「最近せつら太ったんじゃない?」
「あ、私も思ったー」
(ぎっ――――――――――くっぅぅぅぅ!!)
喫茶店での突然の指摘に、私は思わずパフェを頬張っていた手を止めた。
そうなのだ。
実は春休みの間に体重が一気に5kg(!)も増えてしまっていたのだ。
私はもともと痩せ気味だったし、5kg増えたところでまだ標準範囲なのだけれど、いっきに5kgというのはやはり危機感を感じざるをえず……、かといって体のどこかにお肉がついたような気配もなく、だから、私は、
体重計の数値を信じないことにしていたんだけど―――――……
「え――――……、わたし、太って――、る……?」
「うーん……、少し顔が丸くなったよう――な……?」
「が―――――――ん!!」
まるで、頭を鈍器で殴られた気分がした。
激しい目眩に目の前が真っ暗になる。
「せ、せつら…?」
「う、ううっ―――――……」
頭を抱え、目眩が収まってから、不意に触れた目尻に涙まで出ていたことには我ながら吃驚した。体重計の方がおかしいんだと言い聞かせ、自分を誤魔化してきたものの、他人に指摘されてここまでショックを受けると想像だにしなかった。
指摘してくれたのが悠理で本当に良かったと思う。
もしも飛鳥に言われていたら立ち直れなかったかも知れない。
「せつら大丈夫?」
「う、うん…」
「まさか、幸せ太りってやつ?」
「うー……、いや、分かんない……。
でも最近、何食べても美味しくて、食べるの止まらないの。
家に帰ってからもついついポテチ2袋は食べちゃうし……。
ね、私顔丸い?」
「少しね?少しだけね?
でもせつらはもともと痩せてるし、今で丁度良いとは思うよ」
「ほんとに?ほんとにそう思う?」
「案外男って女の子に肉付いてた方がいいって人も多いみたいだし、いいんじゃない?
でもこれ以上太ったらやばいと思う」
「が―――――――――ん!!!」
(肉―――、肉―――、肉―――、肉―――……)
ああ、またしても目眩が……。
そう。
誤魔化してはきたものの、私が本当に感じている一番の恐怖は、この体重増加が止まらなかったらどうしようと言うことなのだ。
もしこれ以上太って飛鳥に嫌われたらと思うと、その恐怖の未来に背筋が凍り付く。
「先輩は何も言わないの?」
「う、うん」
最近自分が過食気味なのは自覚しているのだけれど、もう一つ思い当たる理由があるとすれば、それはジャンクフードが多いということだ。
しかも飛鳥との食事は殆どがそうなのだ。
その理由はというと、ホテル代がかさんで食事にお金がかけられないから……。
飛鳥には経済的に大きく負担をして貰っていて、私にはそれが心苦しく、できるだけ私の家に誘っていたのだけれど、一度している時にいつの間にかお父さんが帰ってきて、それに気付かずに二人して裸で台所に入っていったものだから、、、、※@+#$%!%&)$!”&(
お父さんは気にすることはないと笑っていたけれど、、、春休みの間に籍を入れていればまだ少しは堂々としていられたのだけれど、、、と、とにかく、それ以降家ではしていなくて、外でしちゃうこともしょっちゅうだけれど、やっぱり一番安心して繋がれるのはホテルで――――………
その所為で多い時は週に3〜4回ホテルに入っているし、春休みだけでラブホのポイントカードがもう一杯になっていたり、とにかく、そんな感じで。
高カロリー低栄養素―――――別に嫌いじゃないんだけど、そんなものばかり食べてる所為か便通も悪く、それが体重増加に拍車をかけている気もして――――――……。
単純な解決方法としては、ホテルへ行く回数を減らせばいいんだけど、やっぱりそういうわけにもいかなくて。
「はぁ―――――――――………、バイトしようかなぁ……」
長い溜息とともにでたのはそんな言葉だった。
ただでさえお父さんからは毎月少なくないお小遣いを貰っているのだけれど、まだ足りない。
デート代を保たすのに精一杯で、買いたい服も我慢しているのだ。
いっぱいお洒落して、飛鳥に飽きられないようにしたいのに。
「でもバイトなんてしたらデートする時間も、遊ぶ時間もなくなっちゃうよ」
「そうなんだよね〜〜〜……」
うーん…。
別にバイトすること自体に抵抗はない。
多分無難にファミレスかなんかでウェイトレスあたりになるんだろうけど、問題はやはり、時間を拘束されるのが――――、
まあ、働くんだから時間が無くなるのは当然なんだけど。
「はぁ――――――――――――――………」
と長い溜息を吐いている間に私は跡形も無くパフェを平らげていた。
「はぁ――――――――――――――………」
第41話:太った?
終わり