駄目だよ。
やめなよ。
自傷行為だよ。
せつらはただ自虐願望に取り憑かれてるだけだよ。
きっとまたいい人が見つかるから自分を大事にしたほうがいいよ。





確かに彼女の言っていることは正しいかも知れなかった。
けれどそれを彼女が言ったところで、一切の説得力もなく………。



萌は何度も私を止めてくれたけど、私は無理矢理に相手を紹介してくれるよう頼み込んだ。



セックス、そしてお金――――――……



別に私はセックスがしたいわけでも、お金が欲しいわけでもなかった。
ただ、この体に巣くう耐え難い虚無感や喪失感を、どうしても埋めたかった。


不意に泣き出してしまうことも、人肌の恋しくなる独り寝の夜も、もうごめんだった。
これ以上もう耐えきれなかった。


半身を失う、という表現があるが、私が感じている喪失感はそんな比じゃなかったのだ。

私は本当に、飛鳥が大好きで、彼が全てで――――……

どのみちこの先、愛せる男性など現れるはずもないし、飛鳥以外の男性を愛する気もない。
だから、私はもう、どうなってもよかった―――――…





スワッピングをしたお陰で、他の男とのセックスでも気持ち良くなれることは分かっている。
それは、去りゆく彼が残してくれた、ただ一つの生きる手段である気がした………。








































そして私は萌に紹介された40過ぎのオヤジに抱かれた――――――――――――……






























決して他人には触れられたくなかったのに。
飛鳥以外には触れられたくなかったのに。

それはあまりにも生々しい肉の触れあい。
擦りあわせ、食い込ませ、汗が境界線を滲ませ、粘膜同士を擦り付ける。










気持ち悪い

おぞましい

吐き気がする

でも、





気持ちいい――――――……










「いやらしい娘だ。
 この年でこんなに胸を膨らませて男を誘って――――――――。
 性感帯も大分開発されているようだな。うん?」
「ああああああああっ、あああっんんっ――――――――!!」



初めて出会う、オヤジが私を下卑た目で見下す。
思うがままに私の乳房を掴み、乳頭を口に含む。

飛鳥のためだけにある体に触れられているのに、私は拒むことなく、その行為を受け入れている。




男が、私の中で暴れる。
猛々しく熱り立たせた肉棒を、執拗に、何度も、何度も、延延と、私の奥へ奥へと打ち込んでくる。



激しい息づかいを耳元に感じ、更に舐められ、私は震え、仰け反り、喘ぐ。



「おじさんと一緒にイこうか?
 うん?」
「はぁっ――――はぁっ――――はぁっ――――…」
「全部中に出すよ」


私は頷く。
ゴムは付けている。


「ほら、いくよ、いくよ――――……
 せつらちゃんのオマンコに、おじさんのザーメンぶちまけるよ!!」
「ああっ、ああっ、ああああっ―――――――――――――!!!」





腹の奥に熱いほとばしりを感じた。





出された。
知らない男に。


会ったばかりの、しかも20以上も年上の男に、抱かれて、出された。




そしてイッた。




男のモノで。

あそこを掻かれて。

沢山出されて。





絶頂を迎えた。





それは、久しぶりに味わう、熱。

達成感。

恍惚感。





涙が出た。
なんの涙かは分からなかった。





たとえその裏側に、どんなに深い虚しさがこびりついていようとも、




今はただ、絶頂を迎えて喘ぐことだけを―――……






























私の初めての“売り”を、萌は心配して一緒についていてくれた。
そして私は彼女が見ている目の前で、激しくイッた。

ただ、性欲を満たすために肉体を使われているだけのセックスでも、私は十分にその快楽に耽ることができた。


僅か1時間足らずの行為の後――――――、手にした大金に、私は思わず笑った。





少し服を買っただけであっという間にお金は無くなった。



3人目―――――


4人目―――――


5人目―――――










私は萌と一緒に援交に精を出し始めた。
悠理とはすっかり疎遠になってしまって、今ではもっぱら萌と行動を共にすることが多くなっていた。

私は別に萌を救おうとか、彼女と一緒に堕ちようとか、そんなことを考えたわけじゃない。
私はただ、このどうしようもなくつまらない生活から、どんなことをしてでも抜け出したかっただけだ。





