私はイライラを抱えたまま、真っ直ぐ家に帰った。
父は出かけていないようだった。
私は自室でベッドの上に横になり、携帯を弄り続けていた。
一度はその気になったのに、直前でやめられた所為で欲求不満を感じていた。
なんだかむらむらする……。
きつく鼻を突いた雄の匂いがまだ脳髄に残ってしまっているようだった。
そして決めた。
私は1件のメールに返事を送った。
石場慎二―――――、48歳。
某広告代理店勤務。部長。
それは今夜3時間、ホテルで共に過ごすというもの―――――。
アブノーマルなプレイは一切無し。
条件も悪くない。
文章も丁寧で紳士的に思えた。
当たり前だけれど、紳士的、なだけで、本当の紳士とはほど遠い人物だ――――。
なにしろ女子高生の体を金で買おうというのだから。
私は常連ではなく新規の客を選んでいた。
常連と新規では、気苦労が違う。
でも常連の中から一人を選ぶというのが、何となく他の人に悪い気がして―――、選ばれなかった人に対する後ろめたさというか、でも同時に援交のオヤジ相手にそんな風に考えてしまうこと自体に、激しい嫌悪を感じ、
私は頑張って考えるのを放棄し―――――、
新規を選んだのだった。
もともと常連、などというものを作ってしまうこと自体間違いなのだ。
18:30――――――――――――――
私は電車に乗り、目的の場所へ向かいながら萌に一通のメールを出した。
それには、相手の名前、ホテルの名前と部屋番号、それから予定の所用時間が記載してある。
仕事が終わったあと、もう一度メールを出す。
これもまた私が考えたシステムのひとつ。
それは私と萌が相互扶助をするための保険。
見知らぬ男に身体を開く私たちが、心配があるときに使う手段。
予定時間を過ぎても仕事完了のメールが来ない場合、私たちは互いの携帯に連絡して安否を確かめるのだ。
何度かけても連絡がつかない場合は警察へ連絡することになっている。
ちなみに幸いにも、これまで一度もこの保険を使うような事態になったことはない。
篤志とえっちしている萌に、援交のメールを出すのは少し悔しい思いもするし、若干の当てつけになるような気もしたけれど、でもその実、彼女の状況は私となんら変わらない。
彼女は篤志に抱かれることが嬉しくて、同時に、とても辛い想いをしなければならないのだから……。
しかし私は呼び出されたホテルを一目見て、それが杞憂だったと分かった。
ラブホやビジネスホテルなど足元にも及ばない、豪華絢爛な一流ホテル。
私は思わず、メールに書かれたホテルの名前を何度も確かめてしまった。
これまでお金持ちのオヤジを相手に、豪華なホテルに泊まったことは何度もあるけれど、これは今までで一番いいかもしれない。
ロビーの置いてある椅子に座るだけで何万円もとられそうだ…。
(相手は一体どんな紳士だろう―――――?
部長って書いてあるけれど、実はどこかの社長?
政治家?もしかしてヤクザ?
今頃、萌は篤志としてるのかなぁ―――――……)
ふと、萌が、篤志から一回いくら貰っているのかが気になった。
それは以前も気になったことで、一度彼女に尋ねてみたけれど教えてくれなかったことだ。
篤志と金で関係をしているということをはっきりと私に言ったくせに、やはり、認めたくないのだろう。それが分かるから、私もそれ以上聞けなかったのだけれど、いけない好奇心だと分かっても単純に興味があった。
萌が篤志に一体いくらで買われているのか。
昼間の同級生は5千円と言ったけれど、篤志は家がお金持ちだからもっとかなぁ〜?
