神羅雪という新たな居場所を見つけた私は、不良少女という否定的アイデンティティを肯定することによって、逆に安定した精神状態を取り戻しつつあった。
少なくともいきなり通りすがりのカップルに殴りかかるなどと、馬鹿げた衝動を感じることはなくなっていた。

殆ど毎日の様に援交をしていたお陰で懐は暖かかったけれど、自分の単車を買う気にはなれなかった。それにもし乗るとするなら、私には50ccくらいのスクーターが丁度良く、でもそんなもので羽織たちと一緒に走れるわけもなく……。
なので、私はもっぱら羽織の後ろに座らせて貰っていた。

結局、学校はやめなかった。
それは神羅雪の皆から、どんなに成績が悪くても卒業だけはしとけ、とお節介ながらも親切心で口うるさく言われたのと、何より羽織が通っていたから―――。





羽織は、こんな駄目な私を、 とてもかってくれているから―――。
思えばずっとずっと以前から、
本当に高く評価してくれるから―――………

私から見れば、羽織の方がよっぽど凄くて、尊敬できるのに。
その彼女が私を、凄いと言ってくれるから。





だから、私は彼女の傍は居心地がよくて、つい甘えたくなってしまうのだった。





















「ねぇねぇ、さっき育江ちゃんに聞いたんだけど」
「ん?何を?」

「神羅雪って、メンバーの間で、結構できてる・・・・ってほんと?」
「あー、そうだね」

「それってつまり女同士でってことだよね?」
「うちは男厳禁だかんねー」

「え?それは族のルールで」
「そう、男とは付き合っちゃいけない掟」

「何のためにあるの?」
「さぁ、よくは分からないけど、伝統?」

「伝統って―――w」
「男はほら、女を喰い物にするじゃん?
 見下すって言うか、対等に見てないって言うか――――――」

「そんなことはないと思うけど……」
「ま、男が全部そうだとは言わないけど、往々にしてね」
 
「うーん……。。。
 あ、そうだ、もしかしてさ、羽織っていつきさんとできてたり―――――?
 あれぇ!!
 ちがうか――――!!
 羽織はお姉さんラブなんだっけ(笑)」

「うわっ……。
 せつら、あんた今、すごいいやらしい顔してんよ」

「えええっ!?
 そんなことないよ(笑)」

「うちといつきさんはそんなんじゃないよ。
 それにね………、
 うちはできたらあんたとそんな関係になりたいって……、
 ずっと前から―――――――……」





不意に羽織が顔を寄せてきた。

どこか目を細くして、唇を尖らせて……?

突然のことに私は反応できず―――――、


彼女は止まらず、





そのまま彼女の唇が私の唇と重なった。







「ちょ――――――――――――!!?!!!?」







えええ!?



って、えええ――――――――――――っ!?




えええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!?!????










「あははw 冗談だっつーのw
 ふふんっ。野次馬根性、丸出しにした罰だぜ」


「………………………」


「って、な、なに赤くなってんだよ!?
 ただの冗談だろ!?
 やめろよな、こっちが恥ずかしくなるだろ―――!!!」





ま、別に今更キスされるくらい、どうってことないけどさ……。

でも羽織が言うと、なんとなくしゃれにならないからやめて欲しい。



だって、ちょっと本気かって思っちゃった(汗










「あれ? 伝統、って言ったよね?
 じゃあ神手黎羅の時からじゃないの?」

「うん、多分そう。
 でもうちは神手黎羅に入ってたわけじゃねーし」

「だけど羽織のお姉さんと飛鳥のお兄さん付き合ってたんだよね?」

「んー……、正確には付き合ってない。
 好きあってた、だけ」

「そうなんだ……」

「当時はこの辺すっごい荒れてて、それでも神手黎羅だけはどこにも属さず、屈せずを貫いてたからね。羅刹に負けるまで―――――――――」

「……………」










また、その名。

羅刹……、面影も、記憶もない、行方不明の私の兄。
羽織のお姉さんを打ち負かし、暴行した……、私の、兄。

そしてその後、歌織さんは消息を絶った。

羽織からすれば、私の兄は、姉の仇ということになる。











「羅刹は、どこへ消えちまったんだろうな………」



そんなこと言われても、分からない……。



「ね、羽織、もしかして………、恨んでる?」

「そりゃ恨んでるよ。
 なにしろうちはお姉ちゃんラブだからね―――――」

「根に持ってる………」




今度は羽織が笑った。

あ、いやらしい、笑い方。

私もさっきあんな顔してたのかな。




「ま、別にあんたのことは恨んでないし、利用しようとか、これっぽっちも思ってないよ。
 うち、そういうまどろっこしいのは好きじゃないからね。
 でももし羅刹を見つけたら、あんたには悪いけど本気でぶちのめさせて貰う――――――」

