翌日も、そしてその翌日も――――――……父は私を求めてきた。





私はただテレビを見続け、いつの間にか父が買ってきたものを冷蔵庫から取り出して食べるだけ―――――――……





昨日は初めて、口を求められた。
テレビを見ている私の目の前に、つきだしてきて…………





「ひかるちゃん、口あけて」





私が動かずにいると、唇を割って押し入れてきた。



そして彼はそのまま腰を振り始めた―――――――……



まるで、ダッチワイフにでもなった気分だった。





私がもう少し感情を持ち合わせていたら、
もう少しだけ感情の揺れを感じられていたら、
きっと私たちの関係は変わっていたに違いない。


でも私には怒るほど感情もなく、気力もなく、



リビングで、娘の口を犯し、腰を振る父親というおぞましい構図に、

私はそれを認めたくなくて、直視したくなくて、

だからやっぱり考えるのをやめて、彼に口を預けた。





彼がそうしたいなら、彼がそう望んでいるなら………

別にいっか。



ほとんど最悪な状況にいる気もするけれど、とりあえず挿れてくれれば気持ちよかったから。










1月4日―――――――……
私は久々に外出する羽目になっていた。
本当は家にいたかった。
でもどうしても、なんとしても一度、産婦人科へ行かなくてはならなかったのだ。

その日、父は外に出してはくれたものの、いつものようにゴムをつけておらず、私はピルを飲もうと自室にとりにいったけど、最悪なことにストックが無くなっていた。
一応シャワーで膣内の洗浄はしたけれど、それだけでは不安だった。

とても億劫だったけれど、父の子を孕むという恐ろしい未来を想像すると、私は行動せざるを得なかったのだ…。










街の中はとても閑散としていた。

人影は殆ど無く、鳥たちのかげさえ、見当たらなかった。

今日から平日だと、リポーターが言っていた気がするのに……。


寒い。
とても寒い――――――。

コートの中に手を突っ込んだ私は、殆ど条件反射的に携帯を取り出したけれど、電源が入らなかった。
プライベートも、営業用も、去年から放置したままとっくに電池が切れている。




















病院へ向かう途中、私は一組のカップルとすれ違った。



彼らは仲良く腕を繋ぎ、笑いあっていた。

交わしあう甘い言葉。


私の横を通り過ぎる時、不意に頬を寄せあったのが分かった。




















どうしようもなく、いらついた。





急に、体中に抑えきれない苛立ちが溢れていた。





どうしようもなく、むかついて、それはどんどん膨れ上がり、





抑えきれなくなって――――――――――――――





「うぜぇんだよ―――――――――――!!!!!」





気がついた時には後ろから、思い切り女に跳び蹴りを放っていた。

男を道連れに道路に倒れ込んだカップルの姿に、私はほくそ笑んだ。




(ざまあぁ―――――――――――!!!!)




男が顔を真っ赤にして立ち上がり、何か喚いて向かってきた。

私は衝動に突き動かされるまま、容赦ないカウンターをいれてやった。

男が再び地面に這いつくばる。



吠えた。
気がする。

分からない。
自分で何をしているのか分からない。


ただおかしかった。
腹の底から笑いが溢れてきていた。


おかしくて、楽しくて仕方がなかった。





「ひゃははは―――――――――」





それから走って逃げた。





走って、走って、走って、逃げた――――――――――――――……






























「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ…………」




なまっていた身体はすぐに音を上げ、私はすぐに走れなくなった。





(私、なに、やって……………)





「はぁっ……、はぁっ……、はぁっ…………」





もう自分がどこにいるの分からなかった。



どこに立っているのか、



今どの場所にいるのか、



何をしようとしていたのか、



それさえも、、、、





激しい目眩に倒れそうになって、必死に酸素を求めて喘ぐ横を、カップルが通り過ぎていった。





まるで私を汚いもののように大きく避け、見下すような視線を向けてきた。




「なにあれー……やだ、酔っ払い……?」




女が小声で言う。






(聞こえてんだよ――――――――……)






(ざっけんじゃねぇ―――――……、
 どいつもこいつも……… 
 こっちは、正月から親父に犯されてるってのに―――――――――!!!)






























私は拳を握りしめ、再び殴りかかっていた―――――――――――――――――――






























気がつくと私は警察署に拘留されていた。


すぐ横で制服をきた警官が、ずっと何かを言い続けていたけれど、私の耳には入らなかった。
言葉が、理解できない……。

いや言っていることは分かる。
分かるけれど、考える前に、答える前に、すぐに消えてしまう。
どこかにいってしまう。


だから私は、なにも、答えられなかった。










何時間も待って、父が迎えにきて、私は家へと帰った―――――――――――――……


















































父が私を抱きしめた。



「愛してる、、、、愛してるよ――――――……、、、、」



泣きながら、そう言った。




そしてきつく、きつく、私の体を抱きしめる。



私の胸を揉み、身体を貪り、至る所に触れた、手。
何度ものし掛かってきた身体。


ごつい手が私の頭を何度も撫でた。
何度も髪の毛を撫でつけた。



嬉しい?
気持ち悪い?




ううん、怖い――――――――……




怖かった。


彼が私に触れるのが。


父として抱きしめてくれているのか。
それとも女として抱きしめているのが。



もしも今、彼の股間に手をあてて、



もし、そこが硬くなっていた―――――――――……ら、、、、





私は………、、、、、










ねぇ、お父さん……?
この手は本当にお父さんのものなの……?










分からない……。もう……。



結局分からないままだから、



私もそっと―――――……彼の身体を抱きしめた。


















































その翌日、私は再び傷害事件を起こして、捕まった―――――――――――――――





























































第63話:父と娘
終わり

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  第64話:勧誘
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