それとも逆に1コインとか。
一回500円とか、タダ同然でやられてたりして――――………。
私はフロントを通り過ぎ、直接部屋へと向かった。
(ちょっとけばくしすぎたかなぁ―――――)
通りすがり、壁鏡に映る自分の姿を見て、私は後悔した。
本来、清楚なお嬢様っぽいところが、私の売りだ。
しかし、それはそれで相手から“こんなガキなら手玉にとれる”などと勘違いされることもあるため、ある程度の威容は必要だった。
特に初めての客に対しては。
常連なら、多少好みを合わせることもできるけれど、今回の新規の客で特に注文も何もない。
でもこんな豪華なホテルを用意してくれたなら、多少の要望は聞いてあげてもいいと思った。
アブノーマルなプレイは無しと書いてあったけど、少しくらいなら――――………。
あ、ハメ撮りだけは絶対ダメだけどね。
私は鏡に写る自分の姿に、やはりどうしても納得がいかなかった。
下手に着飾ってしまったのが逆に安っぽい。
ホテルの雰囲気からすればそれが逆に徒になってしまっている。
私は一度レストルームへ入り、首と腕から、光り物を外した。
コートは派手だが、下は制服を着てきている。
それは相手がそのほうが喜ぶからだ。
相手は女子高生を買いたいのだから当然だ。
それから化粧を確かめた。
精神的なものからか、最近は特に肌荒れが酷い。
(まあ、こんなもんかな―――……)
鏡に写る自分の容姿の可愛らしさを誇らしく、同時に自分のしていることに虚しさを感じつつ、私はエレベーターへ乗りこみ、待ち合わせの部屋へと向かった。
19:05
805室―――――――――――
ほんの少し約束の時間に遅れてしまったけれど、これくらいは許容範囲だろう。
ノックするとすぐに応答があった。
扉が開き、中へと招かれる。
すぐに後ろを向き、奥へ入ってしまったために顔は見えなかった。
てっきり貫禄のあるおじさんだと予想していたのに、後ろ姿はどこかおどおどしている中年男性のようだった。
既にシャワーを浴びたらしく、バスローブ姿だ。
私は彼の背を追って部屋の中へと足を踏み入れる。
部屋の中はとても暖かかった。
そしてその装飾は、流石―――――、としか言いようのない豪華ぶりだった。
とにかく広い。
ベッドも大きい。
とても贅沢な間取りと造り。
思わず溜息の出てしまいそうな部屋を眺めていたら、強い視線を感じた。
男が私を見ている――――――。
何も言わない。
が、見ている。
これから抱く女を値踏みしているのか、はたまた私の容姿に見蕩れているのか、
それとももう、視姦しているのか―――――――…
私は男に見せつけるように、わざとゆっくりとコートを脱いだ。
手近な椅子にコートを掛ける。
本来ならきちんとハンガーにかけるところだが、商売時にはしない。
制服は脱がない。
男は皆、自分で脱がせたがる。
しかし、たかだか女子高生の援交にこんな部屋を用意するなんてなんて金の使い方だろう。
どうみても一流ホテル。
しかも今日はクリスマスイブ。
この部屋は一体、一泊幾らするのだろう――――…。
テクニックはそれなりに身につけたつもりだけれど、本職には敵うはずもない。
これだけ金があるなら高級風俗嬢でも呼べばいいのに、と思ってしまう。
ピルを飲んでいるとは言え、私は幾ら金を積まれても、絶対に生では挿れさせないし、中出しもさせないのに。
それとも女子高生というところに価値を置いてるのかもしれない。
これはちょっと頑張らないといけないかもー……。
私は初めての相手に緊張しつつも、そんなことを考え――――――……
男と目が合った。
固まる。
止まる。
体が、血の流れが、世界が、空気の流れが――――――――――――――
まるで、
まるでその時、世界が呼吸をやめたかのような錯覚を――――――――――――
「お、お父さん!?」
「せ、せつら―――、、、なのか―――――――――………!?」
暖かかった部屋が一瞬で凍り付いた。
外の冷気が部屋中に吹き込んだようだった。
その場の全ての家具を、空気さえも、凍り付かせたようだった。
私たちはお互いに顔を見合わせ、口をぱくぱくとするだけで、何も言えず――――――……
「はぁ…………」
暫くして、私は大きな溜息を一つ吐いて、その場に座り込んだ。
もう一度、大きな大きな溜息を吐き、やっと熱が戻ってくる。
ふかふかの絨毯は暖房の温もりを宿し、心地よい肌触りを伝えてくる。
でも頭の中はぐちゃぐちゃで何も考えられなかった。
怒っていいのか。
怒られるのか。
怒るべきなのか、それとも泣き叫ぶべきなのか。
とにかくもう、何をしたらいいのか、もう、何を考えたらいいのかさえ、分からなかった。
何かを考えるということ自体が、できなかった。
ぼんやりと顔をあげると、父はベッドに腰を下ろしこちらに背を向け、座っていた。。
私にはその背がやけに小さく見えて―――――――………
私は靴を脱いでベッドの上へとあがった。
そしてバスローブ姿の父の背にゆっくりと近づく。
「したいの?」
父の後ろから覆い被さり、その耳元で囁く。
父はびくっと震え、それから大きく首を横に振った。
「いいよ、石場さん。
ちゃんとお金くれれば―――――――――――」
「せつら!
