それは先輩の受験勉強の間の僅かな会話―――――
携帯でのやりとり。

勉強の邪魔をしちゃいけないとは思うけど、でも先輩だって気分転換も必要だろうし……。



「私、髪染めようかなって思うんだけど」
『え?』

「先輩と同じ金髪にしようかなって……」
『んー…、俺はせつらの黒髪気に入ってるからなぁ勿体ないな』
「でも、先輩と一緒がいい……」

『じゃあ俺が黒にするよ。
 そうすればせつらはこのままでいいだろう?』
「え……、う、うん…それでもいいけど」

『せつらは髪染めたいの?』
「うーん……」



染めたい――――と思う。

ただ去年の事件の所為で、風紀やら生活指導がやたら厳しくなっているから、もし今、髪を金に染めようものなら何か言われるのは目に見えている。
でも色々言われているはずの先輩は未だに金のままだし、だったら私も―――……。

勿論、この黒髪を気に入っていないわけではないし、飛鳥が好きだというなら尚更自信が持てる。でもやっぱり、黒というのはちょっと、重い。
私がどちらかと言えば大人しい、控えめな性格をしているのは、この黒髪であることも一つの理由になっている気がする。
飛鳥と同じようにもっと明るい色にしたなら、もっと開放的な、明るい性格になれる気がするのだ。

それになんといってもペアルックの方がいい、し……///



『とにかく――――、せつらが染めるくらいなら、俺が黒にするから。
 だから染めるなよ?』

「あ、うん、分かった。
 じゃあ邪魔しちゃ悪いし、そろそろ切るね。
 センター試験、明後日だよね。勉強、頑張ってね。
 わたし、電話いつでも待ってるから」

『おう、ありがとうな、せつら』





正直なところ、私が染めたいと強く言えなかったのは、もう一つ理由があった。

何かが、心の奥で引っ掛かっていた。

はっきり言って、学校から何か言われるとか、世間の目とかそんなことはどうでも良かった。
私はあんまりそういうのは気にしないタイプらしい。

じゃあなんなのかと言うと、それは自身のポリシーに反するから――――――とかそういうことではなく、もっと外的な要因で――――………、約束、そう―――――、昔、誰かと約束したきがするのだ。


誰かが、私の髪を褒めてくれて、染めちゃ駄目、切っちゃ駄目って――――……。


もしそんな約束をしたとすれば記憶を失う前に決まっているのだが、でも、どうしても思い出すことができない。



そんな感覚――――をなんとか辿ろうとしても、記憶は糢糊として判然としない。










とにかく、今、私は飛鳥と同じ色にしたいだけなのだ。





でも、それはもう、飛鳥が黒にしてくれるって言ったし…………





これ以上考える必要は――――……










ま、いっか――――――――………



















































第36話:染髪
終わり

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  第37話:不機嫌
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