結局、悠理は羽織の紹介で神羅雪のメンバーになった。


とはいえ、もともと運動も苦手で、文学少女だった彼女がアウトドアオンリーの暴走族について行くのは無理があった。
内輪で静かに話すのを好む彼女が、轟音轟く集団に打ち解けるのも辛そうだった。

それでも彼女の瞳は未だに黎を見ていた……。
それが私には嬉しくもあり、悲しくもあった。










私を唯一の生き残りとした去年の集団殺人事件以来、国家をあげての地域開発は一見、今も賑わっているようで、どこか暗い翳りを見せていることは誰の目にも明らかだった。

新参の移住者で溢れかえったこの街は、数ヶ月前の大学生集団暴行殺害事件を皮切りに、退廃の様相を見せていた。
特にここ最近、企業の開発誘致に関する摘発、政治献金や業者斡旋といったドロドロとした汚職の話題がニュースを独占するようになってからというもの、その傾向は一気に加速していた。

政府が打ち出した、輪光都市再生計画。
莫大な資金が投下されたその計画に、甘い蜜を吸おうと集まり食らいついてきた寄生虫たち。

当時、悪鬼や魔夜火紫と言った不良集団が悉く強制解散させられたにもかかわらず、新たに作られた神羅雪が依然放置されているのが、何よりの証拠だった。



とはいえ、神羅雪は道交法68条に違反するも、かなりお行儀のいい族ではあったのだが。


















































夜遅く家に帰ると父が裸で家の中を彷徨いていた。
暖房が効いているからそこまで寒くはないものの、下着すら身につけていないというのは異常だ。


「……………」


途端、さっきまで仲間と笑っていた私がどこかへと消え失せる。



私が私で無くなる。



私は気付かなかったふりをして、お風呂場へ向かった。
湯が沸いてるのを確かめて、お風呂へと入る。

かなり汗を掻いたから早く流してすっきりしたかったのだ。



しばらくして、脱衣場に気配を感じた。
まさか、とは思ったけれどその予感は的中し、風呂場のドアがゆっくりと、開いた。



私は年老いた肌の中、ぎんぎんに硬くなっているあそこを見つめていた。
ただ、それだけを見つめていた。

父と目を合わせるのが怖かった。

自分の肉体に、こんなにも欲情している父の目が、

いったいどんな目をしているのか、


どんな目で私を見ているのか、










知るのが、怖かった。



















だって、きっと、もう、彼の瞳に私は映っていないから――――――





















父は壊れてしまったのだろうか。
私のように。

お母さんも、兄も、そして飛鳥もなくして、私だけしかいなくなって――――………




父の周りには誰もいなかったのだろうか。



会社の人とか、友達とか………、誰も父を支えてくれなったのだろうか。





萌や、悠理や、羽織、仲間、そしていつきさんのように―――――――……


誰一人――――――……






























そっか………




















私が―――――――――……










私が、いた、のに………





私は自分ばっかり悲しくて……、





父のことを何一つ





父に対してなんの支えにも―――…




















私が、いけなかったんだ。





父とちゃんと向き合わなかったから。



いつまでも父から逃げて、



逃げて逃げて、



そうやって父を遠くの世界に追いやってしまったのは私だったんだ………。










この人は、どうしたら救われるのだろう。

私はどうすれば彼を救えるのだろう……。










「ひかるちゃん、おじさんと、背中、流しあいっこしよう」


いつもと変わらない声。
でも以前は感じられた震えは、もう、無い。


「おと……、おとー……………」
「おと?ん?」

「うん――――……、流してー……」
「ひかるちゃんの肌は綺麗だなぁ……」

「だって、まだ、17だもん……」
「そうかー、私の娘もそれくらいだなぁ……」


背中を優しく擦っていた父が、石鹸に泡だった手を私の胸に回した。
そして遠慮なく何度も揉み、撫で、乳首を弄ってくる。


「………っ………、そう…っ……なんだ……。
 娘と同じくらいの子にこんなことして……、おじさんはいけない人だね」

「ふふっ……
 ひかるちゃんがえっちな子に育ったのがいけないんだよ。
 ほら、もうこんなに乳首を硬くしてるじゃないか。
 おじさんのが欲しくて溜まらないんだろう?」

「……………、うん、、、、」

「じゃあ今度はおじさんのを綺麗にしてくれるかい?」



そして立ち上がる。
私の口元へ寄せる。

それは石鹸で洗えという意味ではない。

口での奉仕の、要求。



「ああ、ひかるちゃんはほんと口でするのが上手だね。
 誰に教わったんだい?彼氏かな?」

「……………………………………」

「ひかるちゃんは可愛いから、きっとみんな放っておかないんだろうね」

「そんなこと、ないよ。
 ひかるは、おじさん、だけだよ」

「ふふ、嬉しいことを言ってくれるね、
 このまま口に出してもいいかい?飲んでくれるかい?」

「うん…………」










「うちの湯船は二人一緒に入るのはちょっと狭いねぇ」

「………………」

「今度改築しようかな。もっと大きく」

「………………」

「どうしたの?元気ないの?ひかるちゃん?」

「………………」

「さっき中で出したのをまだ怒ってるのかい?
 ひかるちゃんの中があんまり気持ちいいものだから、ついね。
 そうだ、今度お詫びに何でも好きなものを買ってあげるから、許しておくれよ」

「………………」

「ほら、なんでもいいから、欲しいもの言ってごらん。」

「………、じゃあ、わたし…単車が欲しい……」

「単車?」


「バイク……」


「ええっ、、ひかるちゃん、バイクなんて欲しいのかい?」

「うん」

「ひかるちゃんがバイク乗るなんて知らなかったな。
 そういえば私の息子もバイクが好きでね、
 うちには今でも大きなバイクが残っているんだよ」

「……………」

「分かったよ。じゃあ今度おじさんと一緒に買いに行こう。
 一番いいやつ、買ってあげるからね」

「うん、ありがと………、パパ……」






























その日私は、初めて父と同じ布団で眠った―――――……。



















































第68話:同衾
終わり

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  第69話:継承
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