「ううん、全然悪くないよ。
 別に私も、止めないし」

「そっか」

「うん」










昼は学校に通い、放課後になると時間の合う仲間で集まって走る。

一応やってることは、集団暴走、らしいけど――――、私からすれば気の合う仲間でドライブをしているようなものだ、と思う。
勿論、神羅雪の中にもマフラーを外して爆音を立てる人もいるけど、どちらかといえば少数派。

ちなみに羽織のはとっても普通。
彼女はとにかく、スピードが出せればそれでいいんだそうだ。

きっと彼女は本当に強いから、虚勢なんて一切張る必要がないんだと思う。

と本人にそう言ったら、耳を塞ぎたくなるほどおもいきりエンジンを噴かされた…(笑)





総会は月一度の定例日、もしくはいつきさんまたは幹部からの招集があったときだけにしかない。
ちなみに、羽織も3人いる幹部の1人で、他の2人は地元の人じゃなく、他で族のリーダーをやっていたのをいつきさんが引き抜いてきたという強者。






























2月―――――――――……





街はバレンタイン商戦真っ盛りだった。

どこもかしこもチョコレート。
素敵にデザインされたメッセージカード。
色とりどりにデコレートされたものや、可愛らしくラッピングされたチョコレートたちの姿に、私は去年のことを思い出す。



飛鳥は甘い物が大大大…大っ嫌いで、だからバレンタインにはなにもくれるなと言い張って。

私はすぐにビターチョコとかで、甘くないお菓子を作ろうと考えたのに、実際に甘くなくても見た目甘そうなものはダメなんだと何度も釘を刺されて。
せつらがくれたら食べないわけにはいかないから―――とか。
私は何も言わなかったのに――――……だから私は、きっと昔誰かに貰ったことがあるんだろうと、ちょっとした嫉妬心を抱いて―――――……
あの時は飛鳥は受験勉強に必死で余裕が無くて、私は暇で時間を持て余してたから余計に辛くて………。
結局、作ったけれど渡さずに自分で食べた、甘くないチョコレート……。



もし、あげたら、やっぱり嫌がったかな……。
でもあれだけ要らないって言われたら、渡せないよね……。





一つくらい、食べて欲しかったな……。




















「せつら、甘いもの好きなんだよな」
「え、羽織、なんで知ってるの?」

「時々パフェとか食べてるの見かけたからさ。
 ほんと、すげー嬉しそうに食うよな―――……」
「はぅ……」

「そっかーバレンタイン、か……。
 去年飛鳥さんには作ってあげたんだろ?」
「ううん―――、、、飛鳥、甘いもの大嫌いだから」

「そっか。ごめん………、
 だから、辛そうな顔してたのか」
「え、そんなこと……」

「お兄さんの方は甘いもの大好きだったのにな。
 兄弟でもほんと違うもんだな」
「そうなんだ……」

「あの歌織姉が、ケーキ作るくらいだもんなぁ……、ま、うちは嫌いだったけど!」
「え?ケーキが?」

「ケーキもだけど。男の方―――!!
 歌織姉が男を好きになるなんてほんと信じられなくてさ……。
 うち、歌織姉があの男のために作ったケーキ、全部食べてやった―――!!」

「あは―――――――……
 あははっはははははっ―――――――――!!!
 あはははははっあはっははっははっはははははっ―――――――――!!!
 なにそれw まじ、ウケるんだけどw
 ちょっともー、、 やめてよー、、、 笑い、止まらないじゃん――――――(笑)」

「笑いすぎだっつーのw」

「はぁっ―――――、はぁっ―――――、
 え、だってケーキも嫌いなんでしょ?全部食べれたの?」

「全部食べたよ。だって、いくら男がムカツクっていっても、
 歌織姉が作ったもの捨てるわけにはいかないし」

「ちょっともう、羽織ってば可愛すぎて……、よしよし――――………」

「こら、撫でるな!!
 おい、放せ、せつら―――――――――!!」

「おー、よしよし、よしよし」




















学校は決して居心地がいいとは言えなかったけれど、

それでも私にはまた笑いあえる場所ができたから、相手ができたから、










だから、私は、もう少しだけ、歩いて―――――――――――



















































第66話:居場所
終わり

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  第67話:叫び
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