何を!!!!!
何を馬鹿なことを言ってるんだ――――――!!!!」
父が私の体を振り払い、立ち上がって叫んだ。
しかしそのまま固まってしまう。
そしてすぐに顔を背け、再び俯き………
それはそうだろう。
女子高生を金で買おうとした人が、娘のしていることを叱ることなど、できるわけもない。
その時、突然ある曲が私の耳に入ってきた。
父がかけていたのだろう。
せっかくの高級ホテルの雰囲気をぶち壊しにするラジオ。
それはとても小さな音量で掛けられていて――――――――
でもそれは、はっきりと私の耳入ってきた。
私の心に触れるイントロ―――――……
最近ではまったく聴かなくなっていた曲。
だって歌は、
その時の記憶を、想いまでをも、簡単に呼び起こしてしまうから――――――……
流れてきたのは、飛鳥の好きだった、曲。
カラオケにいくと、彼がいつも歌っていた――――――…曲。
その曲の名にちなんでつけたのだ。
私を、天城 " 光 " と―――――――――
私はそっとベッドの上に横になった。
Yシャツのボタンを外し、少しだけスカートの裾を引き、目を閉じた。
そして聴き入る。
ボーカルの人の綺麗な歌声が、飛鳥の声と重なる。
とてもいい歌だった。
切なく、静かで、真っ直ぐで、それでいて激しい想いを込めた――――――――――…
ああ―――――――――――――――――――――……、、、
私の中で
彼が歌っている――――――――――――――――――……
どれくらいそうしていただろう………。
曲はとっくに終わってしまっていて、
でも私の頭の中ではいつまでも終わらないリフレインが続いていて―――――――――
一切の思考もなく、柔らかな布団と暖かな部屋の中で、
やがて静かな眠りに落ちそうになった時――――――――
私の頬を舌が這った。
顔にかかる荒い、息。
相手の興奮が、耳から、鼻から、肌から熱をもって伝わってくる。
男が私の服に手をかけた。
震えている。
震える手で、私のボタンを必死に外そうとしている。
私は動かなかった。
ただじっとしていた。
暫くしてブラを外され、胸が露わになった。
そして感じる、男の舌。
「あっ……、んっ………」
ぎこちない、触り方。
変な、舌使い。
もっと貪欲に、もっと乱暴に、触れてもいいのに。
男は私の首から胸、そして腹の隅々にまで舌を這わせた。
それは異常な程、執拗な、愛撫。
そしてスカートを捲り、パンツを脱がす。
男が指が、私のあそこに触れた。
かかる、息。
上半身はあれだけ舐めたくせに、あそこは舐めなかった。
執拗な愛撫に、もう私の方から開いていたのかも知れない。
すぐに男が、入ってきた。
結構、太い。
かなりの圧迫感がある。
膣壁を抉るように、掻いてくる。
でも………
これって………、もしかして………、
ゴム、つけていない――――――――……?
