その後、私の歓迎会だといって、皆でファミレス1店舗をまるまる占拠した。
散会してかなり減ったはずだけれど、まだ30人近くいるんじゃないだろうか。
ていうか、こんな特攻服だらけじゃ通報されかねないと思うんだけど―――――……。
席についてからというもの、ひたすら隣で私の勇姿を褒めちぎり、神羅雪への加入を喜ぶ羽織に、私はなんとか暫定加入にしてくれるよう頼み込んだ。
こういうグループは、入るのは簡単でも、抜ける時にはけじめだのなんだの、面倒くさいことになるに違いなかった。
神羅雪がどういう族なのかはまだ分からないが、族の掟なんかもきっとあるだろうし、私は単に、気まぐれで参加してみただけで、そういうのに縛られるのはまっぴら御免だった。
「ほんと、せつらはうちの期待を裏切らない奴だよなー。
な? どうだ凄いだろ!?」
「だろって言われても……。
っていうか羽織こそ一体何者なの?
前も剣道の授業で凄かったけどさ」
「あー、うちは実家が道場なだけだよ」
「なるほど、ね――――――……、
じゃあそれはいいとして、一つ聞きたいんだけど」
「あー、飛鳥さんのことね」
「……………」
気軽に飛鳥の名を呼んだ羽織に、私は再び態度を硬化させざるを得なかった。
彼が亡くなってもなお、私の嫉妬心は健在だった。
彼女の返答次第では私がどういう態度にでてしまうか、私自身分からなかった。
「話せば長くなるから、一言でいうけど、
飛鳥さんの兄貴と、私の姉がつきあってた――――てだけ」
「へ?」
いきなり毒気を抜かれた。
そういうことなら、羽織が飛鳥を知っていても仕方がない。
「そっか、うん、じゃあ、いいよ」
「せつらって、可愛いよな」
「…………」
「ほら、あんたの歓迎会なんだから遠慮なく食べなよ。
こんな細い腕じゃ、喧嘩もできないだろ?」
「喧嘩なんてしないって………」
私は飛鳥を失ってから、人付き合いがとても億劫で、ずっと避けてきた。
けれど見た目怖い彼女たちは、とても気さくな人たちばかりで、私はすぐに打ち解けていった―――――――――……
それがどうしてか分かっていた。
だって彼女たちはもう既に、私を仲間だと認めてくれている。
友達になろうとか、過去のこととか、そんなこと全然気にしていない。
多分これが仲間―――“ 族 ”なのだ。
ちょっと変わった人ばかりだけど、それでもみんな楽しい人たちだった。
先ほどはあまり可愛く見えなかった彼女たちが、今はなぜか、とても可愛く見えた。
あとから聞いたところによると、羽織は神楽流の正式な跡継ぎらしい。
神楽流は表舞台には立たない実戦格闘術で、なんでも神を護衛するために生まれた剣術だとか。でも神楽の家は廃れ、今や一子相伝の技で―――――…。
羽織に言わせれば、今、いつきさんに剣で勝てる相手は、姉の歌織さんを除けば今の日本には存在しない――――らしい。
しかし歌織さんは現在行方不明で、神楽の現当主は神羅雪の頭である七種いつきさん。
神楽の名を持たないいつきさんが、神楽の正式な当主となっているのは、現在その奥義を会得してるのが、歌織さんを除けば彼女だけで、羽織はまだ彼女に勝てないから仕方ないのだそうだ。
羽織はお姉さんのために神手黎羅を再建したかったそうだけど、それよりも先に、歌織さんの親友であるいつきさんが新たに神羅雪を立ち上げてしまった。
でも羽織は全てを受け入れている。
それはいつきさんが誰よりも歌織さんを慕っているのを、知っていたから―――――。
私が一番驚いたのは、羽織は神楽の家が嫌いで歌織さんがいなくなるまで、剣など絶対に握らず、ずっと普通の学生をやっていたそうだ。
でもお姉さんが行方不明になって、たった2年足らずで今くらいまで強くなったんだとか……。
血って怖い。
ちなみに。
その神を護るために生まれた剣術――――神楽に立ち向かった私の力は、完全に謎に包まれていた。
私はあれ以来、何度やっても羽織は勿論、他のメンバーの誰一人にも勝てなかった。
もともと喧嘩なんてしない私が、まともに打ちあえたこと自体有り得ない話で、私は本当は弱いんだよ、ということを何度も何度も説明して、どうにかみんなに納得して貰ったのだが、その時の出来事は「なぜか動きが全部見えてたんだよねー」と話のネタとして大活躍しているのだった。
第65話:神羅雪
終わり