7月―――――……
精神的に一回りの成長を感じていた私は、日々の学生生活を謳歌していた。
結局バイトはしてないけれど、食費を羅城家の家計で負担して貰うことで何とかやりくりしている。
愛妻弁当――――…飛鳥と同じものをお父さんにもつくる条件で。
私は料理に関する知識がまったくなく、最初はとても苦労したけれど、自分の作ったお弁当を楽しみにしてくれる、食べてくれる人がいるというのはとても嬉しい。
それにそれは花嫁修業でもあった。
結局まだ私たちは籍を入れていないけれど、飛鳥は月に1度は私の家に来て、お父さんと3人で食事をし、家族の交流も深めている。
夏休み前の期末テストの出来も上々で、恋に友情に勉強にと、日々が充実していた。
飛鳥は新入生だし、医学生だし、帰りの遅くなることも多かったけれど、その分デートは濃密なたものになったし、えっちも―――――……、昨日なんてフィットネスクラブのシャワー室で繋がってしまった挙げ句、駐車場でもしてしまった。
私たちはいつでもラブラブだった。
そして悠理とは時々体験談を交換し合っている。
最近では黎さんがアナルセックスをしてみたいと言い出して困っているらしい。
まあ私が提供できるのは、私のオナニー妄想ネタと、どんな場所でしたか、だけなのだけれど。
私が飛鳥一人なのに対し、悠理は経験人数がどんどん増えていってる……。
多分、それが今、私たちの中で一番盛り上がっている話題――――。
私と悠理のデートの共通点は、飛鳥と黎の単車の後ろに乗ってツーリングにいくことだ。
そしてやっぱり人気のないところで、してしまったりする。
「今はもうさー、バイクの後ろでしがみついているだけで……、
条件反射的に濡れてきちゃったりしない……?」
「あるある(笑)」
萌が知ったら、きっともっと凄いことになるに違いないけれど、今のところ、二人だけの秘密。
8月、夏休み――――――――――
その日は悠理が私の部屋を訪れていた。
もはや定例となった、秘密のお茶会。
私たちだけの秘密を語り合う、少なからずの背徳感を否めない――――でも、とても興奮して、はしゃいでしまう、甘美な一時。
今日のために、沢山のお菓子とジュースを買い込んでおいた。
悠理もかなりの量を持参してきていた。
「せつらはまだ、空見さんが他の女の子としてるの想像してオナニーしてるの?」
「うん、まあね……w」
が、その日の悠理はどこか違っていた。
開口一番、凄い飛ばしかただ。
顔に似合わず大胆なことを口にしても、それでも決して恥を忘れないあの悠理が、堂々と、どこかぶっきらぼうにさえ見える。
「私も飛鳥の精液飲んでみたいなぁ―――…」
「え……?」
一瞬、彼女の言葉が理解できなかった。
聞き間違えかと思った。
(飛鳥の、精液、………?)
理解した直後、喉まで迫り上がってきたのは、激しい憎悪――――――
「やだ、せつらってば、そんな怖い顔しないでよ。
冗談だって」
「う、うん……、でも、冗談でもそんなこ……」
「嘘嘘、ほんとは飛鳥のおちんちん試してみたい。
今度貸してくれない?
ね、せつら、いいでしょ?
飛鳥もきっと私とヤってみたいって思ってると思うの」
(え、なに、これ―――――――――――?)
まるで心臓を鷲掴みにされたような―――――――、
「あれ?想像しちゃった?
もしかして、せつら、私の言葉に興奮してるの?」
「ぁ――――――――――……っ………!!」
苦しい―――――――――…
息が出来ない。
悠理がゆっくりと近づいてくる。
手が伸びる、私の体に触れる。
指先だけ。
喉元に、胸に、
私が着ているのはワンピ1枚だけ。
エアコンをかけているにもかかわらず、カンカンに照りつける太陽がじりじりと部屋を焼き付ける。
苦しい。
いつも、悠理との会話は興奮する。
でも、そんなんじゃない。
胸が締め付けられる。
苦しい――――――…
「私でも許せない?
飛鳥とするのは――――――」
飛鳥って言うな―――――!!!!!
飛鳥は私のものだ!!!
たとえ悠理でも、そんなこと―――――――!!!!!!
私は胸を押さえながら、悠理を睨みつけた。
悠理は笑っていた。
今まで見たことのないような貌で。
悠理が間近にまで接近した時―――――――――――…
私はその匂いにくらっときた。
それはアルコールの―――――――
「悠理――――、酔っ払ってるの――――――!!??」
「あは、ばれちゃった?」
「もおおおおおぉぉ――――……!!!」
私は呆れた。
そして同時に怒りを感じる。
折角楽しみにしていたお茶会なのに、お酒を飲んでくるなんて!!
っていうか、あんた未成年でしょうが!!
けれど怒ろうとして、でも怒れなかった。
あの悠理がお酒を飲むなんて。
「何か――――、あったの?」
「黎がね……」
そう呟いて、俯いてしまう。
「?」
「………」
「黎さんが?」
「………」
「悠理」
「………」
「話して?」
「黎が―――」
「黎が、他の子と、したいって―――――……」
泣いているのかとおもった。
しかし、悠理は泣いていなかった。
ただ、苦しそうに、俯いて。
「はぁ―――――――――――――――――――……」
私は大きく息を吐き出した。
「それって、浮気ってこと?
悠理公認で浮気させろって!?」
「うーん………、、、
そうじゃなくて、なんか………」
「じゃあなんだっていうの?」
「うーん……」
「悠理?」
悠理の態度ははっきりしていた。
酔っ払っている。
でも思考ははっきりしている。
分からないんじゃない。
悩んでるんじゃない。
言いたいことは分かっているのに―――――、言わない。
先ほどの私への虐めに対する怒りもあったが、酔っ払いということもあって自然と口調がきつくなってしまう。
「悠理?どういうことなの?」
「だからぁ……」
「だから?」
「黎、スワッピングしたいんだって………」
「スワッピング?」
「うーんとぉ……、
カップルがー、互いの恋人を交換し合って、するの……」
「は?」
「だからぁ、黎は―――――
飛鳥さんとせつらと、スワッピングしたいんだってぇ……」
「は?」
私一瞬固まり、それから急におかしくなって笑い始めた。
笑いを堪えられなかった。
「あはははっははははははははははははははははは――――」
「せつら…?」
「あっはははははははっははっはは――――――――」
「ちょ、ちょっと…」
「だ、だって…、あっはっはははっはははは――――――――――――――」
笑いすぎて腹筋が痛くて辛い。
目には涙が浮かんで止まらない。
っていうか苦しい。
ああ!!もぉぉぉぉ――――!!
笑うのが苦痛だ!!!
「せつら、笑いすぎ……」
「はぁっ―――はぁっ―――はぁっ―――…、ごめんっ、
あはっ、あははっ……はぁっ―――はぁっ―――……
だってぇ…………」
冗 談 じ ゃ な い 。
あの悠理が自棄酒を飲んでしまうくらいなのだから、彼女も余程悩んだに違いないが、それでもいくら何でも、有り得ない。
彼女には同情するけれど、いくら悠理でも、もし飛鳥に手をだすなら、私は、絶対に、許さない。
「それでね、飛鳥さんには黎から頼むから、
せつらには私から頼んでくれって、言われたの。
多分もう、会いに行ってると思う――――――」
「は――――?」
今度こそ、私はその全身を固めた。
第47話:お茶会
終わり