ま、いっか………。
「あっ、ああっ………」
自然と声が出た。
執拗な愛撫に既に体は発情している。
男のモノを今か今かと待ちわびていた膣を、大きくて硬いもので突かれ、
肉体が歓喜に奮えている。
お母さんも兄も出て行った。
お父さんに残されているのは、私だけ―――――……
兄のことで、お父さんがどれだけ辛い思いをしてきたか、私と暮らすために、お父さんが近所の人たちにどれだけ頭を下げて回ったか、私は知っている。
飛鳥が亡くなって、私はもう生きる意味を失って、死んでしまいたかった。
死だけを願っていた。
それでも今日まで生きていたのは、父のため―――――…
私を愛し、育ててくれた、父のため――――――……
だから
だからこの生命は、父の為に残しておいたものだから、
こうして父に使われるのは、とても正しいこと――――――……
「あんっ、あんっ、ああっ、あんっ、、、、」
喘ぐ私の唇を、男の口が塞いだ。
舌を入れられ、私もそれに舌を絡ませる。
「はぁっ―――、はぁっ―――、はぁっ―――、はぁっ―――」
「ああっ、あああっんっ、んんっ――――、あああっ、ああっ」
男の口が離れた
私の腰を掴み、勢いよく腰を打ち付け始める。
上り詰めるためのスパート。
私も、のぼり詰める。
「ああんっ、あああっ、激しいっ―――――――――
おちんちんっ、きてるよぉ―――――!!!
いっちゃう、いっちゃう!!!!」
私はただの一度も目を開かなかった。
男の行為に合わせ、相手をするだけ。
膣の中で男のものが大きく膨らむのが分かった。
いくのね
もういくのね
え――――――――――――――……
嘘………
中で、出してる………。。。
「はうぅ……ああぁあっっ――――――――――!!!!」
既に限界に近かった私は膣奥に迸る熱い粘液に、否応なくオーガズムに達した。
「はぁっ―――――……はぁっ―――――……はぁっ―――――……」
男が私の体の上にのしかかってきた。
汗だくだった。
私の背に腕を回し、抱きしめてくる。
そして時折ゆっくりと、腰を揺らす。
抜かず、また腰を動かし始めた。
すでに回復している。
いったばかりの膣奥を何度も突かれ、私は喘ぐ。
「ああっ、ああっ―――――……!!」
私は一度も目を開かず、男は一言も口をきかなかった。
男に促されるまま体位を変え、私は後ろから突かれた。
後ろから突きながら、覆い被さってくる。
男のアレの先が私の子宮口を何度も叩く。
一度注ぎ込んだ精液を、更に奥へ奥へと押し込めるかのように。
二回目とあって、男はなかなかいかなかった。
しかし衰えもせず、長時間攻め続けてくる。
「あんっ、あんっ、あんっ、
ああっ、あああっ――――――――――――!!!
んぐっ―――――んんんっ――――……」
男が後ろから私の口を塞いだ。
当然呼吸ができず、ぐもった声になってしまう。
まるで無理矢理、後ろから犯されているような、そんな、感覚。
私は激しく後ろから突かれ、再び絶頂を迎えた。
男が再び勢いをあげた。
達しようとしている。
「はぅぅん、ああぁんっ、ううっ、はぁぅっ、
あんっ、ああああっ――――――――――――」
私は絶え間なく襲い続ける快楽に、耐える。
男のモノがまた膨張した。
もうあそこはかなりぐちゃぐちゃなのに、なぜか手に取るように、くっきりと伝わってくる、射精前の波動。
ビュッ―――――――――!!
膣内に第一射が放たれ、次々と注ぎ込まれる、
「やっ、外に――――――!!」
私はなんとかそれだけ叫んだ。
私の声に反応した男はすぐに抜き、
それから私の背に、そして後頭部に、熱い粘液が飛んでくるのを感じた。
再び男が後ろから体重を載せてきた。
「はぁっ――――、はぁっ――――、はぁっ――――……」
「はぁっ――――、はぁっ――――、はぁっ――――……」
お互い荒い息を吐いていた。
男がもぞもぞと動き、また、挿れてきた。