2年B組―――――――
「せつら、また1年よろしくね♪」
「悠理っ、やったー同じクラス!!
こちらこそよろしくね!」
「私も同じクラスなんだからね!!」
クラス分けの掲示のあと新しい教室へ移動した私たちは手を取り合って喜んでいた。
私と悠理、萌は3人とも文系を選択し、そして再び同じクラスになることができたのだ。
学期末テストで私が学年3位をとってしまったものだから、萌がぶーぶー言ってたけど杞憂で済んで良かった。
時間はあっという間に流れ、私は高校2年生に進級していた。
それは同時に飛鳥が卒業したことを意味する。
これからも毎日通わなければいけないのに――――……、彼はもうこの学校にはいない……。
幸い、大学はここから電車通学できる距離だから、遠恋になることはないけれど……。
素直に順風満杯な人生―――と言いたかったけれど、一つ大きな問題は、飛鳥の卒業と共に、“空見せつら”となるはずだった私は、未だ“羅城せつら”のままだった。
いざ市役所へと足を運んだ私たちの婚姻届は受理されなかったのだ。
これは飛鳥の家の問題が関係してくるのだけれど、母方の姓である空見を名乗っていた飛鳥の戸籍がなぜか、父方の高浦になっていたのだ。
私の入院の便宜を図るために父と和解し、その跡を継ぐと決めた飛鳥はしかし、高浦を名乗ることを嫌がって、姓を変更するしないでご両親と一悶着起こしてしまったのだ。
私もてっきり『空見せつら』になるものだとばかり思っていたから、全く愛着のない高浦を名乗るのには少なからず抵抗があった。
挙げ句飛鳥は、高浦を名乗るくらいなら羅城の名をくれとまで言い出し、結局結論を出せないまま今に至る。
先輩も18歳、私も16歳。
早生まれの飛鳥の誕生日は3月で、誕生日に入籍という記念が欲しかったのに………。
まだお金がないから式もあげられないし、同棲もできないけれど、それでも戸籍上は夫婦になれるものだとばかり思っていたのに。
うーうー!
不意に私は、私のことをじっと見詰める視線に気付いた。
私が彼女を見ても、彼女は視線を逸らそうともせず、真っ直ぐに私を見ていた。
凛とした、しかし触れれば斬れてしまうような鋭い雰囲気を持つ少女。
名前を神楽羽織―――――。
1年の時、合同体育で一緒になった別クラスの子。
実はこの視線を感じるのは初めてではなかった。
そして彼女と視線を交わすのも。
でも未だ言葉は交わしたことがない。
悠理の話によると、以前私とよくマラソンで競っていたそうだけど、やはり私たちが会話をしているのは見たことがないらしい。
同じクラスになったのだから――――と、私は、思い切って彼女に近づき話しかけてみた。
「神楽―――――羽織さんだよね?
私、羅城せつら、よろしくね」
しかし差し出した手を彼女は取ろうとしなかった。
返事も返さず、顔を背けるとどこかへ行ってしまう。
彼女のその態度に、私の中に急に罪悪感が込み上げ、追いすがって彼女の手を取った。
「ごめん!あのっ、私、去年の記憶無くて!!
それで、覚えてないんだけど!
忘れちゃってて、ごめん―――!!」
「うん、知ってる――――」
そう言って顔を逸らした彼女はどこか寂しそうだった。
「あのっ、もし良かったらまた、友達になって欲しい。
折角同じクラスになったんだし!」
「うん―――――」
「良かった、ありがと」
もともと彼女とは友達だったかのかさえ分からないけれど、そうであってもそうでなくても、これから友達になればいいいのだから。
彼女とは住んでる世界が違うようで、でもどこか親近感を感じ、私はいい友達になれそうな気がした。
神楽さんのどこか居心地の悪そうな様子に、私が大声を出した所為で教室中の視線を集めてしまっていたことに気づき、私は恥ずかしさに顔を真っ赤に染めた。
悠理や萌にですら、どこか幼さを感じていた私も、下級生ができたことで、さらに精神的年齢を経たようだった。
第40話:進級
終わり