」
「全然昔のこと思い出せなくて不安になったり、しない?」
「それはないかな。
 だっていつも――――――」



いつも空見先輩が側にいてくれたから。
不安になる暇なんてないほど、私の心を満たしてくれていたから……。



「なんでそこで黙りこんで赤くなるかなぁ」
「せつら分かりやすいね」
「分かりやすすぎ」
「あはは……///」



空見先輩。
勿論こうして、悠理や萌とおしゃべりをしているのも楽しいけど、先輩に逢いたいな………。



「でも最近逢えないんだよね〜〜〜〜〜!!」
「うわ、開き直って惚気ですか」
「だってぇぇ……、うー。逢いたいよぉ……」
「もう、せつらってば可愛いw」

「逢いたいなら逢えばいいんじゃないの?
 逢ってくれないの?」
「逢いたいって言えばすぐ飛んできてくれるよ勿論。
 でも、勉強の邪魔しちゃ悪いし」
「そういえばセンター試験もうすぐだもんね」
「うん、15,16日かな。もう、すぐだから―――……」
「ちょっとだけ逢ってエッチだけさせてあげれば?
 そのほうが先輩も勉強に集中できるんじゃない?」
「もぉ、萌は〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「きゃはははw」




えっちかぁ……。

空見先輩とはクリスマスに初めて結ばれて、その後はまだ大晦日に会ったきり。
そしてその時も、いっぱいいっぱい繋がって……。

勿論、先輩は私が逢いたいといえばいつでも逢いに来てくれるだろう。
クリスマスから大晦日までの七日間は、それはそれは長かった。

でも大晦日で実感した。

私がいたら先輩は絶対に勉強できない。

えっちだけ、と言っても、それでも私は沢山、先輩の時間を奪ってしまう。

だから、もう暫くは、がまん。

だって受かっても落ちても、試験が終わってしまえば、いつでも逢えるんだから。

だから、今は、がまん。





「私も勉強しようかなぁ」
「え?まさか空見先輩を追って東大でも受けるつもり?」
「ええっ、それは無理っ、無理―――!!
 でも少しくらい勉強できないと愛想尽かされちゃうかも、だし――――」
「何言ってるの?
 女は馬鹿なくらいが可愛いんだよ」
「だから萌は馬鹿っぽくしてるんだ?」
「あー、ひっどい〜〜〜」
「冗談だってば(笑)」

「勉強といえば3学期始まったらもうすぐ進路選択しないといけないよね。
 悠理は文系だろうけど、せつらもやっぱり文系?」
「かなぁ。よく分かんないけど、でも物理とかはちょっと……、ね。萌も?」
「私も文系ー。数学とか全然分かんないってのw」
「期末試験、クラス分けにも影響するらしいしそれなりに良い点取らないと」
「興味無し!」
「えー、じゃあクラス別れてもいいの?」
「それはいやあぁぁ―――……、
 ね、二人とも悪い点取って! お願い!」
「勉強しなさいw」





私たちは延々、他愛も無いおしゃべりを続け、帰路についた。









































第32話:新年
終わり

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  第33話:始業式
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