「せつら、少しは肌の手入れしなよ」
「ん……、でも……」


私にはもう……、綺麗になる必要が無い……。


「はぁ……。気持ちは分かるけどさ。
 売るんでしょ。じゃあもう商品でしょ。磨かないと」
「うん……」





でも萌といる時だけは、私は少し笑えるようになっていたのは事実で。

それは決して人には言えない、私たちだけの秘密で、秘密の行為で。
他人には知られてはいけない、悪戯で。










でもそんな私たち二人を動かしていたのは、負の感情。


自虐指向と破滅願望


それはきっと萌も同じ。

でなきゃこんなことしない。





















援交する度、見知らぬ男に抱かれて絶頂を迎える度に、私は泣いた。

気持ちがいいのに、どうしようもなく悲しみが溢れてきて心が一杯になってしまう。
そして勝手に涙がこぼれてしまう。


男には、気持ち良すぎて……、と言う。
それは単に、交渉を円滑に進めるため。
相手を喜ばせるため。
商品わたしを良く見せるため。



でも、本当は違う。



それは壊れないから。

壊れてくれないから。


早く壊れてしまいたいのに、



どこまでも堕ちて、壊れてしまいたいのに、壊れてくれないから―――………。





それがどうしようもなく、悲しくて、悲しくて――――――……






























6人目―――――



7人目―――――



8人目―――――










私の経験人数は日に日に増えていき、あっという間に2桁を超え、私はもう数えるのをやめた。





私は女の体を金の力で買う男を忌み嫌い、男も私を金で体を売る女だと蔑んだ。

私自身もまた、金で体を売る自分を嫌悪した。

お互いに蔑みあいながら、それでも買ってくれることに、売ってくれることに、少しばかりの感謝を持ちつつ、私たちの行為は行われる。



お金次第で相手の要望に応じることも多くなった。

口に出された精液も飲み込んだし、床に落ちた精液をすすったりもした。
汚いアナルに舌を這わせたし、3Pをしたこともある。
時にはホテル以外の場所で、外や車の中で相手をすることもあった。


男の欲望を理解し、演じ、喘ぎ、交渉し、金を貰う。


萌の連れてくる客は優良物件ばかりだったけれど、私も私なりに顧客リストを作り始めていた。





男を選ぶ基準はどれだけ金を持っているか、だ。

問題は金があるかないか。
容姿や年齢は関係ない。
身元を明かすことは安心に繋がるが、その殆どは信用できない。
信用できるのは、金を持っているか、だけだ。

それでも相手の身元には気を遣うようにしたし、できるだけ社会的信用を持っている高年齢のおじさんを選ぶようにしていた。複数プレイやマニアックなことをするのは常連だけ。
それでも危なそうな時は、萌と行動を共にして事件に巻き込まれないよう配慮した。

もっともこちらには最大の切り札がある。
私はまだ17歳で、最悪ばれても私は罪には問われないが、相手犯罪者となる。
金払いの悪い客は容赦なく脅し、二度と連絡を取らないようにした。


破滅願望があるといっても、自分から辛い思いをしたいわけではない。
ただ、壊れてしまいたいだけだ。





そして私はどんどん汚れていった――――――。





最近では萌の家に泊まることも多くなった。

常連客である金持ちのオヤジに萌と二人で相手をして以来、彼女にはいっそう親近感が湧いていた。基本的には二人で奉仕するといった内容だったけれど、少しだけレズプレイもさせられたのだ。

一度彼女に「篤志とやらせて」と言ったら、もの凄い嫌そうな顔をして、それからきっぱりと断られた。
こんなことをしていても、純な萌がとても可愛いらしい。

思わず、悠理たちとスワッピングをしたことを言おうとしてしまい、私はぎりぎりで押しとどめた。





もし、飛鳥が生きていたら、
萌が篤志とちゃんと付き合っていたら、

多分私たちは、切なく、辛い、歪んだ快楽を楽しめたに違いないのに。

そんな妄想までしてしまっていた。





でも実を言うと、篤志とやってみたいというのは嘘ではなかった。
というより彼女に断られたのがショックだった、という方が、多分正しい。

ショックと言っても、私は別に彼女に裏切られたわけではない。
ただ勝手に、私がそう感じてしまっただけだ。



私は羨ましかったのかも知れない。
彼女のことが―――……



たとえ私たちが同じような破滅願望を抱いていたとしても、彼女の未来にはまだ可能性があったから。たとえ今はどんな関係であったとしても、彼女が篤志と結ばれる可能性は決して無いわけではないのだから。



だから―――――……



だから………










彼女から篤志を寝取ってやりたい―――――――……










と、昏い、とても昏い願望が、私の中に潜んでいたのだった。





勿論、それは心の奥深くに押し込んで、ちゃんと蓋をしたけれど、
その前に一度だけ、萌に黙って篤志とやるのをオカズにオナニーをした。




















一方で、学校へ通い始め、再び学生として生活を始めた私に、父は安心したようだった。

もっとも、萌のように毎日ちゃんと登校する、などということは私には到底できず、私は半分以上無断欠席をするようになっていた。私にとってはもう授業や勉強は勿論、クラスメイトたちとの付き合いや教室にいること自体が億劫だった。
その所為で生活指導から目を付けられ、学校へ行くたびに何度も呼び出しを受けたけど、私は無視をし続けた。

当然、学校からお父さんのところにも連絡がいっているとは思うけれど、父は何も言ってこなかった。ばれないようにしようと思っても、金回りの良さは隠せるものではなく―――、でもやはり父は私に何も言わなかった。



家で一切の食事を摂らなくなった私は、完全に父と疎遠になっていた。






























12月―――――
気がついた時にはもう年の暮れ。


世間はいつの間にかクリスマス一色に染まっていた―――――――――



















































第60話:援交
終わり

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  第61話:同級生
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